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お飾りの王妃
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王妃カテリーナはニール王国の筆頭公爵家の令嬢で、幼い頃より王太子の婚約者に決められていた。
王太子とカテリーナの仲は悪くなかった。舞踏会があるときは毎回必ずドレスを贈ってエスコートしてくれるし、カテリーナの誕生日になるといつも贈り物をしてくれた。彼にとっては義務的なものだったかもしれないが、カテリーナにとってはそれが嬉しかった。いつしか彼女は婚約者である王太子のことを好きになった。
そしてその王太子とは長い婚約期間を経て、三年前に結婚した。その頃には既に先王も退位しており、王太子は王になっていたためカテリーナは王太子妃ではなく王妃となった。
彼女は信じていた。愛は無くともきっと幸せな結婚生活を送れると。
しかし、夫となった国王は正妃である自分に見向きもせず多くの女を囲った。
最初の側妃が迎えられるまでそう時間はかからなかった。それからは一人、また一人と増えていきそのたびにカテリーナの胸は痛んだ。
国王とカテリーナは白い結婚である。なので子供が出来るわけもないし、そうなれば側妃を迎えるのは当然のことだろう。
カテリーナは王太子時代の彼に恋をしていた。だが今のカテリーナには国王を想う気持ちは微塵も残っていない。
~カテリーナ視点~
「―王妃陛下、国王陛下が新しい愛妾を迎えるようです」
部屋にいた私にそう報告してきたのは王妃付きの侍女だ。
「そう・・・」
私は窓の外を眺めながら興味の無さそうに返事をした。
現在後宮には三人の側妃と二人の愛妾がいる。私の夫はたった三年間で五人もの女性を見初めたようだ。無類の女好きと言われた先王ですら、正妃が存命のときはこれほど派手にはやっていなかった。
私はハァとため息をついた。
(後宮が満員になるのも時間の問題ね・・・・・・)
結婚してから分かったことがある。それは夫である国王が華やかな美女を好むということだ。
現に側妃、愛妾たちは皆社交界で美姫として名を馳せた令嬢たちだった。それに対して私はどちらかといえば地味な顔立ちだ。
そのことに気が付いたのは夫が三人目の側妃を迎えた時だった。
そのときまでの私は執務や公務を頑張っていればいつか陛下が私を見てくれるって信じていた。
だけどそれを知ってからは期待することをやめた。こればっかりはどうしようもない。結局、私の努力なんて全て無意味だったわけだ。
そう思い、自嘲する。
◇◆◇◆◇◆
その日、私はいつものように王宮の廊下を歩いていた。
(退屈だわ・・・陛下はどうせ私の元へは来ない・・・)
そんなことを考えていたそのとき、前から貴族とは思えないほどマナーのなっていない女が走ってきて私は思わず眉をひそめた。
「―まあ、カテリーナ様!」
私に駆け寄り、そう言ったのは第一側妃のリリア様だ。
子爵家の令嬢で、陛下が一番最初に見初めた側妃。側妃になる前は社交界の華と謳われるほどの美貌を持つ令嬢だった。高位貴族では無かったものの、その美しさから数多くの貴族令息に求婚されたという。そんな彼女が最終的に選んだのは国王の側室という地位だった。きっと王の寵愛を得れば何でも出来ると思っているのだろう。
(・・・彼女は本当に貴族の令嬢として生まれたの?)
貴族令嬢が走るだなんてはしたないし、身分の低い者から高い者へは原則声をかけてはいけない。
そんなことも知らないのか。
そう思ったが、叱って陛下に告げ口されるのも面倒なので私は適当に相手をする。
「ごきげんよう、リリア様」
私は口元に笑みを携えてリリアに挨拶をした。
「カテリーナ様はどちらへ行かれるのですか?」
「本を読みに書庫へ行こうかと」
私の言葉にリリア様の口角が上がった。
「あら、そうだったんですね!本を読む時間があるだなんて羨ましいですわ。私なんていつも陛下のお相手をしなきゃいけなくて、とっても忙しいんです」
そう言ってリリア様は私を馬鹿にしたような笑みを見せた。
そんなことを言われても別に何ともなかった。私はもう陛下を愛していないのだから。
(・・・いつも?陛下のお相手は現状五人もいるのだからそんなことあるわけないでしょう)
心の中でそう思いながらも適当に返す。
「お体に気を付けてお過ごしくださいね。リリア様」
そう言って微笑みかけるとリリアは悔しそうな顔をする。
「ッ・・・。ありがとうございます、カテリーナ様ッ・・・」
リリア様はそう言うと、そのまま私の前から立ち去った。
(行ったようね)
リリア様と別れ、私は再び廊下を歩き始める。
私とすれ違った使用人たちは皆口々に言った。
「王妃陛下よ・・・」
「結婚してまだ三年なのに五人も別の女を作られるだなんて憐れね・・・」
「どうやら本人は白い結婚だそうよ」
「まぁあの見た目じゃあねぇ・・・」
「側妃様たちと比べるとどうしても見劣りしてしまうものね」
