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本編
41 聖女vs王女
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アレックスと言い争いをしてから数日後。
あの日からアレックスが私に何かしてくることは無くなった。私に言われたことが相当効いたようだ。アンジェリカ王女殿下に嫌味を言われるようなこともなく、ここ最近は比較的穏やかに過ごせていた。
そして今日、私は珍しく自室でお茶をしていた。それも一人ではなくフローレス公女と。
「聖女様」
「フローレス公女様・・・」
私の目の前にはさっきからずっとニコニコしているフローレス公女が座っていた。
「またお会い出来てとっても嬉しいですわ」
私がお茶会に招待したわけではなく、本当に偶然だった。王宮の廊下を歩いていたところたまたまフローレス公女と遭遇し、ちょうど空き時間だったため暇していた彼女をお茶に誘ったのである。
(まぁ、私もフローレス公女のことは好きだから別に良いけれど)
こうしていると何だか妹が出来たみたいで嬉しくなる。私はそんなフローレス公女に笑い返した。
「ええ、私も公女様に会えて嬉しいです。それより今日も王太子殿下に会いに王宮へ来られたのですか?」
「あ、えっと・・・私がというよりかはお父様が・・・」
「フローレス公爵閣下が?」
私はその言葉に少しだけ驚いた。
(最近よく王太子殿下に会いに来ているみたいね・・・)
どうやらフローレス公爵閣下がよく王太子殿下に会いに来ているようだ。
「はい、私は聖女様に会いたくてついて来てしまいました」
そう言いながらえへへと笑うフローレス公女は本当に愛らしい。
「私も会いたかったです、公女様」
「まあ、本当ですか?」
「はい」
私のその言葉にフローレス公女が嬉しそうに顔を輝かせた。それから私たちはしばらくの間お茶を飲みながらお互いの近況についての話をした。
和やかな雰囲気のまま時間が過ぎ、フローレス公女が公爵邸へ帰る時間となった。
「あ!そろそろ時間ですわ」
「まぁ、ではここでお別れですね」
「もっと聖女様とご一緒したかったのに・・・」
私の言葉に、フローレス公女の顔が一瞬にして曇った。彼女の暗い表情を見るのは心苦しいが、こればかりはどうしようもない。私は落ち込むフローレス公女を慰めるようにして言った。
「またすぐに会えますよ、公女様」
それを聞いたフローレス公女の表情が明るくなった。
「はい!楽しみにしておりますわ!」
侍女にお茶を下げさせた私は、フローレス公女を父である公爵様の元まで送るために一緒に部屋を出た。
「次は公女様の好きなお菓子を用意してお待ちしていますね」
「まぁ、本当ですか!?」
二人楽しく会話をしながら歩いていたそのとき、後ろから聞き慣れた声が私たちの間に割り込んだ。
「―あら、誰かと思ったら負け犬のお二方ではありませんか」
「「!」」
その声に、二人同時に後ろを振り返った。
「アンジェリカ王女殿下・・・!」
「王女殿下・・・」
王女殿下を見たフローレス公女の顔がみるみるうちに引きつっていく。このような反応になるのは当然だ。フローレス公女とアンジェリカ王女殿下には因縁があるのだから。
「ご機嫌よう、聖女様、フローレス公女」
「・・・お久しぶりでございます、王女殿下」
フローレス公女は王女殿下の前で美しいカーテシーを披露した。私もそれに倣ってカーテシーをする。王女殿下は気付いていないようだが、フローレス公女の声がいつもより少しだけ低くなっている。
「フローレス公女・・・」
王女殿下は目の前で頭を下げているフローレス公女を見て口角を上げた。その声に公女が顔を上げて王女殿下を見た。
「・・・何でしょうか」
「元気そうで良かったですわ。あのときのショックで公爵邸から出られなくなっているのではないかと心配しておりました」
「・・・」
その言葉を聞いたフローレス公女の眉がピクリと動いた。王女殿下の発言が相当頭に来ているようだ。フローレス公女の隣でそれを見ていた私はというと―
(・・・アンジェリカ王女殿下ってこんな口調だったっけ?)
