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22 断罪の始まり

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「――ナイゼル王太子殿下にご挨拶申し上げます」
「……」


頭を下げ、挨拶をしても返事は返ってこない。
元々そこまで仲が良いわけではなかった上にビアンカ様のことがあったから当然だろう。
ビアンカ様が彼にとって敵であるのならば、私も同じはずだから。


少しして顔を上げると、不機嫌そうな殿下が目に入った。


「……何の用で来た」
「王太子殿下にお話がありまして」
「早く言え」


執務室の椅子に偉そうに座る彼の机には何も置かれていない。
王太子であるにもかかわらず全く仕事が出来ないから別の人が代わりをしているのだろう。
第二王子殿下の書斎は紙が山積みになっていたというのに。


(王太子妃にかまけて執務をしていないのね……)


こんな人が次期国王だなんて、国はどうなってしまうのだろう。


「……ところで、キャロライン王太子妃殿下はどちらにいらっしゃいますか?」
「生家である男爵家に帰っている。しばらく王宮にはいない」
「……そうですか」


思わず笑いが出そうになった。


(男爵家に帰っている、ねぇ……)


見え透いた嘘だ。
もちろん、ナイゼル王子は何も知らないだろうけど。


そのことで必死に笑いを堪えていると、彼が不快感を隠しきれないというように眉間に皺を寄せて口を開いた。


「キャロラインに嫌味を言うつもりでここに来たのか?」
「まさか、私が王太子殿下が大切にされている方にそのようなことをするとでも?」
「お前ならあり得るだろう」


(とんだ妄想だわ)


彼らにとってはいつだってキャロラインが被害者で私たちが加害者であるという認識なのだろう。
もちろん、実際は逆だが。


「殿下、最近キャロライン王太子妃殿下が第二王子殿下と親しくしているという噂をご存知ですか?」
「……根拠の無い話だ」
「本当にそうでしょうか?」


王太子が眉をピクリとさせた。


「……何が言いたい」
「いえ、ただ私は……王太子妃殿下の周囲には目を光らせておいた方が良いと思いまして」
「キャロラインが不貞をするとでも言いたいのか!?」


ナイゼル王子が机を手でドンッと叩いた。


「そうは言っておりません。ただ妃殿下はとても魅力的な方ですので、たとえ王太子妃という地位にいようと近付こうとしてくる輩もいるということです」
「……」


王子が黙り込んだ。
キャロラインが彼以外の高位貴族四人を虜にしていたことは学園では周知の事実だった。
当然、そのことは王子も知っているはず。
だからこそ、内心気が気ではないのだろう。


愚かな王子はキャロラインが不義密通なんてするわけがないと信じているようだが。


「殿下、私はただ殿下と妃殿下のことを心配しているだけなのです」
「お前……」
「私たちは妃殿下にとても大きな罪を犯しました。その償いがしたいのです」
「……」


胸に手を当て、大げさに演技をすると王子の表情が一変した。


(本当、単純な男ね)


こんな見え透いた芸をまんまと信じ込むとは。
やはり彼は王の器ではない。


私は椅子に座る殿下に一歩一歩ゆっくりと近付いた。


「殿下……」
「何だ」


そのまま殿下の前まで行くと、私はグレイ殿下と少しだけ似ている彼の瞳を正面からじっと見つめて口を開いた。


「――ヴォーチェ公爵家へ行ってください、キャロライン王太子妃殿下はそこにいます」




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