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一章
目覚め
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「ッ!?!?!?」
私は再び目覚めた。
どこか見覚えのある天井が視界に入る。
少なくとも王宮にある王太子妃の部屋ではない。
「え……?私、死んだはずじゃ……?」
たしかに王宮のバルコニーから落ちて死んだはずだった。
しかし、今の私の体には傷一つ無かった。
「どうなっているの……?」
私は体を起こして周りをきょろきょろと見渡してみる。
そのときの私の目に入ったのは見慣れた部屋だった。
どこか懐かしさを感じてしまうほどに。
「……あ」
それを見た私は確信した。
間違いない、ここは公爵邸だ。
しかし、そうだとするといくつかの疑問が浮かび上がってくる。
「……一体何が起きているの?私、確かに王宮のバルコニーから飛び降りて死んだはずなのに……」
考え込んでいたそのとき、突然部屋の扉がノックされた。
「……!」
ガチャリとドアが開き、顔を見せたのは私の専属侍女のミリアだった。
私が公爵邸にいた頃に身の回りの世話をしてもらっていた侍女である。
「おはようございます、お嬢様」
ミリアはベッドから起き上がっている私を見てニッコリと笑った。
「ミリア……」
私は未だに目の前の状況に理解が追い付いていなかった。
何故私がここにいるのか、あれは夢だったのか、全く分からない。
「はい、お嬢様」
私は微笑みながらベッドの傍まで歩いてきたミリアに尋ねた。
「ミリア……今は……いつ……なのかしら……?」
「……」
そんな私の問いにミリアはポカンとした顔になった。
「お嬢様がそんなことをおっしゃるだなんて珍しいですね。今日は――」
ミリアはクスクスと笑いながら今日がいつかを教えてくれた。
ミリアの話によると、今の私は十二歳らしい。
今の状況から判断するに、私は十二歳の頃に戻ってしまったようだ。
信じられない話だが、私は本当に時を逆行をしたのだ。
(……嘘でしょう?こんなの、物語の中でしか見たことないわ)
私はこの状況を受け入れるまでかなり時間がかかった。
死ぬときの記憶が鮮明に残っていたからだ。
「……!」
私は王宮での生活を思い出して震え上がった。
(十二歳なら……殿下とは既に婚約してしまっているわ……何ということ……)
どうせ戻るなら殿下と婚約する前に戻りたかった。
そうすれば殿下の婚約者の座を回避することが出来たかもしれないのに。
王太子殿下と結婚したい令嬢は国内外問わずたくさんいる。
私が選ばれたのは身分が高かったからで、別に他の令嬢でもよかったはずだ。
さすがに愛妾だったあの男爵令嬢は身分的に不可能だが、伯爵家以上なら王族の婚約者になることが出来る。
私はこれからどうするべきかを必死で考えた。
もう既に殿下の婚約者になっている以上、早めに対策をしなければいけない。
(……………婚約、解消)
そこまで考えて慌てて首を横に振った。
今さら婚約解消を申し出てもあの父親が受け入れてくれるか。
いや、きっと却下されるだろう。
オルレリアン王国では、爵位を継げるのは男性のみだ。
お父様は爵位を継げない私を厄介払いしたいと思っているのだろう。
だから私を王太子殿下の婚約者にした。
それだけじゃない、娘が王妃になれば王家とお近づきになることも出来る。
つまり今よりも権力を持つことが出来るのだ。
貴族たちが必死になって自分の娘を王太子の婚約者にしようとしているのはそういう理由があった。
「……」
そんな父のことを考えると気分が悪くなった。
今でもオルレリアン王国の筆頭公爵家として圧倒的な権力を持っているというのに、何が不満なのだろうか。
そこで私は、ふと前世を思い出した。
前世での私は勉強しかしていなかった。
あの頃の私はただただ殿下に愛されたかったのだ。
厳しすぎる王妃教育に何度も心が折れそうになった。
――それでも勉強を頑張れば、殿下の婚約者に相応しい人間になれば、彼が私を見てくれると思って。
(……今思えば、本当に愚かだったわね)
しかし、結局殿下は別の人を愛した。
それはマナーのなっていない身分の低い令嬢だった。
あの愛妾を見るたびに物凄く惨めな思いになったし、心も痛くなった。
(……今度は間違えたりしない)
しかし私は、今世では殿下を愛するつもりは一切ない。
あのマリアとかいう男爵令嬢と結ばれたければそうすればいい。
私は邪魔しないから。
――何より、もう二度とあんな思いはしたくない。
前世であんなひどい目に遭ったのだから、今世では少しくらい自由に生きても罰は当たらないだろう。
私はそう思って部屋の中にいたミリアに話しかけた。
「ミリア、お出かけの準備をしてくれるかしら」
私のその言葉に、ミリアは驚いた顔をした。
「お嬢様、今日はお勉強をなさらないのですね!?」