王女殿下の変わりっぷりに驚いた。もしかすると年下相手には威張りたいタイプの人なのかもしれない。
「・・・私のことを気にかけてくださりありがとうございます。この通り、ピンピンしておりますわ」
「まあ、それは良かったわ」
目の前でアンジェリカ王女殿下とフローレス公女がバチバチと火花を散らしている。それから二人はしばらくの間見つめ合っていたが、先に視線を逸らしたのはフローレス公女の方だった。
「王女殿下、他に御用が無いのであれば私たちは失礼いたします」
王女相手では分が悪いと思ったのか、フローレス公女が私の手を引っ張ってこの場を立ち去ろうとする。しかし、そんな私たちに王女殿下は不敵な笑みを浮かべて口を開いた。
「まあ、せっかくお会い出来たというのにもう行ってしまうの?それとも、怖いのかしら?私にまた大切な人を奪われるんじゃないかって」
「・・・!」
その言葉に、嫌な記憶を思い出してしまったのかフローレス公女が涙目になって俯いた。
「こ、公女様・・・」
今のは間違いなく私とフローレス公女両方に対して言った言葉だろう。私はもう何とも思わないが、隣で肩を震わせて涙をこらえているフローレス公女を見て王女殿下に対する怒りがこみ上げてくる。
(私だけならまだしも、フローレス公女はまだ幼いのに・・・)
私はついに我慢の限界を迎え、フローレス公女を庇うようにして前に出た。
「王女殿下、いい加減にしてください」
「・・・何ですって?」
私の反抗的な態度に王女殿下の顔から表情が消えた。しかし今の私にはそれを怖いとも思わなかった。
「これ以上公女様を傷付けないでください!」
「・・・平民が、誰に向かってそんな口を聞いているの?」
「聖女様・・・!?」
私に気付いたフローレス公女が驚いたように顔を上げた。
「私のことはどれだけ傷付けてもかまいません。だから公女様を標的にするのはもうやめてください」
「何よ、私に命令しているの!?」
私が反論したのが相当気に食わなかったのか、王女殿下は美しい顔を歪ませた。
「この私にそんなこと言うだなんて、それは死にたいという・・・」
「―王女殿下」
そのとき、後ろにいたフローレス公女が今度は私の前に出た。
「聖女様に手を出すおつもりですか?まさか王女殿下ともあろう方が、”あのこと”を知らないわけではありませんわよね?」
「・・・・・・ッ!」
フローレス公女のその言葉に、王女殿下の顔は青くなっていった。
(あのことって何だろう・・・?)
フローレス公女の言っているあのこととは一体何のことなのだろうか。その一言を聞いた王女殿下が顔色を変えた意味が分からず、困惑した。
「お、覚えてなさい!!!」
そして王女殿下は息を荒くしながら逃げるようにしてこの場を去った。彼女が完全に見えなくなってからようやく私はほっと胸を撫で下ろした。
「・・・ふぅ、何とかなりましたね。公女様」
「・・・」
前にいるフローレス公女は俯いたままプルプルと震えていた。
「うわーん、聖女様ぁぁぁ!!!」
そして、黙り込んだと思ったら今度は泣きながら私に抱き着いてきた。
「こ、公女様・・・?」
「私のために王女殿下にあんなことを・・・!」
「あ」
どうやらフローレス公女はそれで泣いているらしい。私のために涙を流してくれるだなんて本当に優しい子だ。
「聖女様ぁ・・・」
私は私の胸で泣き続けるフローレス公女に優しく微笑んだ。
「お気になさらないでください、王女殿下には元々嫌われてましたから」
「そ、そんな・・・」
私の言葉にフローレス公女は沈痛な面持ちで私を見つめた。
「ところで公女様、さっき王女殿下に言ってた”あのこと”って一体何なのですか?」
「・・・」
私のその問いにフローレス公女はポカンと口を開けて固まった。
「・・・もしかして聖女様はご存知ないのですか?」
「え、何をですか?」
「・・・」
場がシーンとなった。
しばらくして、フローレス公女がハッとなって口を開いた。
