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14 唯一の女性 クリストファー視点

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「旦那様、今日は……」
「別邸へ帰る」
「そ、そうですか……」


返事を聞いた侍従がショックを受けたように暗い顔になった。


この暮らしがあまり良くないということくらい私だって分かっている。
しかし、どうしても生活を改めるという気にはなれなかった。


(あんな女のいる家になんて帰れるか……)


昔からの婚約者で数ヵ月前に結婚した妻は臆病で弱々しい女だった。
それを周囲の男たちは庇護欲をそそるなんて言っていたが、全く理解出来ない。


ただただ弱いだけの女。
どうせ男に守ってもらえばいいと思っているのだろう。
それが余計に私を苛立たせた。


キャロラインはそんなシルビアとは真逆で強い女性だった。
初めてキャロラインを見たとき、彼女は横暴な上級生から友人を守ろうとしていたのだ。


「やめてください!この子に手を出さないで!」


平民上がりで下位貴族の令嬢が権力者を前にそのような行動に出るとは。
何と強く逞しい女性なのだろう。


キャロラインに惹かれたのはそのときからだった。
今思えばきっと一目惚れだったのだろう。


それからは関わっていくうちにどんどん彼女のことを好きになっていた。


「クリストファー様はとてもかっこいいですね」
「そうか?」
「はい、クリストファー様以上の男性はこの世界にいません!」
「私以上の男はこの世にいない……」


キャロラインといる時間は本当に幸せで、本気で彼女と一緒になりたいと思うようになるまでそう時間はかからなかった。


(シルビアとの婚約は破棄だ……大体アイツとの間には愛なんて最初からなかったしな……)


そう思い、父に婚約破棄を伝えに行った日のことだった。


「そんな……何かの間違いだ……」


父から衝撃的な事実が伝えられた。
――キャロラインがナイゼル王子のプロポーズを受け入れたのだと。


キャロラインは私を愛していると言っていた。
それなのに、何故ナイゼル王子のプロポーズを受け入れたのか。
理解が追い付かなかった。


打ちひしがれている私に、父はハッキリと告げた。


「間違いではない。言っておくが婚約破棄は認めないからな」
「……!」


絶望で目の前が真っ暗になった。
私の人生の光だったキャロライン。
どう足掻いても彼女と一緒になれないのだという事実が重くのしかかった。


(キャロラインのいない世界で……どうやって生きていけと言うんだ……)


彼女のいない世界に生きている意味なんて感じなかった。


――そんな私にとってエイミーとの出会いは運命だった。
キャロラインによく似た容姿に、私は一瞬で恋に落ちてしまった。


性格や口調は少し違ったが、その顔を眺めているだけで満足だ。
他に男がいようとかまわなかった。


それだけ私はキャロラインに惚れ込んでいたのだろう。
彼女と一緒にいられるのなら、そんなこと気にもならなかった。


自分だけのものにしたいという気持ちが無いことも無かったが、エイミー本人が彼らを受け入れているのだから仕方が無い。
彼女の気持ちが一番大切だ。


輝く金色の髪も、大きくて丸い青色の瞳も全てが愛おしい。
彼女の傍にいれば、私はまたあのときのように幸せな気持ちでいられる。


(ああ……私の居場所はここだったんだな……)


屋敷にいる本妻のことなどとうに忘れ、エイミーと暮らす別邸に入り浸りとなっていた。



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