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一章

王都へ

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私は十三歳になった。


あのお茶会の後、マリアンヌ様とは交流を深め、友人になった。
お茶会に招待されていた他の令嬢たちとも良い関係を築けていると思う。
あの男爵令嬢以外の話だが。


婚約者であるグレイフォード殿下とは……


あの王宮での一件から全く話していない。


(次に会うのはもしかしたらデビュタントのときかもしれないわね……)


そう考えながら前世を思い出してみる。


私と殿下が結婚するのが十八歳の頃。
男爵令嬢が現れるのはその一年前。
そして、殿下が男爵令嬢を愛妾として迎えたのが結婚して二か月後だった。
少し早すぎるような気もするが、愛妾を作ること自体はこの国では別に珍しいことではない。


オルレリアン王国のかつての王たちも正妃以外にたくさんの側妃、愛妾をもったという。


それは王族だけではなく、貴族にも言えることだ。
王国の貴族の大半が政略的で愛のない結婚をしている。
愛人を作る貴族も多いと聞く。


現国王陛下の伴侶は王妃陛下のみだが「王」とは、「貴族」とはそういうものである。
だからといって殿下のように正妃を蔑ろにしていいわけではないのだが。


しかし今世の私は王妃になるつもりは全くない。
男爵令嬢に喜んでその座を譲ろうと思っている。


しかし、もし殿下に婚約破棄されたら父は私を勘当するかもしれない。
王子に婚約破棄された女にまともな縁談は来ないからだ。
したがってその場合は平民となって生きていくことになる。


(平民か……それもいいかもしれないわね……)


公爵令嬢がいきなり平民に落とされるなんて酷な話だと思うかもしれないが、私にとっては別にそれでもよかった。
何よりもう一度殿下と結婚して王宮であの地獄のような日々を過ごすよりかはマシだと思う。


小さい頃、仲の良かった使用人たちとお忍びで王都に行ったことがある。
質素ではあるがどこまでも自由だった平民に憧れを抱いたことを覚えている。


(私は……今までずっと色んなものに縛られて生きてきた)


私とは正反対の存在だった。
王都を自由に駆け回り、それをはしたないと叱られることもない。
平民たちは上質な服を着て毎日のように美味しい食事を食べることの出来る貴族を羨ましいとよく言うが、私からしたら彼らの方が羨ましかった。


貴族として生まれた以上、将来のことは大体決まっている。
男として生まれたのであれば家を継ぐことが出来るが女ならそうもいかない。
令嬢は家のためにどこかの貴族令息に嫁ぐしかない。
婚期を逃し、行き遅れともなれば修道院に入るしかなくなるのだ。


だから私はどこまでも自由な平民を羨ましいと思ったのだ。


(久々に……王都へ行ってみようかしら……)


前世では小さい頃に一度行っただけでそれっきりだった。
もう何年も前のことだし、王都もだいぶ変わっているだろう。
そう思うと居ても立っても居られない。


「ミリア、次にお父様が帰らない日はいつかしら?」


私は部屋の中にいたミリアに尋ねた。


「おそらく明後日になるかと思われます」
「明後日……」
「お嬢様?何かすることでもあるのですか?」


ミリアが不思議そうな顔をして尋ねた。


「ミリア、明後日王都へ行くわよ!」
「……………………………ええ!?」


ミリアにはかなり驚かれたが、私は無事に約束を取り付けることができた。




◇◆◇◆◇◆





そして約束の日になった。


さすがにミリアと二人きり……というわけにはいかず、護衛の騎士が二人ついた。
今は平民の姿をしているとはいえ、私の本来の身分は公爵令嬢。
こればっかりは仕方のないことだった。


王都へ向かう馬車に乗りながら私は考えた。


(どこに行こうかな……色々と変わっていると思うし……楽しみだわ!)


私は一人、馬車の中でウキウキしていた。
そしてそんな私をミリアは微笑ましそうに見つめていた。


しばらくして、王都に到着した。
私は護衛騎士の手を借りて馬車から降りた。


「セシリア様、どちらへ行きましょうか」


馬車から降りた私にミリアが声をかけた。


「もう、ミリアったら。何度も言ってるじゃない。今日の私たちは姉妹という設定なのだから敬語も様付けもダメよ!」
「姉妹にするには年が離れすぎかと……」
「ミリアは童顔なのだからいけるわ!」


それでもまだ恐縮するミリアを元気づけるようにして私は張り切って言う。


「さぁ、行くわよ!久々の王都!思いっきり楽しまないとね!」
「お、お待ちくださいセシリア様……!そんな風に走られては危ないですよ!」


そして、私はミリアを連れて王都の街を歩き出した。




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