彼女が驚くのも無理はない。
前世ではこの頃既に、私は朝から夜まで勉強に励んでいたから。
それが正しいことだと思っていた。
実際勉強をするのは悪いことではないから。
だけど、せっかく与えられた二度目の人生。
こうなったら好きに生きてやろう。
私はそう決意したのだ。
「ええ、勉強ばかりしているのも良くないかなって……」
「その通りです!お嬢様は頑張りすぎなんですよ!」
「……!」
そんなことを言ってくれるミリアに、何だか心が温かくなった。
前世ではミリアとは必要以上に関わろうとしなかった。
勉強に集中していたかったし、使用人たちは私のことを好いていないと思っていたからだ。
だけど、ミリアの反応を見るにそうではなかったということがすぐに分かった。
(ミリアがこんなに私を想ってくれていたなんて……)
今世ではたくさんミリアとお話しよう。
密かに心の中で誓った。
「お嬢様、どちらへ行かれるのですか?」
着替えを手伝っていたミリアが私に尋ねた。
「離れにある庭園へ。お花が綺麗に咲いていると聞いたことがあって」
それを聞いたミリアは明るい表情になった。
「それはいい提案です!私も一度見たことがありますがそれはそれは美しい場所で……!お嬢様の母君であるリーナ様も大層気に入っていらして……」
そこまで言ってミリアはハッとなった。
(…………ミリア)
彼女がこのような反応になったのは理由があった。
フルール公爵邸では亡くなった公爵夫人――つまり私のお母様の話はタブーとなっている。
使用人たちもそのことはよく知っている。
「申し訳ありません……お嬢様……」
ミリアは私に対して申し訳なさそうな顔で深く頭を下げた。
「いいのよ、ミリア。気にしないで」
自分の母親が父親に愛されていなかっただなんて子供には聞かせたくないことだろう。
夫に愛されない辛さは私が誰よりも知っていたから。
私はミリアに出かける準備をしてもらい、離れへと向かった。
もちろん彼女も一緒にだ。
「ミリア、私今日は一日離れにいることにするわ」
私がそう言うと、ミリアは心配そうな顔をした。
「えっ、一日ですか?お嬢様、今日は久しぶりに旦那様が帰宅する日で……」
「大丈夫よ、お父様は私がいなくなっても気にしたりしないわ。連絡なら使いを出せばいいでしょう」
「お嬢様……………かしこまりました」
ミリアは私の発言にグッと悲しげな表情を浮かべたが、渋々承諾した。
私の意思を尊重してくれるということだろう。
これで今日一日はのびのびと過ごせる。
そう思うと不思議と心が軽くなった。
私は再び目覚めた。
どこか見覚えのある天井が視界に入る。
少なくとも王宮にある王太子妃の部屋ではない。
「え……?私、死んだはずじゃ……?」
たしかに王宮のバルコニーから落ちて死んだはずだった。
しかし、今の私の体には傷一つ無かった。
「どうなっているの……?」
私は体を起こして周りをきょろきょろと見渡してみる。
そのときの私の目に入ったのは見慣れた部屋だった。
どこか懐かしさを感じてしまうほどに。
「……あ」
それを見た私は確信した。
間違いない、ここは公爵邸だ。
しかし、そうだとするといくつかの疑問が浮かび上がってくる。
「……一体何が起きているの?私、確かに王宮のバルコニーから飛び降りて死んだはずなのに……」
考え込んでいたそのとき、突然部屋の扉がノックされた。
「……!」
ガチャリとドアが開き、顔を見せたのは私の専属侍女のミリアだった。
私が公爵邸にいた頃に身の回りの世話をしてもらっていた侍女である。
「おはようございます、お嬢様」
ミリアはベッドから起き上がっている私を見てニッコリと笑った。
「ミリア……」
私は未だに目の前の状況に理解が追い付いていなかった。
何故私がここにいるのか、あれは夢だったのか、全く分からない。
「はい、お嬢様」
私は微笑みながらベッドの傍まで歩いてきたミリアに尋ねた。
「ミリア……今は……いつ……なのかしら……?」
「……」
そんな私の問いにミリアはポカンとした顔になった。
「お嬢様がそんなことをおっしゃるだなんて珍しいですね。今日は――」
ミリアはクスクスと笑いながら今日がいつかを教えてくれた。
ミリアの話によると、今の私は十二歳らしい。
今の状況から判断するに、私は十二歳の頃に戻ってしまったようだ。
信じられない話だが、私は本当に時を逆行をしたのだ。
(……嘘でしょう?こんなの、物語の中でしか見たことないわ)
私はこの状況を受け入れるまでかなり時間がかかった。
死ぬときの記憶が鮮明に残っていたからだ。
「……!」
私は王宮での生活を思い出して震え上がった。
(十二歳なら……殿下とは既に婚約してしまっているわ……何ということ……)
どうせ戻るなら殿下と婚約する前に戻りたかった。
そうすれば殿下の婚約者の座を回避することが出来たかもしれないのに。
王太子殿下と結婚したい令嬢は国内外問わずたくさんいる。
