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ファルベ王国で
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「カテリーナ!大丈夫か!」
「お兄様……!」
慌てた様子のお兄様が私に駆け寄って来た。
「お兄様、私は大丈夫です。その……王弟殿下が守ってくださったので」
「無事で何よりだ……アルバート、お前のおかげだ。助かったよ」
「いいや、むしろ悪かった。全てお前に任せてしまって」
「そんなの気にするな。俺とお前の仲だろう」
お兄様はそう言いながら殿下の肩をポンポン叩いた。
それに殿下はクスリと笑みを浮かべる。
(やっぱり親友だなぁ……)
王弟殿下とグレンお兄様は昔からの仲で、一番の親友である。
しばらくの間笑みを浮かべながら殿下を見ていたお兄様だったが、突然真剣な表情になって口を開いた。
「それで、アルバート。どうだった?ファルベ王国に行ってきたんだろ?」
「ああ」
「…………ファルベ王国!?」
二人の会話を聞いていた私は驚きのあまり声を上げてしまった。
そんな私をチラリを見たお兄様が何かに納得したように言った。
「……あぁ、お前カテリーナに言ってなかったのか」
「……まぁな」
殿下は気まずそうに視線を逸らした。
「そりゃあ、カテリーナが不安になるわけだ」
「不安?」
「カテリーナ、お前がいなくてずっと不安そうにしてたぞ」
「何だって……?」
そこで殿下はクルリと私の方を向いた。
彼と視線がぶつかった。
「あっ……えっと……その……」
「――カテリーナ」
何て言おうか悩んだそのとき、殿下が私の名前を呼んだ。
「はい……」
「不安にさせて悪かった、カテリーナ」
そう言った彼は、本当に申し訳なさそうな顔をしていた。
「あ、いえ……」
「私は男として最低だな……」
「え!?」
項垂れた王弟殿下がとんでもないことを言い出したので、私は慌てて否定した。
「そ、そんなことないですよ殿下!こうやって無事に帰ってきてくださったんですからいいですよ!」
「カテリーナ……」
私が安心させるようにそう言っても殿下の表情は戻らない。
困り果てた私は、とりあえず話を逸らした。
「それより、早くお話を聞かせてください!」
「あぁ、それもそうだな」
私のその言葉で、殿下はポツリポツリとファルベ王国でのことを話し始めた。
「ファルベ王国の王――叔父上に会ってきた」
「国王陛下に……ですか?」
「あぁ、私だったからこそ謁見させてもらえたのだろう」
お兄様が殿下のその言葉に同調した。
「そうだな、お前以外の人間だったらどうなっていたか分からないからな」
「そうだ、だから私が直接行くしかないと思った」
(たしかに……)
殿下とお兄様の言う通りだ。
ニール王国とファルベ王国は仲が悪い。
先代王妃陛下であるヒルデガルド様の一件が原因で。
なので殿下は自分が直接行くしかないと判断したのだろう。
「既に調べがついていたことだが、クリスティーナの一件に関してはファルベ王国は無関係だ」
「あ、そういえばさっきも言ってましたね」
「ああ、クリスティーナの独断だ。上からの命令も無くこんなことをするだなんて、よほどニール王国が憎かったのだろう」
「……」
クリスティーナ様は亡きヒルデガルド様の専属侍女だったと言っていた。
だとしたら、礼儀作法やマナーは王女だったヒルデガルド様から教わったのだろうか。
もしそうなら全ての辻褄が合う。
「だからといって、ファルベ王国側に何の責任も取らせないわけにはいかない。こちらのせいだとはいえ、クリスティーナがしたことは無関係な民を巻き込む可能性があったのだからな」
「……」
たしかに、それを考えれば彼女のしたことは万死に値する。
「――ファルベ王国は、今後ニール王国に従わざるを得なくなった」
「それで、話がまとまったのですか?」
「ああ、私がニール王国の王になるならと叔父上も納得したよ」
「なるほど」
殿下はそこでコホンと咳払いをした。
「――そして、責任を取らなければならない人物はもう一人いる」
「……?」
「父上だ」
「あ……」
今回の一件の全ての元凶となった先王陛下。
陛下と殿下の父君――先王陛下はまだご存命で、陛下に王位を譲った後離宮で若い女たちを囲って暮らしていると聞く。
「父上はそのまま離宮に幽閉することにした」
「それでは、先王陛下の愛人の方々は……?」
「一生離宮から出られないというのはさすがに嫌だったのだろうな。そのことを伝えたところ、皆荷物をまとめて宮を出て行ったよ」
「あー……」
先王陛下が囲っていた愛人の方々は先王陛下を愛してはいなかったようだ。
(そういえば、陛下の母君である愛妾様にも浮気されたんだっけ……どうしてヒルデガルド様を大切に出来なかったんだろうなぁ……)
先王陛下を本気で愛していたヒルデガルド様こそ、最も大事にしなければならなかっただろう。
「アルバート、俺たちはまだまだ仕事がある。そろそろ行こう」
「ああ、それもそうだな」
殿下にそう言った後、お兄様は今度は私に対して口を開いた。
「カテリーナ、お前はもう部屋で休め。今日は色々あって疲れただろ」
「あ、ですが……」
二人に全てを任せて一人だけ休んでいるわけにはいかない。
そう思って口を開こうとしたとき、お兄様がそれを予想したかのように私の言葉を遮った。
「今まで陛下の元で散々苦労してきたんだ。今日くらい、俺たちに任せておけ」
「お兄様……」
隣にいる王弟殿下も私を見て無言で頷いている。