「えっと・・・そうですわね。それならどこから説明すればいいのか・・・」
「・・・?」
「―この国には聖女に関するとある法が存在しています」
あの日からアレックスが私に何かしてくることは無くなった。私に言われたことが相当効いたようだ。アンジェリカ王女殿下に嫌味を言われるようなこともなく、ここ最近は比較的穏やかに過ごせていた。
そして今日、私は珍しく自室でお茶をしていた。それも一人ではなくフローレス公女と。
「聖女様」
「フローレス公女様・・・」
私の目の前にはさっきからずっとニコニコしているフローレス公女が座っていた。
「またお会い出来てとっても嬉しいですわ」
私がお茶会に招待したわけではなく、本当に偶然だった。王宮の廊下を歩いていたところたまたまフローレス公女と遭遇し、ちょうど空き時間だったため暇していた彼女をお茶に誘ったのである。
(まぁ、私もフローレス公女のことは好きだから別に良いけれど)
こうしていると何だか妹が出来たみたいで嬉しくなる。私はそんなフローレス公女に笑い返した。
「ええ、私も公女様に会えて嬉しいです。それより今日も王太子殿下に会いに王宮へ来られたのですか?」
「あ、えっと・・・私がというよりかはお父様が・・・」
「フローレス公爵閣下が?」
私はその言葉に少しだけ驚いた。
(最近よく王太子殿下に会いに来ているみたいね・・・)
どうやらフローレス公爵閣下がよく王太子殿下に会いに来ているようだ。
「はい、私は聖女様に会いたくてついて来てしまいました」
そう言いながらえへへと笑うフローレス公女は本当に愛らしい。
「私も会いたかったです、公女様」
「まあ、本当ですか?」
「はい」
私のその言葉にフローレス公女が嬉しそうに顔を輝かせた。それから私たちはしばらくの間お茶を飲みながらお互いの近況についての話をした。
和やかな雰囲気のまま時間が過ぎ、フローレス公女が公爵邸へ帰る時間となった。
「あ!そろそろ時間ですわ」
「まぁ、ではここでお別れですね」
「もっと聖女様とご一緒したかったのに・・・」
私の言葉に、フローレス公女の顔が一瞬にして曇った。彼女の暗い表情を見るのは心苦しいが、こればかりはどうしようもない。私は落ち込むフローレス公女を慰めるようにして言った。
「またすぐに会えますよ、公女様」
それを聞いたフローレス公女の表情が明るくなった。
「はい!楽しみにしておりますわ!」
侍女にお茶を下げさせた私は、フローレス公女を父である公爵様の元まで送るために一緒に部屋を出た。
「次は公女様の好きなお菓子を用意してお待ちしていますね」
「まぁ、本当ですか!?」
二人楽しく会話をしながら歩いていたそのとき、後ろから聞き慣れた声が私たちの間に割り込んだ。
「―あら、誰かと思ったら負け犬のお二方ではありませんか」
「「!」」
その声に、二人同時に後ろを振り返った。
「アンジェリカ王女殿下・・・!」
「王女殿下・・・」
王女殿下を見たフローレス公女の顔がみるみるうちに引きつっていく。このような反応になるのは当然だ。フローレス公女とアンジェリカ王女殿下には因縁があるのだから。
「ご機嫌よう、聖女様、フローレス公女」
「・・・お久しぶりでございます、王女殿下」
フローレス公女は王女殿下の前で美しいカーテシーを披露した。私もそれに倣ってカーテシーをする。王女殿下は気付いていないようだが、フローレス公女の声がいつもより少しだけ低くなっている。
「フローレス公女・・・」
王女殿下は目の前で頭を下げているフローレス公女を見て口角を上げた。その声に公女が顔を上げて王女殿下を見た。
「・・・何でしょうか」
「元気そうで良かったですわ。あのときのショックで公爵邸から出られなくなっているのではないかと心配しておりました」
「・・・」
その言葉を聞いたフローレス公女の眉がピクリと動いた。王女殿下の発言が相当頭に来ているようだ。フローレス公女の隣でそれを見ていた私はというと―
(・・・アンジェリカ王女殿下ってこんな口調だったっけ?)
