【本編完結】幼馴染で将来を誓い合った勇者は私を捨てて王女と結婚するようです。それなら私はその王女様の兄の王太子様と結婚したいと思います。

ましゅぺちーの

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本編

48 お願い アルベール視点

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王宮で開催される舞踏会の前日。


俺は一人で王宮にいた。


(クソッ・・・!アンジェリカのやつ、今さら俺に何の用なんだ・・・!)


理由はアンジェリカに突然呼び出されたからだ。


アンジェリカと私的な場で会わないことを決めてから、彼女に会うのは初めてだった。本当なら行くべきではないのだろうが、王女の名で呼び出されたら一貴族の令息である俺では断ることなど出来ない。


俺は苛立つ気持ちを必死で抑えながらも彼女の元へと向かった。


「アンジェリカ!」


侍女に案内されてアンジェリカの部屋に入ると、そこには大きく胸元の空いたセクシーなドレスを着ている彼女の姿があった。


「・・・ッ!?」


女性経験が無い俺は思わず顔を逸らしてしまった。俺はアンジェリカ以外の女とはほとんど関わったことがない。唯一あるとすれば”アイツ”くらいだが。


そんな俺を、アンジェリカは笑顔で出迎えた。


「まあ、アルベール!来てくれたのね!私、とっても嬉しいわ!」


「・・・アンジェリカ」


「さあ、座って!一緒にお話しましょう!」


アンジェリカはそう言いながら俺の腕を引っ張った。


「・・・ッ」


アンジェリカがこんなことをしてきたのは初めてだった。彼女の突然の行動に心が揺れそうになる。


(ダメだ!)


しかし必死で理性を保ち、アンジェリカと距離を取った。


「・・・アルベール?」


そんな俺にアンジェリカが不思議そうな顔をした。俺はそのまま彼女にキッパリと告げた。


「アンジェリカ、これからはこういうことをしないでくれ」


「まぁ、どうして?」


そう言って首をかしげるアンジェリカ。まさか俺の言っていることの意味が分かっていないのだろうか。


「君はもう勇者の婚約者なのだから、俺にこんなことをするのは良くない」


「・・・」


その言葉を聞いたアンジェリカの顔から表情が消えた。


「・・・!?」


彼女のこんな顔を見るのは初めてかもしれない。気のせいか、美しい赤い瞳が少し濁っているような気がする。初めて見るアンジェリカの無感な様子に戸惑っている自分がいたが、俺は必死で自分を落ち着かせた。


(これが正しいんだ。こんなのは良くない)


しかし、俺の話を聞いていたのか今度は俺の腕にしがみついてきた。


「ッ・・・!お、おい・・・何するんだ・・・!」


思いきった彼女の行動に蒸発してしまいそうなくらい顔が熱くなる。


「まあまあ、まだ結婚前なんだし今日くらい良いじゃない」


彼女はそう言って無邪気に笑ってみせた。


(・・・ッ)


それは間違いなく少し前まで俺が恋焦がれていたアンジェリカだった。それならさっきの彼女の姿は気のせいだったのだろうか。そんなことを思ってしまうほど俺は彼女の笑顔に心動かされていた。


結局俺はそのままアンジェリカに引っ張られて部屋にあった席へと座らされた。いけないと分かっていながらもどうしても彼女を自分から引き剥がすことが出来なかった。


向かいに座るアンジェリカは何故だか機嫌が良さそうで俺を見てニコニコ笑っている。俺と一緒にいてこんなに機嫌が良かったことなど今までだって数えるほどしかなかったというのに。


いつもと違うアンジェリカの様子に困惑した。しかしそれと同時に、自分の中に残っていた僅かな理性が俺を正気に戻した。


(早くここから出ないと・・・)


婚約者のいる女性の部屋に入るというのは良くないことだ。他に誰かいるのならまだしも、今は彼女と二人きりだった。変な噂が立ってもおかしくはない。


もしそうなったら俺もアンジェリカも傷が付いてしまう。アンジェリカは俺の恩人で、大切な人だ。彼女を想う気持ちにはもう既に終わりを告げてはいるものの、それだけは変わらない。だからこそ、自分のせいでアンジェリカがこの先生き辛くなるというのは耐えられなかった。


彼女を大切に思うその考えが俺を突き動かした。


「アンジェリカ、用が無いのなら俺はそろそろ―」


「―ねえ、アルベール」


そのとき、アンジェリカが俺の言葉を遮った。


「・・・何だ?」


「私ね、アルベールのこと大好きよ」


そう言ったアンジェリカは見たことのないくらい穏やかな顔をしていた。いつも社交界で浮かべているような偽りの笑みではなく、本心からの笑みだった。アンジェリカを愛し、長い間傍で見てきたからこそ俺にはそれが分かった。


「・・・急に何なんだ」


平然を装ってはいたものの、俺はアンジェリカのその言葉に内心かなり動揺していた。


アンジェリカとの関係は十年近くになるが、大好きだなんて彼女の口から聞いたことはなかった。いや、彼女は俺に対して好きという言葉すらも言ってくれたことはなかった。


「アルベールは幼馴染で私の一番の友達だもの」


「・・・」


アンジェリカが突然そんなことを言う意味がどうしても分からなかった。


「あなたは私にとって本当に本当に大切な存在なの」


「・・・何が言いたいんだ」


その瞬間、アンジェリカの赤い瞳が鋭い眼光を放った。


「―アルベール、私あなたにお願いがあるの」


「・・・お願い?」


先ほどまでの穏やかな顔が嘘のようだった。一体何なのだろうと思って訝しげに彼女を見つめたそのとき、アンジェリカの赤い唇がゆっくりと動いた。


「―聖女を殺してほしいの」


「・・・・・・・・・・・・・何だって?」



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