上 下
73 / 79
番外編

5 断罪の準備 フィリクス視点

しおりを挟む
ソフィアといる時間は心が落ち着いたし、とても楽しかった。
こんな気持ちは初めてで、自分でもよくわからなかった。


もっと彼女の笑顔を見たい、一緒にいたい、触れたい。
生まれて初めて抱く感情で胸がいっぱいになった。


(私らしくない……こんなのは……)


自分でもそう思ってしまうほど、私はソフィアに夢中になっていた。
恋心を抱いたのは割と早い頃からだったと思う。


正直この気持ちはもう諦めきれないほどに膨れ上がっていたし、今すぐにでも彼女にプロポーズをしたいとも思っていた。
しかし、今の私には問題が山積みだった。


(どうするか……)


一つは父親のことだ。
あの男は私と聖女の結婚など認めてはくれないだろう。
顔を合わせれば罵詈雑言を浴びせ、母の悪口ばかり言っていたアイツは私の不幸を望んでいるはずだから。


もう一つバカな妹のことである。
アイツは何故かソフィアを毛嫌いしていて隙あらば貶めようとしていた。
どうせくだらない嫉妬心によるものだろう。
自分より国民に人気があったとかそんな感じの。
しょうもないったらありゃしない。


何故私の家族にはそういうのしかいないんだ。
こんなバカな女を溺愛して甘やかすあの男もどうかしている。
何故あんなに優しい母上が死んでコイツらが生きているのかという疑問はこれまでに何度も抱いたが、このときばかりは強くそう思った。
私には自分の命を懸けてでも守りたい大切な存在が出来てしまったから。


(本格的に権力者を断罪する準備が必要になってくるな……)


決して簡単なことではないだろうが、やるしかないのだ。
母上を始めとした何の罪も無く殺されてしまった被害者たち、そして――私とソフィアの幸せな未来のためにも。




***



次の舞踏会で国王たちを断罪するということを叔父に話すと、彼は今まで以上に動いてくれた。
当然だ、彼もまた姉を殺されて怒り心頭だったのだから。


(姉弟の絆が深いのだな……まぁ、私にはよく分からないが)


私も妹がもう少しまともな人間だったら断罪するのを少しは躊躇っていただろうか。
――分からない。


血の繋がった家族の首を自分の手で落とす。
その光景を想像したとき、特に何も感じなかった。


むしろ父親に関してはそうなることを望んでいるかのように嘲笑が零れた。
実の家族が死ぬというのにどうしたらそんな考えが出来るのだろう。


私はちっとも母上には似ていない。
いや、もしかすると性格は父親に似ているかもしれないな。
そのことを嫌でも悟って頭を抱えたくなった。


しかし、こんなことを考えている場合ではないと前を見た。


(……当然だ、私は生まれたときから冷たい人間なのだから)


それに権力者である以上、別に優しくある必要も無い。
そう結論付けて断罪の準備を進めた。


が、どうも私はソフィアの前でだけは甘くなってしまうらしい。
思わぬ弱点である。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。

凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」 リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。 その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。 当然、注目は私達に向く。 ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた-- 「私はシファナと共にありたい。」 「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」 (私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。) 妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。 しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。 そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。 それとは逆に、妹は-- ※全11話構成です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

心から愛しているあなたから別れを告げられるのは悲しいですが、それどころではない事情がありまして。

ふまさ
恋愛
「……ごめん。ぼくは、きみではない人を愛してしまったんだ」  幼馴染みであり、婚約者でもあるミッチェルにそう告げられたエノーラは「はい」と返答した。その声色からは、悲しみとか、驚きとか、そういったものは一切感じられなかった。  ──どころか。 「ミッチェルが愛する方と結婚できるよう、おじさまとお父様に、わたしからもお願いしてみます」  決意を宿した双眸で、エノーラはそう言った。  この作品は、小説家になろう様でも掲載しています。

アリシアの恋は終わったのです。

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

処理中です...