私が選ばれたのは身分が高かったからで、別に他の令嬢でもよかったはずだ。
さすがに愛妾だったあの男爵令嬢は身分的に不可能だが、伯爵家以上なら王族の婚約者になることが出来る。
私はこれからどうするべきかを必死で考えた。
もう既に殿下の婚約者になっている以上、早めに対策をしなければいけない。
(……………婚約、解消)
そこまで考えて慌てて首を横に振った。
今さら婚約解消を申し出てもあの父親が受け入れてくれるか。
いや、きっと却下されるだろう。
オルレリアン王国では、爵位を継げるのは男性のみだ。
お父様は爵位を継げない私を厄介払いしたいと思っているのだろう。
だから私を王太子殿下の婚約者にした。
それだけじゃない、娘が王妃になれば王家とお近づきになることも出来る。
つまり今よりも権力を持つことが出来るのだ。
貴族たちが必死になって自分の娘を王太子の婚約者にしようとしているのはそういう理由があった。
「……」
そんな父のことを考えると気分が悪くなった。
今でもオルレリアン王国の筆頭公爵家として圧倒的な権力を持っているというのに、何が不満なのだろうか。
そこで私は、ふと前世を思い出した。
前世での私は勉強しかしていなかった。
あの頃の私はただただ殿下に愛されたかったのだ。
厳しすぎる王妃教育に何度も心が折れそうになった。
――それでも勉強を頑張れば、殿下の婚約者に相応しい人間になれば、彼が私を見てくれると思って。
(……今思えば、本当に愚かだったわね)
しかし、結局殿下は別の人を愛した。
それはマナーのなっていない身分の低い令嬢だった。
あの愛妾を見るたびに物凄く惨めな思いになったし、心も痛くなった。
(……今度は間違えたりしない)
しかし私は、今世では殿下を愛するつもりは一切ない。
あのマリアとかいう男爵令嬢と結ばれたければそうすればいい。
私は邪魔しないから。
――何より、もう二度とあんな思いはしたくない。
前世であんなひどい目に遭ったのだから、今世では少しくらい自由に生きても罰は当たらないだろう。
私はそう思って部屋の中にいたミリアに話しかけた。
「ミリア、お出かけの準備をしてくれるかしら」
私のその言葉に、ミリアは驚いた顔をした。
「お嬢様、今日はお勉強をなさらないのですね!?」
彼女が驚くのも無理はない。
前世ではこの頃既に、私は朝から夜まで勉強に励んでいたから。
それが正しいことだと思っていた。
実際勉強をするのは悪いことではないから。
だけど、せっかく与えられた二度目の人生。
こうなったら好きに生きてやろう。
私はそう決意したのだ。
「ええ、勉強ばかりしているのも良くないかなって……」
「その通りです!お嬢様は頑張りすぎなんですよ!」
「……!」
そんなことを言ってくれるミリアに、何だか心が温かくなった。
前世ではミリアとは必要以上に関わろうとしなかった。
勉強に集中していたかったし、使用人たちは私のことを好いていないと思っていたからだ。
だけど、ミリアの反応を見るにそうではなかったということがすぐに分かった。
(ミリアがこんなに私を想ってくれていたなんて……)
今世ではたくさんミリアとお話しよう。
密かに心の中で誓った。
「お嬢様、どちらへ行かれるのですか?」
着替えを手伝っていたミリアが私に尋ねた。
「離れにある庭園へ。お花が綺麗に咲いていると聞いたことがあって」
それを聞いたミリアは明るい表情になった。
「それはいい提案です!私も一度見たことがありますがそれはそれは美しい場所で……!お嬢様の母君であるリーナ様も大層気に入っていらして……」
そこまで言ってミリアはハッとなった。
(…………ミリア)
彼女がこのような反応になったのは理由があった。
フルール公爵邸では亡くなった公爵夫人――つまり私のお母様の話はタブーとなっている。
使用人たちもそのことはよく知っている。
「申し訳ありません……お嬢様……」
ミリアは私に対して申し訳なさそうな顔で深く頭を下げた。
「いいのよ、ミリア。気にしないで」
自分の母親が父親に愛されていなかっただなんて子供には聞かせたくないことだろう。
夫に愛されない辛さは私が誰よりも知っていたから。
私はミリアに出かける準備をしてもらい、離れへと向かった。
もちろん彼女も一緒にだ。
「ミリア、私今日は一日離れにいることにするわ」
私がそう言うと、ミリアは心配そうな顔をした。
「えっ、一日ですか?お嬢様、今日は久しぶりに旦那様が帰宅する日で……」
「大丈夫よ、お父様は私がいなくなっても気にしたりしないわ。連絡なら使いを出せばいいでしょう」
「お嬢様……………かしこまりました」
ミリアは私の発言にグッと悲しげな表情を浮かべたが、渋々承諾した。
私の意思を尊重してくれるということだろう。
これで今日一日はのびのびと過ごせる。
そう思うと不思議と心が軽くなった。
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