【本編完結】幼馴染で将来を誓い合った勇者は私を捨てて王女と結婚するようです。それなら私はその王女様の兄の王太子様と結婚したいと思います。

ましゅぺちーの

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番外編

番外編 元国王視点

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遅くなってしまいましたが、最後まで読んでくださりありがとうございました!


これから番外編を不定期で更新していく予定です!
フィリクス視点、追放されたアレックスのその後……などなど。
今回は元国王視点&側妃アンジェラとの出会いとなります。


是非読んでいってください!





―――――――――――――――――――――――――――――




(ああ・・・どうしてこうなってしまったんだ・・・)


私は王宮の地下にある薄汚い牢屋の中で一人自分の運命を嘆いた。一体どこで間違えてしまったのだろうか。もしかすると二十五年前のあの出会いから既に間違えていたのかもしれない。


「ハァ・・・」


死を間近に控えている私の頭によぎったのは二人の女だった。


婚約者だったクレアと、初恋の相手だったアンジェラ。どちらも本当に美しい女だった。






私はランダルト王国の第一王子として生を受けた。国王である父と、王妃である母から生まれた王位継承権第一位の王子。


そんな私には幼い頃からの婚約者がいた。


それがクレア・フローレスだった。王国に二つしかない公爵家であるフローレス公爵家の令嬢。それに加えて類稀なる美貌を持ち合わせていたのだから婚約が決まったときは本当に周囲から羨ましがられた。


しかし私は婚約者であるクレアのことがあまり好きではなかった。王妃教育のせいかクレアは感情がまるで読めないし、美しいはずの彼女の紫色の瞳はどこか冷たく感じた。


十五歳になって王立学園へ入学してもそれは変わらなかった。そして、その学園で私はある女性と運命の出会いを果たすこととなる。


学園の廊下を歩いていた私にぶつかってきた一人の女がいた。


「キャッ!」


「おい、どこ見て歩いているんだ!」


最初は何て無礼な女なのだろうと怒りを感じたが、その女の顔を見て私は何も言えなくなった。


「あ・・・ご・・・ごめんなさい・・・」


「!」


その女はゆるくウェーブのかかった金髪に宝石のように綺麗な赤い瞳をしているそれはそれは美しい女だった。そんな女が目に涙を浮かべながら私を見上げてきたのだ。これに心を動かされない男はこの世にいないだろう。


「あ、いや・・・別に気を悪くしたわけでは・・・」


気付けば私は自然とそんなことを口にしながらその女に手を差し伸べていた。


「・・・」


女は目を丸くして差し出された手をじっと見つめていた。そして―


「・・・ありがとうございます」


花が綻ぶような美しい笑みを浮かべてその手を取った。


「・・・!」


その笑顔を見た瞬間、私は恋に落ちた。間違いなく初恋だった。








それから私はその女―アンジェラと深く関わるようになった。


「ルートヴィヒ様は本当にお優しいのですね」


「え、いや、そんなことは・・・」


アンジェラといると気が楽だった。彼女だけは私を王太子ではなくただのルートヴィヒとして見てくれていたから。


気付けば私はアンジェラのことを本気で好きになっていた。長年の婚約者だったクレアとの婚約を破棄してアンジェラと結婚したいと思ってしまうほどに。


しかし、そんな私たちに対する周囲の目は厳しいものだった。


「―殿下、少しよろしいでしょうか」


「・・・クレア」


婚約者であるクレアがいつものように何の感情も映していない瞳で私に話しかけてきた。


「男爵家のご令嬢と親しくされているというのは本当ですか?」


「・・・」


「ハァ・・・本当だったのですね。今学園で殿下とそのご令嬢に関する良くない噂が広まっております。殿下は次期国王なのですから、もう少し立場を弁えてください」


「・・・」


アンジェラと親しくするようになってから、クレアは会うたびに小言ばかりを言ってきた。


(本当にうるさい女だ・・・)


このときの私は既にアンジェラに惚れ込んでいたため、彼女と会うことに苦言を呈してくるクレアを鬱陶しいと感じるようになるのにそう時間はかからなかった。


「ルートヴィヒ様!」


「アンジェラ!」


しかし、私はそれでもアンジェラとの関係を切ろうとは思わなかった。


そして次第に私たちは男女の関係になっていった。


「ルートヴィヒ様・・・好き・・・」


「ああ・・・私もだ・・・」


アンジェラは私の運命の相手だったのだと信じて疑わなかった。しかしこうなってくると婚約者であるクレアが邪魔になってくる。


アンジェラとの将来を真剣に考えていた私は父と母にクレアとの婚約を破棄してアンジェラと結婚したいと言いに行ったが、どうしても彼女との結婚は認められなかった。このときばかりは初めて両親を疎ましく感じた。


それから学園を卒業するまでの間、私はほとんどの時間を婚約者のクレアではなくアンジェラと共に過ごしていた。そんなことを続けているうちにクレアは私に冷たい視線を向けるようになった。別に何か言ってきたわけではなかったが、その瞳が全てを物語っていた。軽蔑のこもった、呆れたような瞳。元々冷たいと感じていた彼女の紫の瞳を嫌いになった瞬間だった。


(ハッ、言いたいことがあるならハッキリと言えばいいだろ!)