王女殿下の変わりっぷりに驚いた。もしかすると年下相手には威張りたいタイプの人なのかもしれない。
「・・・私のことを気にかけてくださりありがとうございます。この通り、ピンピンしておりますわ」
「まあ、それは良かったわ」
目の前でアンジェリカ王女殿下とフローレス公女がバチバチと火花を散らしている。それから二人はしばらくの間見つめ合っていたが、先に視線を逸らしたのはフローレス公女の方だった。
「王女殿下、他に御用が無いのであれば私たちは失礼いたします」
王女相手では分が悪いと思ったのか、フローレス公女が私の手を引っ張ってこの場を立ち去ろうとする。しかし、そんな私たちに王女殿下は不敵な笑みを浮かべて口を開いた。
「まあ、せっかくお会い出来たというのにもう行ってしまうの?それとも、怖いのかしら?私にまた大切な人を奪われるんじゃないかって」
「・・・!」
その言葉に、嫌な記憶を思い出してしまったのかフローレス公女が涙目になって俯いた。
「こ、公女様・・・」
今のは間違いなく私とフローレス公女両方に対して言った言葉だろう。私はもう何とも思わないが、隣で肩を震わせて涙をこらえているフローレス公女を見て王女殿下に対する怒りがこみ上げてくる。
(私だけならまだしも、フローレス公女はまだ幼いのに・・・)
私はついに我慢の限界を迎え、フローレス公女を庇うようにして前に出た。
「王女殿下、いい加減にしてください」
「・・・何ですって?」
私の反抗的な態度に王女殿下の顔から表情が消えた。しかし今の私にはそれを怖いとも思わなかった。
「これ以上公女様を傷付けないでください!」
「・・・平民が、誰に向かってそんな口を聞いているの?」
「聖女様・・・!?」
私に気付いたフローレス公女が驚いたように顔を上げた。
「私のことはどれだけ傷付けてもかまいません。だから公女様を標的にするのはもうやめてください」
「何よ、私に命令しているの!?」
私が反論したのが相当気に食わなかったのか、王女殿下は美しい顔を歪ませた。
「この私にそんなこと言うだなんて、それは死にたいという・・・」
「―王女殿下」
そのとき、後ろにいたフローレス公女が今度は私の前に出た。
「聖女様に手を出すおつもりですか?まさか王女殿下ともあろう方が、”あのこと”を知らないわけではありませんわよね?」
「・・・・・・ッ!」
フローレス公女のその言葉に、王女殿下の顔は青くなっていった。
(あのことって何だろう・・・?)
フローレス公女の言っているあのこととは一体何のことなのだろうか。その一言を聞いた王女殿下が顔色を変えた意味が分からず、困惑した。
「お、覚えてなさい!!!」
そして王女殿下は息を荒くしながら逃げるようにしてこの場を去った。彼女が完全に見えなくなってからようやく私はほっと胸を撫で下ろした。
「・・・ふぅ、何とかなりましたね。公女様」
「・・・」
前にいるフローレス公女は俯いたままプルプルと震えていた。
「うわーん、聖女様ぁぁぁ!!!」
そして、黙り込んだと思ったら今度は泣きながら私に抱き着いてきた。
「こ、公女様・・・?」
「私のために王女殿下にあんなことを・・・!」
「あ」
どうやらフローレス公女はそれで泣いているらしい。私のために涙を流してくれるだなんて本当に優しい子だ。
「聖女様ぁ・・・」
私は私の胸で泣き続けるフローレス公女に優しく微笑んだ。
「お気になさらないでください、王女殿下には元々嫌われてましたから」
「そ、そんな・・・」
私の言葉にフローレス公女は沈痛な面持ちで私を見つめた。
「ところで公女様、さっき王女殿下に言ってた”あのこと”って一体何なのですか?」
「・・・」
私のその問いにフローレス公女はポカンと口を開けて固まった。
「・・・もしかして聖女様はご存知ないのですか?」
「え、何をですか?」
「・・・」
場がシーンとなった。
しばらくして、フローレス公女がハッとなって口を開いた。
「えっと・・・そうですわね。それならどこから説明すればいいのか・・・」
「・・・?」
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