上 下
21 / 30

21 第二王子の考え

しおりを挟む
「よく来たな、公爵夫人」
「第二王子殿下にご挨拶申し上げます」


ある日の正午。
私は王子宮の一室にて、第二王子グレイと密かに会っていた。


王太子夫妻は新婚旅行に行っているらしく、今この国にはいない。
そして国王夫妻も基本的に第二王子殿下の動向を気にすることは無い。
それが功を奏した。


「久しぶりだな」
「お久しぶりです、殿下」


殿下に挨拶を済ませた私は、正面の椅子に座った。


「公爵は変わらないか?」
「はい、相変わらず家に帰ってくることはありません」
「そうか、王太子妃によく似たあの女に骨抜きになっているようだな」


殿下が眉をひそめた。
私は少し前にエイミーと遭遇したときのことを彼に話した。


「そうか……彼らも兄上も趣味が良くないな。まぁ、まともな女であれば四人の男の愛人なんてしないだろうが」
「まったくですね」


彼の言葉に頷いた。
兄と違ってまともな感性を持っているようで安心した。


ふと目の前にいる殿下をじっくりと見つめると、あることに気が付いた。


(グレイ殿下……寝不足かしら?)


久々に目にする殿下は何故か前に会ったときよりもやつれて見えた。
よく見たら目の下にクマがある、よく眠れていないのだろうか。


「殿下、とても疲れているように見えますが……」
「ああ……」


尋ねると、彼は額を手で押さえて溜息をついた。
どうやら何かわけがあるようだ。


「実は……王太子妃が何かと関わってくるようになってな」
「王太子妃殿下が?」


その名前を聞いた私は、不快感を隠しきれなかった。


(どうしてキャロラインが……)


殿下は義姉となったキャロラインに悩まされているようだった。


「突然茶に誘ったり、部屋にやってきたりと何を考えているのか……」
「面倒なことになりましたね、殿下」


(義弟になる人と仲良くなりたいのかしら?いいえ、でもキャロラインならそのような考えはしないはず……)


彼女は地位が高く、見目麗しい男が好きだった。
実際、学園内でも高位貴族ばかりをターゲットにしていたほどだ。


ナイゼル王太子の腹違いの弟であるグレイ殿下は地位の高さに加えて王国で最も美しいと称されていた。
考えられることはただ一つ。


(もしかして……グレイ殿下を狙っているというの……!?)


今度は第二王子殿下に狙いを定めたのか。
キャロラインは危険だ、男を落とす天才と言ってもいいだろう。


「殿下……王太子妃は殿下を狙っているのかもしれません……」
「そのようだな、おかげで兄上からは前よりもずっと警戒されているよ」


(ビアンカ様を蹴落としてまで王太子妃になったっていうのに……)


キャロラインが第二王子殿下を狙っている理由がどうしても理解出来なかった。
地位も夫からの愛も全てを得ている。
これほど幸せな女性はこの国にはいないだろう。


(悩みの種が一つ増えてしまったわね……)


聡明なグレイ殿下がキャロラインの手に落ちるとは思えないが、彼女の性格上一度狙った獲物は絶対に逃さないだろう。
王太子妃という身分である以上断り続けることも難しい。


だからこそこんなにも疲弊しているのだろう。
ビアンカ様を失った上に、その原因となった女と親しくしなければならないだなんて、彼の心中は計り知れない。


「殿下……」
「平気だ、これくらいでへこたれるような男ではないからな」


彼は私を安心させるように笑った。
その切ない笑みが余計に辛かった。


「実は……私に良い考えがあるんだ」
「……良い考え、でございますか……?」


殿下がニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「――ああ、アイツらを一斉排除する良い方法がな」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

待ち遠しかった卒業パーティー

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢アンネットは、暴力を振るう父、母亡き後に父の後妻になった継母からの虐め、嘘をついてアンネットの婚約者である第四王子シューベルを誘惑した異母姉を卒業パーティーを利用して断罪する予定だった。 しかし、その前にアンネットはシューベルから婚約破棄を言い渡された。 それによってシューベルも一緒にパーティーで断罪されるというお話です。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

君に愛は囁けない

しーしび
恋愛
姉が亡くなり、かつて姉の婚約者だったジルベールと婚約したセシル。 彼は社交界で引く手数多の美しい青年で、令嬢たちはこぞって彼に夢中。 愛らしいと噂の公爵令嬢だって彼への好意を隠そうとはしない。 けれど、彼はセシルに愛を囁く事はない。 セシルも彼に愛を囁けない。 だから、セシルは決めた。 ***** ※ゆるゆる設定 ※誤字脱字を何故か見つけられない病なので、ご容赦ください。努力はします。 ※日本語の勘違いもよくあります。方言もよく分かっていない田舎っぺです。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

【完結】殿下の本命は誰なのですか?

紫崎 藍華
恋愛
ローランド王子からリリアンを婚約者にすると告げられ婚約破棄されたクレア。 王命により決められた婚約なので勝手に破棄されたことを報告しなければならないのだが、そのときリリアンが倒れてしまった。 予想外の事態に正式な婚約破棄の手続きは後回しにされ、クレアは曖昧な立場のままローランド王子に振り回されることになる。

愛されなければお飾りなの?

まるまる⭐️
恋愛
 リベリアはお飾り王太子妃だ。  夫には学生時代から恋人がいた。それでも王家には私の実家の力が必要だったのだ。それなのに…。リベリアと婚姻を結ぶと直ぐ、般例を破ってまで彼女を側妃として迎え入れた。余程彼女を愛しているらしい。結婚前は2人を別れさせると約束した陛下は、私が嫁ぐとあっさりそれを認めた。親バカにも程がある。これではまるで詐欺だ。 そして、その彼が愛する側妃、ルルナレッタは伯爵令嬢。側妃どころか正妃にさえ立てる立場の彼女は今、夫の子を宿している。だから私は王宮の中では、愛する2人を引き裂いた邪魔者扱いだ。  ね? 絵に描いた様なお飾り王太子妃でしょう?   今のところは…だけどね。  結構テンプレ、設定ゆるゆるです。ん?と思う所は大きな心で受け止めて頂けると嬉しいです。

処理中です...