「……はい、分かりました」
結局私はお兄様のその言葉に甘えて、部屋に戻った。
「お兄様……!」
慌てた様子のお兄様が私に駆け寄って来た。
「お兄様、私は大丈夫です。その……王弟殿下が守ってくださったので」
「無事で何よりだ……アルバート、お前のおかげだ。助かったよ」
「いいや、むしろ悪かった。全てお前に任せてしまって」
「そんなの気にするな。俺とお前の仲だろう」
お兄様はそう言いながら殿下の肩をポンポン叩いた。
それに殿下はクスリと笑みを浮かべる。
(やっぱり親友だなぁ……)
王弟殿下とグレンお兄様は昔からの仲で、一番の親友である。
しばらくの間笑みを浮かべながら殿下を見ていたお兄様だったが、突然真剣な表情になって口を開いた。
「それで、アルバート。どうだった?ファルベ王国に行ってきたんだろ?」
「ああ」
「…………ファルベ王国!?」
二人の会話を聞いていた私は驚きのあまり声を上げてしまった。
そんな私をチラリを見たお兄様が何かに納得したように言った。
「……あぁ、お前カテリーナに言ってなかったのか」
「……まぁな」
殿下は気まずそうに視線を逸らした。
「そりゃあ、カテリーナが不安になるわけだ」
「不安?」
「カテリーナ、お前がいなくてずっと不安そうにしてたぞ」
「何だって……?」
そこで殿下はクルリと私の方を向いた。
彼と視線がぶつかった。
「あっ……えっと……その……」
「――カテリーナ」
何て言おうか悩んだそのとき、殿下が私の名前を呼んだ。
「はい……」
「不安にさせて悪かった、カテリーナ」
そう言った彼は、本当に申し訳なさそうな顔をしていた。
「あ、いえ……」
「私は男として最低だな……」
「え!?」
項垂れた王弟殿下がとんでもないことを言い出したので、私は慌てて否定した。
「そ、そんなことないですよ殿下!こうやって無事に帰ってきてくださったんですからいいですよ!」
「カテリーナ……」
私が安心させるようにそう言っても殿下の表情は戻らない。
困り果てた私は、とりあえず話を逸らした。
「それより、早くお話を聞かせてください!」
「あぁ、それもそうだな」
私のその言葉で、殿下はポツリポツリとファルベ王国でのことを話し始めた。
「ファルベ王国の王――叔父上に会ってきた」
「国王陛下に……ですか?」
「あぁ、私だったからこそ謁見させてもらえたのだろう」
お兄様が殿下のその言葉に同調した。
「そうだな、お前以外の人間だったらどうなっていたか分からないからな」
「そうだ、だから私が直接行くしかないと思った」
(たしかに……)
殿下とお兄様の言う通りだ。
ニール王国とファルベ王国は仲が悪い。
先代王妃陛下であるヒルデガルド様の一件が原因で。
なので殿下は自分が直接行くしかないと判断したのだろう。
「既に調べがついていたことだが、クリスティーナの一件に関してはファルベ王国は無関係だ」
「あ、そういえばさっきも言ってましたね」
「ああ、クリスティーナの独断だ。上からの命令も無くこんなことをするだなんて、よほどニール王国が憎かったのだろう」
「……」
クリスティーナ様は亡きヒルデガルド様の専属侍女だったと言っていた。
だとしたら、礼儀作法やマナーは王女だったヒルデガルド様から教わったのだろうか。
もしそうなら全ての辻褄が合う。
「だからといって、ファルベ王国側に何の責任も取らせないわけにはいかない。こちらのせいだとはいえ、クリスティーナがしたことは無関係な民を巻き込む可能性があったのだからな」
「……」
たしかに、それを考えれば彼女のしたことは万死に値する。
「――ファルベ王国は、今後ニール王国に従わざるを得なくなった」
「それで、話がまとまったのですか?」
「ああ、私がニール王国の王になるならと叔父上も納得したよ」
「なるほど」
殿下はそこでコホンと咳払いをした。
「――そして、責任を取らなければならない人物はもう一人いる」
「……?」
「父上だ」
「あ……」
今回の一件の全ての元凶となった先王陛下。
陛下と殿下の父君――先王陛下はまだご存命で、陛下に王位を譲った後離宮で若い女たちを囲って暮らしていると聞く。
「父上はそのまま離宮に幽閉することにした」
「それでは、先王陛下の愛人の方々は……?」
「一生離宮から出られないというのはさすがに嫌だったのだろうな。そのことを伝えたところ、皆荷物をまとめて宮を出て行ったよ」
「あー……」
先王陛下が囲っていた愛人の方々は先王陛下を愛してはいなかったようだ。
(そういえば、陛下の母君である愛妾様にも浮気されたんだっけ……どうしてヒルデガルド様を大切に出来なかったんだろうなぁ……)
先王陛下を本気で愛していたヒルデガルド様こそ、最も大事にしなければならなかっただろう。
「アルバート、俺たちはまだまだ仕事がある。そろそろ行こう」
「ああ、それもそうだな」
殿下にそう言った後、お兄様は今度は私に対して口を開いた。
「カテリーナ、お前はもう部屋で休め。今日は色々あって疲れただろ」
「あ、ですが……」
二人に全てを任せて一人だけ休んでいるわけにはいかない。
そう思って口を開こうとしたとき、お兄様がそれを予想したかのように私の言葉を遮った。
「今まで陛下の元で散々苦労してきたんだ。今日くらい、俺たちに任せておけ」
「お兄様……」
隣にいる王弟殿下も私を見て無言で頷いている。
「……はい、分かりました」
結局私はお兄様のその言葉に甘えて、部屋に戻った。
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