このときには既に私とクレアの仲は冷え切っていた。


そして、学園を卒業してすぐに私はクレアと結婚した。アンジェラとの結婚が駄目ならせめてクレアとの婚約を破棄することだけでもと思ったがそれすらも認められなかった。だから私は仕方なくクレアと結婚した。


それからすぐ両親が亡くなった。私に兄弟はいなかったため私が王となった。そして私は王位を継いでからすぐにアンジェラを側妃として迎えた。実は私はクレアと結婚してからもアンジェラとの関係を切れずにいた。妻に内緒で秘密裏に彼女と会っていた。そんな自分を最低だと思いながらもそれだけはどうしてもやめられなかった。


しばらくして、正妃クレアとの間に子供が生まれた。クレアのことは愛せずとも生まれた子供は無関係だ。せめて自分の子供には愛を注いでやろう。そう思っていた。しかし―


(なッ!?)


生まれた赤ん坊を見た私は思わず顔をしかめた。


クレアが産んだ子供は私の大嫌いな紫眼を持って生まれたからだった。


(冗談じゃない・・・こんなの愛せるか・・・)


私は適当な理由を付けてクレアと生まれた子供を南にある離宮に送らせた。そうすればもう大嫌いなあの目を見なくて済むからだ。


クレアと子供を離宮へ送ってから二年後、側妃として迎えたアンジェラも懐妊した。アンジェラから妊娠したという知らせを聞いたときは嬉しくて仕方がなかった。日に日に大きくなっていくアンジェラのお腹を見ては早く子供に会いたいという気持ちが大きくなっていった。


そしてついに出産の日を迎えた。愛する女が自分の子供を産み、幸せの絶頂にいたはずだった。しかし・・・


(ああ・・・アンジェラ・・・)


そのときの私は失意のどん底にいた。


理由はアンジェラが子供を産んで亡くなってしまったからだ。愛する女を失ってしまった私はもう全てがどうでもよくなった。


私は失意のまま王宮にあるアンジェラが暮らしていた部屋へと向かった。彼女の痕跡がよく残る場所にいけばこの恋しい気持ちも少しは無くなるかもしれないという、そんな希望を抱いて。


アンジェラの部屋に到着した私の視界に広がったのは、いつもと変わらない光景だった。私は彼女を側妃として迎えてから多くの時間をこの部屋で過ごしていた。もちろん愛する彼女と共に。しかし、隣を見ても今はもう誰もいない。アンジェラに会いたいという気持ちを紛らわすためにここに来たのに、どうやら逆効果だったようだ。


(・・・もう帰ろう)


ここにいても虚しくなるだけだ。そう思って踵を返そうとしたそのとき、私は部屋にあったゆらゆらと揺れるゆりかごに気が付いた。どうやらアンジェラが産んだ子供が放置されているようだった。私は彼女が亡くなったという知らせを聞いてからというものの、生まれた子供には一度も会いに行っていなかった。アンジェラの命を奪った子供の存在が憎くて私が何をするか分からなかったからだ。


しかし何故だかこのときばかりは吸い込まれるようにして赤ん坊のいるゆりかごへと向かっていた。あれほど会うことを避けていたというのに、自分でもよく分からなかった。


そうしてゆりかごの傍まで来て赤ん坊の顔を見た私は驚きを隠せなかった。


(こ、これは・・・!)


アンジェラが産んだ子供は彼女に瓜二つだったからだ。キラキラと輝く金髪も、宝石のように美しい赤い瞳も彼女の生き写しだった。その赤ん坊を見た瞬間、私は時が止まったかのようにその場から動けなくなった。ただただアンジェラによく似た赤ん坊を凝視していた。


「あぶー」


そのとき、生まれたての赤ん坊が私を見てニッコリと笑った。その笑みはとても愛らしくて私は一瞬にして生きる気力を取り戻した。それと同時に自分は何て馬鹿なことをしていたんだろうと後悔した。


「・・・」


このとき私は決意した。最愛の女性が残していったこの子を、何が何でも守ろうと。


それから私は生まれた子供をアンジェリカと名付け、溢れんばかりの愛を彼女に注いだ。アンジェリカの願いなら何でも叶えてあげた。それがたとえ良くないことだったとしてもアンジェリカが喜ぶならそれでいいと思っていた。


だが、その結果が”これ”だった。






「ハァ・・・」


私はもう死刑が確定しており、もうすぐ断頭台へと連れて行かれることになるだろう。


今思えば、もう少しクレアと向き合っておくべきだったかもしれない。結婚してからもなお冷たい目を向けてくる彼女に嫌気が差し、まともに話し合うこともしなかった。それどころか顔も見たくないと離宮に押しやってしまった。


(クレア・・・・・・フィリクス・・・・・)


そのときの私の脳裏に浮かんだのは最後に見たフィリクスの顔だった。


実の息子にあんな目を向けられるなんて、何て情けない父親なのだろう。


私は地下牢の中で一人、後悔に苛まれた。



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