12 / 37
二人の王子
しおりを挟む
私はあの後、侍女長に連れられて自室に戻った。
私と一緒にいるときの彼女は終始無表情で王弟殿下と会っていたことを良く思っていないのはたしかだった。
そのまま私は自室で一人溜息をついた。
(・・・よりによって侍女長に見つかるだなんて)
王宮の侍女長はただの侍女とは違う。
私の夫である陛下の母君の専属侍女だった方で、陛下からの信頼が最も厚い侍女だった。だからこそ、そのことを知っていた王弟殿下もあの場で強く出られなかったのだ。
おそらく先ほどの一件はすぐに陛下に報告が行くだろう。侍女長は国王陛下の忠臣だから。
(・・・いくらお飾りの王妃とはいえ、これは咎められそうだわ)
陛下は私を愛していない。しかし、彼にもプライドというものがある。正妃に浮気された、ともなれば当然怒るだろう。それに加えて、相手は彼の血の繋がった弟だ。
(陛下と殿下の仲は・・・決して良いとは言えなかった・・・)
母親の違う二人の王子。仲良くしろと言う方が無理な話だ。それでも幼い頃はまだ仲が良かった気がするが。
本来ならば王位を巡って戦争が起きてもおかしくはなかった。身分の低い愛妾が産んだ子で第一王子であるウィルフレッド殿下と、隣国の王女である王妃の子で第二王子のアルバート殿下。先王陛下はアルバート殿下を立太子させるべきだという貴族たちの声を無視して無理矢理ウィルフレッド殿下を王太子にした。
隣国から嫁いできた正妃を蔑ろにするだけではなく、愛妾の子供を王太子にしたのだ。そして、その正妃は愛妾とウィルフレッド殿下が原因で儚くなってしまった。
(・・・怒るのも無理はないわ)
先王陛下がこのような判断を下した時点で既に貴族たちからは猛反発の声が上がっていた。普通ならここで第一王子派と第二王子派に分かれて壮絶な戦いが起きるだろう。
しかし、騒ぐ貴族たちをよそにアルバート王弟殿下は王位に興味を示さなかった。
(王弟殿下が本気で王位を奪おうとしていたら、おそらく陛下は今国王という地位にはいなかったでしょうね)
王弟殿下は賢い人だ。彼が本気になれば、ウィルフレッド陛下はすぐにその椅子から引きずり下ろされるだろう。事実、隣国の王女の子供であるアルバート殿下を差し置いて王になったにも関わらず国王として決して優秀とは言えないウィルフレッド陛下に不満を抱いている貴族たちも多い。
(・・・まぁ、否定はしないけれどね)
クリスティーナ様を隣国からの刺客だと気付かずに王宮に召し上げた時点で王としては失格だ。
やはりウィルフレッド陛下は王の器ではない。アルバート王弟殿下の方が―
「・・・!」
無意識に彼のことばかり考えてしまっている自分に驚いた。私は首を横に振って一旦考えるのをやめた。今考えるべきなのはそのことではないからだ。
(ハァ・・・そろそろ陛下に報告が行っているかしらね・・・)
陛下は王弟殿下をあまり良く思っていない。それだけはたしかだ。
(これはまた面倒なことになりそうだわ・・・)
私はこれからのことを想像して自室で一人頭を抱えた。
私と一緒にいるときの彼女は終始無表情で王弟殿下と会っていたことを良く思っていないのはたしかだった。
そのまま私は自室で一人溜息をついた。
(・・・よりによって侍女長に見つかるだなんて)
王宮の侍女長はただの侍女とは違う。
私の夫である陛下の母君の専属侍女だった方で、陛下からの信頼が最も厚い侍女だった。だからこそ、そのことを知っていた王弟殿下もあの場で強く出られなかったのだ。
おそらく先ほどの一件はすぐに陛下に報告が行くだろう。侍女長は国王陛下の忠臣だから。
(・・・いくらお飾りの王妃とはいえ、これは咎められそうだわ)
陛下は私を愛していない。しかし、彼にもプライドというものがある。正妃に浮気された、ともなれば当然怒るだろう。それに加えて、相手は彼の血の繋がった弟だ。
(陛下と殿下の仲は・・・決して良いとは言えなかった・・・)
母親の違う二人の王子。仲良くしろと言う方が無理な話だ。それでも幼い頃はまだ仲が良かった気がするが。
本来ならば王位を巡って戦争が起きてもおかしくはなかった。身分の低い愛妾が産んだ子で第一王子であるウィルフレッド殿下と、隣国の王女である王妃の子で第二王子のアルバート殿下。先王陛下はアルバート殿下を立太子させるべきだという貴族たちの声を無視して無理矢理ウィルフレッド殿下を王太子にした。
隣国から嫁いできた正妃を蔑ろにするだけではなく、愛妾の子供を王太子にしたのだ。そして、その正妃は愛妾とウィルフレッド殿下が原因で儚くなってしまった。
(・・・怒るのも無理はないわ)
先王陛下がこのような判断を下した時点で既に貴族たちからは猛反発の声が上がっていた。普通ならここで第一王子派と第二王子派に分かれて壮絶な戦いが起きるだろう。
しかし、騒ぐ貴族たちをよそにアルバート王弟殿下は王位に興味を示さなかった。
