陛下、あなたが寵愛しているその女はどうやら敵国のスパイのようです。

ましゅぺちーの

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二度目のプロポーズ

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夜になった。
疲れていた体もだいぶ回復した私は、ある場所にいた。
実は王弟殿下に呼び出されていたのだ。


(ここでいいのかな……?)


私が彼に呼ばれた場所は王宮の庭園だった。
私と殿下の思い出がたくさん詰まってる場所。
彼が何をするつもりなのか、ある程度予想がついているからか何だかドキドキする。


「アルバート殿下……?こちらにいらっしゃいますか……?」


辺りは既に暗くなっているため、ほとんど何も見えない。
私は暗闇の中で彼の名前を呼んでみた。


「――カテリーナ」
「あ……」


そのとき、魔法で辺り一面を照らした彼が姿を現わした。
白シャツに、黒いズボン。
いつもと違って軽装姿の彼を見て胸が高鳴った。


「カテリーナ」
「殿下……」


彼は私の名前を呼んだ後、私にそっと手を差し出した。
私は迷うことなく彼の手に自分の手を重ねた。


「行こうか」
「はい……」


それから私の手を引いたまま、彼は歩き出した。
どこに行くのかは分からない。
だけど、不思議と彼とならどこへでも行けるような気がする。
私はもう彼にどこまでも付いて行くつもりだから。


(どこへ連れて行くつもりなんだろう……?)


しばらくして、殿下がある場所で立ち止まってこちらを振り返った。
彼がパチンと指を鳴らした途端、私たちのいた場所の辺り一帯が突如明るく照らされた。


「わぁ……!」


私は感動のあまり、思わず声を上げてしまった。


辺り一面には、色とりどりの花が美しく咲き誇っていた。
それらは明るい光に照らされてキラキラと輝いている。
時折吹く風に揺れるその花たちは、まるで生き物のように生き生きとしている。


(王宮の庭園にある花はこんなに綺麗だったかしら?)


その疑問を読んだのであろう殿下が口を開いた。


「君のために少しだけ魔法を頑張ってみたんだ」
「あ……」


王弟殿下は優秀な方ではあるが、グレンお兄様と違って魔法があまり得意ではない。
それなのに、私のためにわざわざここまでしてくれたというのか。


(本当に優しい人……)


そこで王弟殿下は少しだけ照れ臭そうにしながらも、私の前で跪いた。


「カテリーナ」
「はい……」


跪いた彼は、私の手を取ってそっと手の甲に口付けた。
そして、真摯な瞳で私を見上げた。


「初めて出会ったときから貴方のことが好きでした。絶対に幸せにしてみせます。どうか私と結婚してくれませんか」


殿下は私の手を両手でギュッと握りながら懇願するかのようにそう言った。
私の返事はもちろん決まっている。
彼がファルベ王国へ行ったときからずっと決めていたのだ。


「もちろんです、王弟殿下。貴方のような方に愛されるだなんて私は世界一の幸せ者です」
「……カテリーナ」


ニッコリと微笑みながらそう言うと、彼は嬉しそうに笑みを深めた。
そして立ち上がるなり、握っていた私の手を引っ張って腕の中に閉じ込めた。


「で、殿下……」
「カテリーナ、愛してる……」
「!?」


彼はそう言いながら強い力で私をギュッと抱き締めた。
お互いの心臓の音が聞こえてしまいそうなほど私たちの体は密着していた。


(……良い香り)


しばらくの間私を抱き締めた後、彼は上半身だけをそっと離した。
そして、至近距離で私の顔を覗き込んだ。


「カテリーナ、口付けをしてもいいか?」
「あ……はい……」


承諾した私は、目を閉じた。
少しして、私たちの唇が重なり合った。
夫であった陛下とも、口付けなどはしたことがない。


正真正銘、私のファーストキスだった。


「……」


それから少しして唇が離れ、目を開けると殿下がクスリと笑った。


「……ッ!」


こっちは恥ずかしくてたまらないというのに、何故そんな風に笑えるのだろうか。
このときばかりは彼を少しだけ恨めしく思った。


相変わらず顔の赤い私を見て、殿下がからかうように言った。


「顔が真っ赤だな、カテリーナ」
「き、気のせいです!そういうわりには殿下の耳も赤いじゃないですか!」
「これは……いや、違う」


否定しているが、彼の耳は破裂しそうなほどに赤く染まっている。
そんな殿下を見てフフッと笑った私を、彼は再び抱き締めた。


「本当に、愛している……」
「殿下……」


平然と愛の告白をする殿下。
彼はこんな人だっただろうか。
普段の殿下からは想像もつかない姿だ。


(私にだけ……ってことなのかな)


そう思うと、何だか嬉しくなる。


それから私たちはしばらくの間、花々が咲き誇る思い出の庭園でお互いをギュッと抱き締めた。

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