こんなのにはもう慣れたがハッキリとそう言われるとなかなか悲しくなる。
(はぁ・・・いっそのこと離縁して家に帰りたい・・・)
王太子とカテリーナの仲は悪くなかった。舞踏会があるときは毎回必ずドレスを贈ってエスコートしてくれるし、カテリーナの誕生日になるといつも贈り物をしてくれた。彼にとっては義務的なものだったかもしれないが、カテリーナにとってはそれが嬉しかった。いつしか彼女は婚約者である王太子のことを好きになった。
そしてその王太子とは長い婚約期間を経て、三年前に結婚した。その頃には既に先王も退位しており、王太子は王になっていたためカテリーナは王太子妃ではなく王妃となった。
彼女は信じていた。愛は無くともきっと幸せな結婚生活を送れると。
しかし、夫となった国王は正妃である自分に見向きもせず多くの女を囲った。
最初の側妃が迎えられるまでそう時間はかからなかった。それからは一人、また一人と増えていきそのたびにカテリーナの胸は痛んだ。
国王とカテリーナは白い結婚である。なので子供が出来るわけもないし、そうなれば側妃を迎えるのは当然のことだろう。
カテリーナは王太子時代の彼に恋をしていた。だが今のカテリーナには国王を想う気持ちは微塵も残っていない。
~カテリーナ視点~
「―王妃陛下、国王陛下が新しい愛妾を迎えるようです」
部屋にいた私にそう報告してきたのは王妃付きの侍女だ。
「そう・・・」
私は窓の外を眺めながら興味の無さそうに返事をした。
現在後宮には三人の側妃と二人の愛妾がいる。私の夫はたった三年間で五人もの女性を見初めたようだ。無類の女好きと言われた先王ですら、正妃が存命のときはこれほど派手にはやっていなかった。
私はハァとため息をついた。
(後宮が満員になるのも時間の問題ね・・・・・・)
結婚してから分かったことがある。それは夫である国王が華やかな美女を好むということだ。
現に側妃、愛妾たちは皆社交界で美姫として名を馳せた令嬢たちだった。それに対して私はどちらかといえば地味な顔立ちだ。
そのことに気が付いたのは夫が三人目の側妃を迎えた時だった。
そのときまでの私は執務や公務を頑張っていればいつか陛下が私を見てくれるって信じていた。
だけどそれを知ってからは期待することをやめた。こればっかりはどうしようもない。結局、私の努力なんて全て無意味だったわけだ。
そう思い、自嘲する。
◇◆◇◆◇◆
その日、私はいつものように王宮の廊下を歩いていた。
(退屈だわ・・・陛下はどうせ私の元へは来ない・・・)
そんなことを考えていたそのとき、前から貴族とは思えないほどマナーのなっていない女が走ってきて私は思わず眉をひそめた。
「―まあ、カテリーナ様!」
私に駆け寄り、そう言ったのは第一側妃のリリア様だ。
子爵家の令嬢で、陛下が一番最初に見初めた側妃。側妃になる前は社交界の華と謳われるほどの美貌を持つ令嬢だった。高位貴族では無かったものの、その美しさから数多くの貴族令息に求婚されたという。そんな彼女が最終的に選んだのは国王の側室という地位だった。きっと王の寵愛を得れば何でも出来ると思っているのだろう。
(・・・彼女は本当に貴族の令嬢として生まれたの?)
貴族令嬢が走るだなんてはしたないし、身分の低い者から高い者へは原則声をかけてはいけない。
そんなことも知らないのか。
そう思ったが、叱って陛下に告げ口されるのも面倒なので私は適当に相手をする。
「ごきげんよう、リリア様」
私は口元に笑みを携えてリリアに挨拶をした。
「カテリーナ様はどちらへ行かれるのですか?」
「本を読みに書庫へ行こうかと」
私の言葉にリリア様の口角が上がった。
「あら、そうだったんですね!本を読む時間があるだなんて羨ましいですわ。私なんていつも陛下のお相手をしなきゃいけなくて、とっても忙しいんです」
そう言ってリリア様は私を馬鹿にしたような笑みを見せた。
そんなことを言われても別に何ともなかった。私はもう陛下を愛していないのだから。
(・・・いつも?陛下のお相手は現状五人もいるのだからそんなことあるわけないでしょう)
心の中でそう思いながらも適当に返す。
「お体に気を付けてお過ごしくださいね。リリア様」
そう言って微笑みかけるとリリアは悔しそうな顔をする。
「ッ・・・。ありがとうございます、カテリーナ様ッ・・・」
リリア様はそう言うと、そのまま私の前から立ち去った。
(行ったようね)
リリア様と別れ、私は再び廊下を歩き始める。
私とすれ違った使用人たちは皆口々に言った。
「王妃陛下よ・・・」
「結婚してまだ三年なのに五人も別の女を作られるだなんて憐れね・・・」
「どうやら本人は白い結婚だそうよ」
「まぁあの見た目じゃあねぇ・・・」
「側妃様たちと比べるとどうしても見劣りしてしまうものね」
こんなのにはもう慣れたがハッキリとそう言われるとなかなか悲しくなる。
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