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10 失った最愛の人 アーノルド視点

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「戻ったぞ」
「あらぁ、お帰りなさい」


溜まっていた仕事が終わり、王宮から別邸へと帰宅した私は、帰るなりこちらへ駆け寄る彼女を強く抱き締めた。


「会いたかったです」
「私もだ」


ゆるくウェーブのかかった金髪に、大きい青い瞳。
私が人生で唯一愛した女性にそっくりな容姿。
彼女を見ているだけで私の心は満たされていった。


彼女の名前はエイミー。
平民なので姓は無い。
ただキャロラインに――心から愛した女にそっくりだから傍に置いている、それだけである。


(ああ、何て幸せなんだ……)


長くエイミーを抱き締めていると、セレナイト伯爵家のエイベルが不服そうに声を上げた。


「おい、アーノルド。お前抱擁が長すぎるぞ」
「良いだろう、仕事で疲れたのだからこれくらいさせてくれ」


エイベルは騎士団長の子息で、同時に恋敵でもあった。


(……この男とは幼い頃から一緒にいるが、どうも相容れないな)


伯爵家の分際で公爵家の当主である私にそのような口を利くとは、何様のつもりだ。
思えばコイツは昔から何かと私を見下していた。


(今すぐにでもこの家から追い出してやりたい……しかし……)


今の私にはこの屈強な男を追い出せるだけの力が無かった。
やり返されて終わるだけだろう。
エイミーにそのような情けない姿を見せるわけにはいかない。


「駄目だ!お前だけが独り占めするなんて不公平だ!」
「チッ……分かったよ、放せばいいんだろう」


私は泣く泣く彼女の体を放した。


(ハァ……何でコイツらがここにいるんだ)


私は今この別邸にて男四人、女一人での共同生活をしている。


本当なら本邸に帰るべきだが、あの忌まわしい女がいると思うとどうも気が滅入った。
幼い頃からの婚約者である妻のシェリルは最初から可愛げのない女だった。
美しい容姿をしてはいるが、いつも嘘くさい笑みを浮かべて静かに私の話を聞いているだけのつまらない女。
当然、あんなのに恋愛感情など抱けるはずが無い。


十五歳になり、学園でキャロラインと出会ったとき、私は初めて恋というものをした。
最初は可憐な容姿と愛らしい笑顔に惹かれて関わりを持ち始めた。
しかし彼女を知れば知るほど私の想いは強くなり、次第に大きな愛へと変化していった。
生まれて初めて抱く感情だった。


シェリルとは違っていつも愛らしく笑い、平民だった頃の珍しい話をたくさん聞かせてくれた。
学園で彼女といる時間はこの上なく幸せだった。
私はそれほどにキャロラインという女性に夢中になっていたのだ。


そうなれば邪魔になってくるのが婚約者のシェリルだ。
私はキャロラインに真剣だった。
たとえ世間から非難され、貴族社会にいられなくなったとしても、シェリルとの婚約を破棄してキャロラインを妻にするつもりだった。


(キャロラインにプロポーズするための指輪も買ったし……準備は整った!)


後は彼女にこの想いを伝えるだけ。


――キャロラインがナイゼル王子のプロポーズを受け入れたという噂が学園内に広まったのはちょうどその頃だった。


嘘だ、そんなはずは無い。
だって彼女は私を愛していると言っていた。
私のことが一番好きで、私以外は何も見えないのだと、たしかにそう言っていた。


(何かの間違いだ……こんなことあるはずが……)


直接彼女に話を聞こうと足を運ぶと、大勢の人に囲まれながらお互いを見つめて微笑み合うキャロラインとナイゼル王子の姿があった。
その時点で私は全てを察し、そのまま何も言うことなく踵を返した。


「ああ……」


激しい絶望感、彼女を失ったという喪失感。
何をするにも気力が湧かず、全てがどうでもよくなった。
生きているのに既に死んでいるかのような気分になってしまうほどだった。


そんなときにたまたま街中で見つけたのがキャロラインにそっくりなエイミーだった。
生き別れの双子かと思うほどに彼女はキャロラインに似ていた。


エイミーを見たとき、荒れ果てていた私の心に再び花が咲いた。
それから私は彼女を密かに別邸に囲い、愛人関係となった。


一度は失った最愛の女性。
今度こそ絶対に放さないと、彼女を生涯愛し続けると心に誓った。
が、しかし――


(コイツら好き勝手やりやがって……最初にエイミーを見つけたのは私なんだぞ!)


キャロラインに似た女性の噂をどこで聞きつけたのか気付けば一人、また一人と増え今では何と五人にもなった。
同居など私はもちろん断ったが、エイミー本人が彼らを受け入れ今に至る。


全員がエイミーの気を引こうと毎日必死になっている。
そんな状況に嫌気が差しながらも、私もまた彼らと同じように今の幸せを壊したくなかった。


「エイミー、今日は君に似合いそうなドレスを買ってきたんだ」
「まぁ、嬉しい!こんなにも美しいドレスは初めて着るわ!」


エイミーは嬉しそうに微笑んだ。
そうだ、そんな小さなことを気にする必要は無い。
彼女が笑顔でいてくれるなら、私はそれでいいのだ。




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