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一章
二人で
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(なんで……ここに……殿下がいるのよ……)
先ほどからずっと私と殿下の視線はぶつかったままだ。
お互いに一歩も動かない。
まるで時が止まったかのようだった。
私はというと、殿下のその蒼い瞳から目を逸らせないでいた。
殿下の青い瞳は美しいが、どこか恐ろしかった。
(この瞳……私が前世でよく殿下に向けられていたものと同じ……)
そう思うと体が震えた。
やはり私はまだ過去の呪縛から抜け出せないでいるらしい。
回帰してすぐの王宮で殿下に優しくされたとき、実はほんの少しだけ期待していたのだ。
今世の殿下は前世の殿下とは違うのではないかと。
だけど私が今向けられている目は間違いなく前世の殿下と同じだった。
あれがあと数年もするとさらに鋭くなるのだ。
(物凄く怖い……でも弱気になっちゃダメよ……今世では殿下と良き友人になると決めたのだから)
私はそう思い、動かなくなっていた足を無理矢理動かして殿下に話しかけにいこうとした。
しかし、それより先に殿下が私から目を逸らして奥の路地裏へと去って行ってしまった。
「!」
殿下が去って行って安心している自分もいた。
しかし、それ以上に――
(…………このままじゃダメだわ)
今の嫌われた状態のままいったら殿下が国王になったときフルール公爵家が不利益を被るかもしれない。
正直お父様のことは別にどうだってよかったが、私に親切にしてくれた公爵邸の使用人たちが苦しい思いをするのは耐えられない。
そう思うと私はいてもたってもいられず、殿下を追いかけていた。
「セシリア様!?そんなに急いでどちらへ!?」
隣にいたミリアが驚いた声を出して私を追いかける。
「お待ちください!セシリア様!」
私はミリアの制止も聞かずに、殿下が消えた方向へただただ走り続けた。
しばらく走ったところでようやく殿下を見つけることが出来た。
しかし彼は私を見るなりすぐに反対方向に歩き出した。
(待って……!)
「殿下!待ってください!」
殿下の後ろ姿にそう声を掛けると、ようやく殿下は立ち止まり振り返ってくれた。
「殿下……」
しかしその目はさっきと変わらず忌々しそうに私を見つめていた。
「……何故お前がここにいる?」
「殿下こそ何故……」
「――セシリア様ッ!急にどうなさっ……ええ!?グレイフォード王太子殿下!?!?」
遅れてやってきたミリアが殿下を見て驚愕する。
殿下はそんなミリアをちらりと一瞥してすぐ私に視線を戻した。
(……私が答えるのを待っているんだわ)
私は殿下の視線の意味を理解して口を開いた。
「私は王都に遊びに来たんです。殿下は?」
私がそう言うと殿下は呆れたような顔をした。
「……素直なヤツだな」
「それで、殿下は何しにここに来たんですか?」
私が尋ねると殿下は少しだけ黙り込んだ後に、視線を逸らしてボソッと言った。
「………………学びに」
「学びに、ですか?」
「……あぁ、俺は将来王になる身だからな。市井のことも知っておかなければいけないだろう?」
(そのわりには護衛の騎士も連れていないけど……)
王太子なのに護衛騎士も付けずに外出していいのだろうか。
公爵令嬢である私ですら騎士が二人付いたというのに。
私はそのことに疑問を抱いた。
「そうだったのですね、殿下は本当に勤勉ですね」
私がそう言うと殿下は黙り込んだ。
「――セシリア様、そろそろお帰りになりませんと……!」
そこでミリアが私と殿下の会話に割って入った。
どうやら殿下を警戒しているようだ。
それを聞いた殿下が私の方を見て口を開いた。
「俺も忙しい。お前の相手をしている暇はないんだ」
「!」
殿下の言い方に私は少しイラッとした。
何故こんなに嫌われているのだろうか。
その理由を知らない限りは次へ進めないような気がする。
(このままじゃダメ……また不幸な人生を歩むことになる……)
自分だけが幸せならいいだなんてそんな考えはついさっき捨てたのだ。
「……ます」
「何だ?」
「――私も殿下と一緒に行きます!」
「……」
「「!?!?!?」」
ミリアと殿下が二人同時に驚いた顔をした。
「セシリア様!」
ミリアが声を荒げた。
私を咎めているようだ。
「そんなことをしてお前になんの得があるんだ……」
殿下が呆れたように呟く。
きっとただの気まぐれでそんなことを言っていると思っているのだろう。
(ここは誠意を見せなければいけないわね)
「殿下は未来の国王でしょうが……私はその隣に立つ未来の王妃です。何でも一人でやろうとしないでください。私たちは婚約者同士ではありませんか。私も殿下と一緒に学んではいけませんか?」
(…………結局王妃になるのは別の方だけれどね)
「……」
殿下が私をじっと見つめた。
私も負けじと殿下を見つめ返した。
私よりも殿下の方が背が高いので見上げるような形になっている。
しばらくして、殿下がハァとため息をついた。
「……………好きにしろ」
「……!」
(やったわ!これで仲を深められるかもしれない!)
「ありがとうございます、殿下……!」
私はそう言って殿下に微笑みかけた。
私と殿下の会話を聞いていたミリアが私に話しかけた。
「セシリア様、本当に行かれるつもりなのですか?」
ミリアは心配そうに私を見ている。
「ええ、大丈夫よミリア!」
明るい顔でそう言ってみたが、それでもミリアの心配そうな表情は変わらなかった。
「ミリア、ここにいるのはグレイフォード・オルレリアン王太子殿下よ!それでも私が心配?」
「セシリア様……」
私のその言葉でミリアはようやく納得した顔をする。
「……分かりました。今回は王太子殿下を信じましょう」
「ありがとう、ミリア」
ミリアはそのまま来た道を戻って行った。
そして私は、殿下と二人きりになった。
先ほどからずっと私と殿下の視線はぶつかったままだ。
お互いに一歩も動かない。
まるで時が止まったかのようだった。
私はというと、殿下のその蒼い瞳から目を逸らせないでいた。
殿下の青い瞳は美しいが、どこか恐ろしかった。
(この瞳……私が前世でよく殿下に向けられていたものと同じ……)
そう思うと体が震えた。
やはり私はまだ過去の呪縛から抜け出せないでいるらしい。
回帰してすぐの王宮で殿下に優しくされたとき、実はほんの少しだけ期待していたのだ。
今世の殿下は前世の殿下とは違うのではないかと。
だけど私が今向けられている目は間違いなく前世の殿下と同じだった。
あれがあと数年もするとさらに鋭くなるのだ。
(物凄く怖い……でも弱気になっちゃダメよ……今世では殿下と良き友人になると決めたのだから)
私はそう思い、動かなくなっていた足を無理矢理動かして殿下に話しかけにいこうとした。
しかし、それより先に殿下が私から目を逸らして奥の路地裏へと去って行ってしまった。
「!」
殿下が去って行って安心している自分もいた。
しかし、それ以上に――
(…………このままじゃダメだわ)
今の嫌われた状態のままいったら殿下が国王になったときフルール公爵家が不利益を被るかもしれない。
正直お父様のことは別にどうだってよかったが、私に親切にしてくれた公爵邸の使用人たちが苦しい思いをするのは耐えられない。
そう思うと私はいてもたってもいられず、殿下を追いかけていた。
「セシリア様!?そんなに急いでどちらへ!?」
隣にいたミリアが驚いた声を出して私を追いかける。
「お待ちください!セシリア様!」
私はミリアの制止も聞かずに、殿下が消えた方向へただただ走り続けた。
しばらく走ったところでようやく殿下を見つけることが出来た。
しかし彼は私を見るなりすぐに反対方向に歩き出した。
(待って……!)
