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番外編

6 望んでいた結末 フィリクス視点

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そしてついに、その日はやって来た。
妹に殺害計画を立てられたソフィアを保護した後、私は会場へと向かった。


(まさか本気で殺そうとしていたとはな……)


怒りで頭がおかしくなりそうだった。
お前はまた私の大切なものを奪おうとしたのか。
元々あの女に対する情など無かったが、今回の一件で完全に憎しみへと変わり果てた。


(もう容赦はしないぞ……いくらアイツが父による被害者だったとしても)


元はと言えば、アンジェリカの歪んだ性格はあの馬鹿な父親が甘やかしすぎたせいだ。
それは私も周囲もよく分かっている。


昔からアレに甘い我が父はそんな妹の悪行を一切咎めず、散々好き勝手やらせてきた。
母親も出産と同時に亡くしているため、正してくれる人間が周りにいなかったのだ。
まぁ、あの母親が生きていたところでまともな親になれたかどうかは怪しいところだが。


(だからこそ貴族たちに利用されてしまうんだ、王族として失格だな)


アンジェリカをやたらと持ち上げている貴族たちは何も彼女を慕っているわけではない。
馬鹿な妹を王座に就けることで自分に何かしらの得があると思っているのだろう。
そしてあの女はそれにすら気付いていない。


(……哀れだ。父も妹も…………私も)


そんなことを心のどこかで感じながらも私はこの日、血の繋がった父親と妹を断罪した。
あの二人の悪行を見過ごすわけにはいかなかったから。


投獄されている無様な二人を見たとき、怒りが沸々とこみ上げてきた。
私の母親はこんなやつらに殺されたのか、と。
頑なに罪を認めようとせず、お互いに擦り付け合い、散々無視してきた私に命を乞う。
目も当てられなかった。


そこに家族の情など感じられなかった。
とてもじゃないが、この二人にはそんなもの一生抱けそうにない。


裁判はすぐに行われ、父親は死刑になった。
アンジェリカももちろん極刑だ。


父親が死刑になったと聞いたとき、特に思うことは無かった。
むしろあの男はそれだけのことをしてきたのだし、この判決は至極真っ当なものだと、そう思ったほどだ。


……だけど。


――ほんの少しだけ悲しかったのは何故だろうか。


父親の死刑が執行されたその日、私の心が晴れることは無かった。
むしろ暗く沈んだ気分となった。


そしてそれからすぐにアンジェリカも牢獄での死亡が確認された。
自殺か、それとも他殺か。
調べる必要も無いと感じたため、あえて放っておいた。


いや、そんなのはただの言い訳に過ぎない。
本当はそれを調べる気力が今の私には無かったからだ。
ソフィアが傍にいてくれなければ数日はそんな状態だったかもしれない。


(……何故だ?私はこうなることを望んでいたのでは無かったのか?)


一人になった部屋で、ただ自問自答を繰り返した。


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