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19 本妻と愛人
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「アハハハハハッ!!!」
それを聞いたエイミーは腹を抱えて笑い始めた。
(私がアーノルドの本妻だって分かった途端に態度を変えるのね)
アーノルドに愛されているのは自分だという絶対的な自信があるようだ。
キャロラインとはまた違うタイプの悪女と言えるかもしれない。
(むしろ安心したわ。これで何の罪悪感も抱かずに叩きのめせるんだから)
こちらは既にエイミーがアーノルドの愛人であることは知っているが、ここは知らないフリをしなければならない。
「何がそんなに面白いのかしら?」
「アーノルド・フリーデル公爵の奥様だなんて……」
彼女は馬鹿にするように笑いながらこちらを見つめている。
寵愛の得られない正妻だと心の中で思っているのだろう。
「いえ、ただ可哀相だと思っただけですわ」
「……可哀相?」
「何て無礼な……!」
その瞬間、もう一度前に出そうになった侍女を手で制した。
「だって……夫からの愛も得られない正妻だなんて……」
「……」
エイミーはグッと顔を近付けて囁くように言った。
「旦那さん、家に帰って来ないんですよね?知ってますよ」
「誰かから聞いたのかしら?」
「見てれば分かりますよ、そんなの」
エイミーはキャハハと笑った。
可愛らしい顔が醜く歪んだ。
(こんなのを愛人にするだなんて……顔さえ似ていれば誰だって良かったのね)
アーノルドたちの趣味の悪さにはつくづく驚かされる。
キャロラインだって彼らが思っているような女神ではない。
エイミーの歪んだ笑みをじっと見つめていた私に、彼女が声を潜めてボソッと耳元で囁いた。
「ここだけの話なんですけど……私、旦那さんとは親しくさせていただいているんです」
「……私の夫と?」
「はい、旦那さんから奥さんの話をよく聞いているので」
彼女はフフフと面白そうに笑った。
(アーノルドがエイミーに私のことを話しているですって?)
彼がどんなことを言っているかなんて大体想像がつく。
それでも聞いてしまうのは夫の本心を知りたいという気持ちが僅かながらに残っていたからだろうか。
「……へぇ、夫は何と?」
「奥様は可愛くない、つまらないとおっしゃっておりましたわ」
そう言った彼女は口元を手で押さえ、笑いを堪えているように見える。
夫から嫌われている私を嘲笑っているのだろうか。
アーノルドに対する愛など既に無くなった私にとっては別に何とも無いが。
「よろしければ、私から旦那さんに言っておきましょうか?ちょっとは家に帰るように……と」
「……」
まるで自分からの忠言なら聞き入れると確信しているような言い方だ。
それだけアーノルドと近しい仲だということをアピールしたいのだろう。
本妻にとってこれほど惨めなことは無い。
「いいえ、結構よ」
「まぁ……そんなに強がらなくても……」
「強がってなんていないわ」
私は彼女の顔に自分の顔を近付け、その青い瞳をじっと見つめた。
「――夫は必要ないの。だって夫がいなくても家は回るし、困ることなんて何一つ無いもの。男に頼らないと生きていけない貴方とは違って、ね」
「……」
その言葉にエイミーは顔を真っ赤にし、体を小刻みに震わせた。
「行くわよ」
「はい、奥様」
そんな彼女を一人取り残し、私たちは帰りの馬車に向かった。
それを聞いたエイミーは腹を抱えて笑い始めた。
(私がアーノルドの本妻だって分かった途端に態度を変えるのね)
アーノルドに愛されているのは自分だという絶対的な自信があるようだ。
キャロラインとはまた違うタイプの悪女と言えるかもしれない。
(むしろ安心したわ。これで何の罪悪感も抱かずに叩きのめせるんだから)
こちらは既にエイミーがアーノルドの愛人であることは知っているが、ここは知らないフリをしなければならない。
「何がそんなに面白いのかしら?」
「アーノルド・フリーデル公爵の奥様だなんて……」
彼女は馬鹿にするように笑いながらこちらを見つめている。
寵愛の得られない正妻だと心の中で思っているのだろう。
「いえ、ただ可哀相だと思っただけですわ」
「……可哀相?」
「何て無礼な……!」
その瞬間、もう一度前に出そうになった侍女を手で制した。
「だって……夫からの愛も得られない正妻だなんて……」
「……」
エイミーはグッと顔を近付けて囁くように言った。
「旦那さん、家に帰って来ないんですよね?知ってますよ」
「誰かから聞いたのかしら?」
「見てれば分かりますよ、そんなの」
エイミーはキャハハと笑った。
可愛らしい顔が醜く歪んだ。
(こんなのを愛人にするだなんて……顔さえ似ていれば誰だって良かったのね)
アーノルドたちの趣味の悪さにはつくづく驚かされる。
キャロラインだって彼らが思っているような女神ではない。
エイミーの歪んだ笑みをじっと見つめていた私に、彼女が声を潜めてボソッと耳元で囁いた。
「ここだけの話なんですけど……私、旦那さんとは親しくさせていただいているんです」
「……私の夫と?」
「はい、旦那さんから奥さんの話をよく聞いているので」
彼女はフフフと面白そうに笑った。
(アーノルドがエイミーに私のことを話しているですって?)
彼がどんなことを言っているかなんて大体想像がつく。
それでも聞いてしまうのは夫の本心を知りたいという気持ちが僅かながらに残っていたからだろうか。
「……へぇ、夫は何と?」
「奥様は可愛くない、つまらないとおっしゃっておりましたわ」
そう言った彼女は口元を手で押さえ、笑いを堪えているように見える。
夫から嫌われている私を嘲笑っているのだろうか。
アーノルドに対する愛など既に無くなった私にとっては別に何とも無いが。
「よろしければ、私から旦那さんに言っておきましょうか?ちょっとは家に帰るように……と」
「……」
まるで自分からの忠言なら聞き入れると確信しているような言い方だ。
それだけアーノルドと近しい仲だということをアピールしたいのだろう。
本妻にとってこれほど惨めなことは無い。
「いいえ、結構よ」
「まぁ……そんなに強がらなくても……」
「強がってなんていないわ」
私は彼女の顔に自分の顔を近付け、その青い瞳をじっと見つめた。
「――夫は必要ないの。だって夫がいなくても家は回るし、困ることなんて何一つ無いもの。男に頼らないと生きていけない貴方とは違って、ね」
「……」
その言葉にエイミーは顔を真っ赤にし、体を小刻みに震わせた。
「行くわよ」
「はい、奥様」
そんな彼女を一人取り残し、私たちは帰りの馬車に向かった。
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