(王弟殿下が本気で王位を奪おうとしていたら、おそらく陛下は今国王という地位にはいなかったでしょうね)
王弟殿下は賢い人だ。彼が本気になれば、ウィルフレッド陛下はすぐにその椅子から引きずり下ろされるだろう。事実、隣国の王女の子供であるアルバート殿下を差し置いて王になったにも関わらず国王として決して優秀とは言えないウィルフレッド陛下に不満を抱いている貴族たちも多い。
(・・・まぁ、否定はしないけれどね)
クリスティーナ様を隣国からの刺客だと気付かずに王宮に召し上げた時点で王としては失格だ。
やはりウィルフレッド陛下は王の器ではない。アルバート王弟殿下の方が―
「・・・!」
無意識に彼のことばかり考えてしまっている自分に驚いた。私は首を横に振って一旦考えるのをやめた。今考えるべきなのはそのことではないからだ。
(ハァ・・・そろそろ陛下に報告が行っているかしらね・・・)
陛下は王弟殿下をあまり良く思っていない。それだけはたしかだ。
(これはまた面倒なことになりそうだわ・・・)
私はこれからのことを想像して自室で一人頭を抱えた。
42
お気に入りに追加
677
あなたにおすすめの小説
嫌われ者の側妃はのんびり暮らしたい
風見ゆうみ
恋愛
「オレのタイプじゃないんだよ。地味過ぎて顔も見たくない。だから、お前は側妃だ」
顔だけは良い皇帝陛下は、自らが正妃にしたいと希望した私を側妃にして別宮に送り、正妃は私の妹にすると言う。
裏表のあるの妹のお世話はもううんざり!
側妃は私以外にもいるし、面倒なことは任せて、私はのんびり自由に暮らすわ!
そう思っていたのに、別宮には皇帝陛下の腹違いの弟や、他の側妃とのトラブルはあるし、それだけでなく皇帝陛下は私を妹の毒見役に指定してきて――
それって側妃がやることじゃないでしょう!?
※のんびり暮らしたかった側妃がなんだかんだあって、のんびりできなかったけれど幸せにはなるお話です。
自分勝手な側妃を見習えとおっしゃったのですから、わたくしの望む未来を手にすると決めました。
Mayoi
恋愛
国王キングズリーの寵愛を受ける側妃メラニー。
二人から見下される正妃クローディア。
正妃として国王に苦言を呈すれば嫉妬だと言われ、逆に側妃を見習うように言わる始末。
国王であるキングズリーがそう言ったのだからクローディアも決心する。
クローディアは自らの望む未来を手にすべく、密かに手を回す。
【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫
紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。
スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。
そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。
捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
旦那様、離婚しましょう
榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。
手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。
ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。
なので邪魔者は消えさせてもらいますね
*『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ
本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。
しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。
それを指示したのは、妹であるエライザであった。
姉が幸せになることを憎んだのだ。
容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、
顔が醜いことから蔑まされてきた自分。
やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。
しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。
幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。
もう二度と死なない。
そう、心に決めて。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる