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12 最愛の彼女 バーナード視点

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(本当いつ会っても気に食わないな……見た目は良いのだからキャロラインのような可愛げが一欠片でもあれば愛してやったのに……)


そう思いながら、私は王都にある本邸から出た。


エイミーに勧められて久々に正妻の待つ家へ帰ったが、ただただ気分を悪くしただけだった。
妻となったあの女はいつだって高圧的で、一緒にいてとても疲れる。


(やっぱり私にはエイミーしかいない)


こんなときは彼女に会うに限る。
私の心を埋めてくれるのは現時点では彼女以外にはいない。


「エイミー!」
「あら、お帰りになられたのですね」


別邸へ戻ると、キャロラインに瓜二つな女性が柔らかい笑顔で私を出迎えた。


彼女の額にキスをし、柔らかく手入れが行き届いた金髪に触れた。
髪の毛にキスをすると、キャロラインがよく付けていた香水の香りが鼻をくすぐった。


(私がプレゼントした香水をしっかりと付けてくれているようだな)


キャロラインが好んでいたのと全く同じものを見つけるのにはかなり苦労したが、これも全て自分のためだ。
彼女には完全にキャロラインでいてもらわなければならなかった。


「君はいつ見ても本当に可愛らしいな」
「うふふ、バーナード様にそう言ってもらえるだなんて嬉しいですわ」


可愛らしい、キャロラインにそっくりなその見た目のことだ。
ただある程度の礼儀を弁えているその口調は少し気に障る。
キャロラインはもっと砕けた話し方だった。


(性格や喋り方までは難しいか……)


別に私はエイミーを愛しているわけではない。
私が愛しているのはあくまでキャロラインただ一人だ。
エイミーは代替品に過ぎない。


「そういえば、バーナード様がクッキーを焼いてほしいと言ったので作ってみましたわ」
「そうか……有難く頂くよ」


エイミーが差し出したクッキーを一つ口に運んだ。


(……やはり違うな)


キャロラインが作ったクッキーはもっと甘かった。
砂糖の量の違いにすら違和感を覚えてしまうほど、私は彼女が作ったクッキーを好んでいたらしい。


(やはりエイミーではキャロラインにはなれないのだろうか)


そんな絶望感が胸にのしかかったが、目の前のキャロラインによく似た顔を見るとそんなものは一瞬で吹き飛んでいった。
声を出さず、じっとしていれば彼女はまさにキャロラインそのものだった。


完璧なキャロラインにするためにその小さな口を本当に閉じてしまおうかとも考えたが、あの愛らしい笑顔を二度と見ることが出来ないのは耐えがたかった。


「バーナード様?どうかなさいましたか?」
「いや……何でもない」


ニコリと微笑むと、彼女は安心したように笑った。
しかし、すぐに暗く沈んだような顔になった。


「エイミー、どうかしたのか?」
「いえ……私、宰相様にこんなにも良くしていただいているのに何も返せていない気がして……」
「……」


その言葉を聞いた私の口が自然と動いた。


「何を言っているんだ、エイミー。君はただ私の隣にいればそれでいい」
「バーナード様……!」


エイミーが嬉しそうに笑った。
その笑顔に、私もつられて笑ってしまう。


そうだ、何もしなくていい。
ただ君は私の傍で微笑んでいるだけでいい。


(そうだな、私が求めすぎたからいけなかったのか……)


何もせず、ただ人形のようにじっとしているだけ。
――そうすれば彼女は完全にキャロラインとなる。



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