28 / 37
舞踏会②
しおりを挟む
私はグレンお兄様と共に会場への道のりを歩いた。
隣を歩くお兄様がボソッと私に言った。
「陛下の愚行は俺が既に社交界に広めておいた。あの場にあの男の味方はおそらくいないだろう」
「お兄様、さすがですわね」
それからしばらくして、会場に到着した。
この扉の前に立ったところでいつもは何ともないのに、今日に限って何だかドキドキする。
隣にいるお兄様は、覚悟を決めたように前を見ていた。
(そうよね……私もしっかりしないと!)
やはりお兄様に比べると私はまだまだだ。
自分の未熟さを改めて思い知った。
「――王妃陛下と公爵閣下です!」
その声で、私とお兄様は会場へと足を踏み入れた。
既に到着していた貴族たちが、私を見てヒソヒソしている。
「王妃陛下よ……隣にいるのは兄君であらせられる公爵閣下よね?国王陛下はどうしたのかしら……」
「知らないのか?陛下はもうあの愛妾にご執心なんだぞ」
こうなることはある程度予想していたため、別に何とも思わなかった。
(お兄様が隣にいてくれてよかった……)
グレンお兄様が来てくれていなければ、私は一人で入場することになっていただろう。
考えるだけでも恐ろしい。
(だけど、陛下と一緒に歩くときよりも何だか居心地が良いわ)
私が陛下と隣り合って歩くことはもう二度と無い。
別に寂しくもないが。
それから私たちは会場の隅へと移動した。
王妃である私が入場したので、次に入場する人物はもう決まっている。
「――国王陛下とクリスティーナ様です!」
正装姿の国王陛下と、美しい装いをしたクリスティーナ様が会場へ入って来た。
二人を見た貴族たちの間に再びざわめきが起きる。
「やっぱりあの噂は本当だったのね……!」
「平民の女を舞踏会に連れてくるだなんて非常識にも程がある……!」
「誰か暗殺してくれねえかな……」
一国の王に対して言う言葉ではないものもちらほら。
入場を終えた二人は、お互いを見つめてフフッと微笑み合った。
陛下はそんな彼女を見つめて頬を染めている。
舞踏会用のドレスに着替えたクリスティーナ様はまるで妖精のように美しかった。
(本当に、お似合いな二人だこと)
しかしこの後、陛下がとんでもない行動に出ることを私はまだ知らなかった。
(さて、あの二人はどう動くのかしら?)
私はお兄様の横で二人の動きを注意深く観察していた。
こうしている理由は、あの二人を断罪する機会をしっかりと見極める必要があったからだ。
入場を終えた陛下はクリスティーナ様をダンスに誘った。
嬉しそうに陛下の手を取るクリスティーナ様。
そうして二人はホールの中央で踊り始めた。
美男美女である二人の踊る姿はとても美しかったが、貴族たちはそれを冷めた目で見ていた。
(やっぱりただの平民じゃないわね、知ってたけど)
平民がダンスなど踊れるはずがない。
陛下は何故それに気付かないのだろうか。
しばらくして、楽団が演奏を止め、二人のダンスが終了した。
(このあとはどうするつもりかしら?)
ダンスを終えた陛下は、クリスティーナ様の手を引いた。
会場の外にでも出るつもりか、と思っていたそのとき、陛下が信じられない行動に出た。
「……冗談でしょう?」
私ですら無意識に声を出してしまった。
何と陛下が、王の隣にある王妃の椅子にクリスティーナ様を座らせたのだ。
(……へぇ、そう出るのね)
これにはいくら私でも不快感を隠しきれなかった。
「「「!?!?!?」」」
陛下の暴挙に信じられないというような顔をする貴族たち。
その中にはチラチラと私の顔色を窺っている者までいる。
クリスティーナ様を王妃の席に座らせると、陛下は椅子から立ち上がって声を張り上げた。
「皆に知らせたいことがある!」
陛下のその声で、会場がシンと静まり返った。
(何を言うつもりかしら?)
どうせくだらないことなんだろうけど。
「私は今日を以て王妃と離婚し、ここにいるクリスティーナを妻にすることにした!」
私の予想通り、本当にくだらないことだった。
隣を歩くお兄様がボソッと私に言った。
「陛下の愚行は俺が既に社交界に広めておいた。あの場にあの男の味方はおそらくいないだろう」
「お兄様、さすがですわね」
それからしばらくして、会場に到着した。
この扉の前に立ったところでいつもは何ともないのに、今日に限って何だかドキドキする。
隣にいるお兄様は、覚悟を決めたように前を見ていた。
(そうよね……私もしっかりしないと!)