「殿下!待ってください!」
殿下の後ろ姿にそう声を掛けると、ようやく殿下は立ち止まり振り返ってくれた。
「殿下……」
しかしその目はさっきと変わらず忌々しそうに私を見つめていた。
「……何故お前がここにいる?」
「殿下こそ何故……」
「――セシリア様ッ!急にどうなさっ……ええ!?グレイフォード王太子殿下!?!?」
遅れてやってきたミリアが殿下を見て驚愕する。
殿下はそんなミリアをちらりと一瞥してすぐ私に視線を戻した。
(……私が答えるのを待っているんだわ)
私は殿下の視線の意味を理解して口を開いた。
「私は王都に遊びに来たんです。殿下は?」
私がそう言うと殿下は呆れたような顔をした。
「……素直なヤツだな」
「それで、殿下は何しにここに来たんですか?」
私が尋ねると殿下は少しだけ黙り込んだ後に、視線を逸らしてボソッと言った。
「………………学びに」
「学びに、ですか?」
「……あぁ、俺は将来王になる身だからな。市井のことも知っておかなければいけないだろう?」
(そのわりには護衛の騎士も連れていないけど……)
王太子なのに護衛騎士も付けずに外出していいのだろうか。
公爵令嬢である私ですら騎士が二人付いたというのに。
私はそのことに疑問を抱いた。
「そうだったのですね、殿下は本当に勤勉ですね」
私がそう言うと殿下は黙り込んだ。
「――セシリア様、そろそろお帰りになりませんと……!」
そこでミリアが私と殿下の会話に割って入った。
どうやら殿下を警戒しているようだ。
それを聞いた殿下が私の方を見て口を開いた。
「俺も忙しい。お前の相手をしている暇はないんだ」
「!」
殿下の言い方に私は少しイラッとした。
何故こんなに嫌われているのだろうか。
その理由を知らない限りは次へ進めないような気がする。
(このままじゃダメ……また不幸な人生を歩むことになる……)
自分だけが幸せならいいだなんてそんな考えはついさっき捨てたのだ。
「……ます」
「何だ?」
「――私も殿下と一緒に行きます!」
「……」
「「!?!?!?」」
ミリアと殿下が二人同時に驚いた顔をした。
「セシリア様!」
ミリアが声を荒げた。
私を咎めているようだ。
「そんなことをしてお前になんの得があるんだ……」
殿下が呆れたように呟く。
きっとただの気まぐれでそんなことを言っていると思っているのだろう。
(ここは誠意を見せなければいけないわね)
「殿下は未来の国王でしょうが……私はその隣に立つ未来の王妃です。何でも一人でやろうとしないでください。私たちは婚約者同士ではありませんか。私も殿下と一緒に学んではいけませんか?」
(…………結局王妃になるのは別の方だけれどね)
「……」
殿下が私をじっと見つめた。
私も負けじと殿下を見つめ返した。
私よりも殿下の方が背が高いので見上げるような形になっている。
しばらくして、殿下がハァとため息をついた。
「……………好きにしろ」
「……!」
(やったわ!これで仲を深められるかもしれない!)
「ありがとうございます、殿下……!」
私はそう言って殿下に微笑みかけた。
私と殿下の会話を聞いていたミリアが私に話しかけた。
「セシリア様、本当に行かれるつもりなのですか?」
ミリアは心配そうに私を見ている。
「ええ、大丈夫よミリア!」
明るい顔でそう言ってみたが、それでもミリアの心配そうな表情は変わらなかった。
「ミリア、ここにいるのはグレイフォード・オルレリアン王太子殿下よ!それでも私が心配?」
「セシリア様……」
私のその言葉でミリアはようやく納得した顔をする。
「……分かりました。今回は王太子殿下を信じましょう」
「ありがとう、ミリア」
ミリアはそのまま来た道を戻って行った。
そして私は、殿下と二人きりになった。
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