やはりお兄様に比べると私はまだまだだ。
自分の未熟さを改めて思い知った。
「――王妃陛下と公爵閣下です!」
その声で、私とお兄様は会場へと足を踏み入れた。
既に到着していた貴族たちが、私を見てヒソヒソしている。
「王妃陛下よ……隣にいるのは兄君であらせられる公爵閣下よね?国王陛下はどうしたのかしら……」
「知らないのか?陛下はもうあの愛妾にご執心なんだぞ」
こうなることはある程度予想していたため、別に何とも思わなかった。
(お兄様が隣にいてくれてよかった……)
グレンお兄様が来てくれていなければ、私は一人で入場することになっていただろう。
考えるだけでも恐ろしい。
(だけど、陛下と一緒に歩くときよりも何だか居心地が良いわ)
私が陛下と隣り合って歩くことはもう二度と無い。
別に寂しくもないが。
それから私たちは会場の隅へと移動した。
王妃である私が入場したので、次に入場する人物はもう決まっている。
「――国王陛下とクリスティーナ様です!」
正装姿の国王陛下と、美しい装いをしたクリスティーナ様が会場へ入って来た。
二人を見た貴族たちの間に再びざわめきが起きる。
「やっぱりあの噂は本当だったのね……!」
「平民の女を舞踏会に連れてくるだなんて非常識にも程がある……!」
「誰か暗殺してくれねえかな……」
一国の王に対して言う言葉ではないものもちらほら。
入場を終えた二人は、お互いを見つめてフフッと微笑み合った。
陛下はそんな彼女を見つめて頬を染めている。
舞踏会用のドレスに着替えたクリスティーナ様はまるで妖精のように美しかった。
(本当に、お似合いな二人だこと)
しかしこの後、陛下がとんでもない行動に出ることを私はまだ知らなかった。
(さて、あの二人はどう動くのかしら?)
私はお兄様の横で二人の動きを注意深く観察していた。
こうしている理由は、あの二人を断罪する機会をしっかりと見極める必要があったからだ。
入場を終えた陛下はクリスティーナ様をダンスに誘った。
嬉しそうに陛下の手を取るクリスティーナ様。
そうして二人はホールの中央で踊り始めた。
美男美女である二人の踊る姿はとても美しかったが、貴族たちはそれを冷めた目で見ていた。
(やっぱりただの平民じゃないわね、知ってたけど)
平民がダンスなど踊れるはずがない。
陛下は何故それに気付かないのだろうか。
しばらくして、楽団が演奏を止め、二人のダンスが終了した。
(このあとはどうするつもりかしら?)
ダンスを終えた陛下は、クリスティーナ様の手を引いた。
会場の外にでも出るつもりか、と思っていたそのとき、陛下が信じられない行動に出た。
「……冗談でしょう?」
私ですら無意識に声を出してしまった。
何と陛下が、王の隣にある王妃の椅子にクリスティーナ様を座らせたのだ。
(……へぇ、そう出るのね)
これにはいくら私でも不快感を隠しきれなかった。
「「「!?!?!?」」」
陛下の暴挙に信じられないというような顔をする貴族たち。
その中にはチラチラと私の顔色を窺っている者までいる。
クリスティーナ様を王妃の席に座らせると、陛下は椅子から立ち上がって声を張り上げた。
「皆に知らせたいことがある!」
陛下のその声で、会場がシンと静まり返った。
(何を言うつもりかしら?)
どうせくだらないことなんだろうけど。
「私は今日を以て王妃と離婚し、ここにいるクリスティーナを妻にすることにした!」
私の予想通り、本当にくだらないことだった。
59
お気に入りに追加
677
あなたにおすすめの小説
嫌われ者の側妃はのんびり暮らしたい
風見ゆうみ
恋愛
「オレのタイプじゃないんだよ。地味過ぎて顔も見たくない。だから、お前は側妃だ」
顔だけは良い皇帝陛下は、自らが正妃にしたいと希望した私を側妃にして別宮に送り、正妃は私の妹にすると言う。
裏表のあるの妹のお世話はもううんざり!
側妃は私以外にもいるし、面倒なことは任せて、私はのんびり自由に暮らすわ!
そう思っていたのに、別宮には皇帝陛下の腹違いの弟や、他の側妃とのトラブルはあるし、それだけでなく皇帝陛下は私を妹の毒見役に指定してきて――
それって側妃がやることじゃないでしょう!?
※のんびり暮らしたかった側妃がなんだかんだあって、のんびりできなかったけれど幸せにはなるお話です。
自分勝手な側妃を見習えとおっしゃったのですから、わたくしの望む未来を手にすると決めました。
Mayoi
恋愛
国王キングズリーの寵愛を受ける側妃メラニー。
二人から見下される正妃クローディア。
正妃として国王に苦言を呈すれば嫉妬だと言われ、逆に側妃を見習うように言わる始末。
国王であるキングズリーがそう言ったのだからクローディアも決心する。
クローディアは自らの望む未来を手にすべく、密かに手を回す。
【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫
紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。
スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。
そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。
捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
旦那様、離婚しましょう
榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。
手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。
ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。
なので邪魔者は消えさせてもらいますね
*『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ
本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。
しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。
それを指示したのは、妹であるエライザであった。
姉が幸せになることを憎んだのだ。
容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、
顔が醜いことから蔑まされてきた自分。
やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。
しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。
幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。
もう二度と死なない。
そう、心に決めて。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる