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本編

24 招待状

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「え・・・」


(王太子殿下に関することじゃない・・・?)


それなら一体何故彼女は私をここへ連れてきたのだろうか。わざわざ庭園まで来たということはあの場で言いづらいことなのだと思っていた。例えば、私と王太子殿下の関係を問い詰めたり・・・


私はフローレス公女の行動の真意が分からなかった。


「そ、それは一体・・・」


「それはこちらのセリフですわ、聖女様」


フローレス公女はそう言って首をかしげた。本気で何を言っているのか分からないといったような顔だ。彼女のその表情を見た私は困惑した。


(わ、私に文句を言いに来たんじゃなかったの・・・?)


返す言葉が見つからなくて、私はじっとフローレス公女の顔を見つめた。


私のその反応を見てフローレス公女がハァと小さくため息をついた。


「聖女様は何かを誤解していらっしゃるようですね」


「・・・」


(え・・・?誤解してるのはあなたの方じゃ・・・?)


彼女の発言を不思議に思う私に、フローレス公女は信じられないことを口にした。


「―私が聖女様にお聞きしたいのは、アンジェリカ王女殿下と勇者様に関することです」


「・・・・・・・・え!?」


まさかフローレス公女からあの二人の名前が出てくるとは思わなくて驚いた。


「王女殿下とアレックスのことですか・・・?」


一体何を、と尋ねようとしたところで突然フローレス公女が私の手をギュッと握った。


「―聖女様、是非今度フローレス公爵邸で開かれるお茶会へいらしてください」


「お茶会・・・」


「詳しいことはそこでお話いたしますわ」


フローレス公女はニッコリと笑ってそう言った。有無を言わせない、といったような言い方だった。おそらくこの場ではこれ以上のことは聞くなという意味も込められているのだろう。


「公女様・・・」


「近いうちに招待状をお送りしますわ。是非、いらしてくださいね?」


一体私に何をするつもりなのだろうか。


彼女の微笑みは貴族令嬢がよく浮かべているような美しい笑みだった。


しかし三年間王宮で貴族たちを見てきた私は気付いた。その笑みが本心からのものではないということに。





◇◆◇◆◇◆




それから数日後。


フローレス公女の言っていた通り、本当に私の元にお茶会の招待状が届いた。


(ほ、ほんとに来た・・・!)


私は自分の元へ届いた招待状を訝しげに眺めた。


フローレス公女は私をお茶会に呼んでどうするつもりなのだろうか。彼女は王太子殿下のことを聞きたいわけではないと言っていたが私は内心まだ疑っていた。もしかしたら大勢の前で私を見世物にするつもりなのではないだろうか。そんな不安からか、私はお茶会に参加することに対してあまり乗り気になれなかった。


(うーん・・・どうすればいいんだろう・・・?)






結局、決めきれなかった私は招待状を持ったまま部屋の外へと出た。


こういうときは誰かに相談するのが一番良いのだろうが、あいにく私にはそんな相手もいない。それに私はまだフローレス公女を完全に信じきったわけではない。表面だけ取り繕って裏で悪事に手を染めている貴族はたくさんいるのだから。もしかしたら彼女もそういう人なのかもしれない。


―怖い、本音を言うと行きたくない。


(だけど、公女様の誘いを断るわけには・・・)


どうしようかと悩んでいたそのとき、たまたまある人物が通りかかった。


「―ソフィア嬢じゃないか」


「あ・・・殿下・・・」


王太子殿下は軽く手を振りながら当然のように私の方へと歩いて来た。


「こんなところで何をしているんだ?」


「あ、いや、その・・・」


返答に詰まっていたそのとき、私の手からパサリとお茶会の招待状が床に落ちた。


「あ・・・」


「ん・・・?何か落としたぞ?」


すぐに拾い上げて隠したかったが、招待状は王太子殿下の方向に向かって落ちていったため彼の手に渡ってしまった。


「お茶会の招待状・・・?」


殿下は招待状の文面をチラリと見てそう呟いた。


「あ・・・」


「・・・リリーナからだな」


フローレス公女ではなくリリーナと呼んでいるあたり王太子殿下と彼女は親交があるようだ。


(まぁ、従兄弟で婚約者候補なら当然の話か・・・)


もう隠すことも出来ないと思った私は殿下に話した。


「じ、実はそうなんです。フローレス公女様からお茶会に招待されて・・・」


私がそう言うと王太子殿下はふむと顎に手を当てて考え込んだ。


「良いんじゃないか?参加してみたらどうだ?」


「え・・・」


王太子殿下は私がフローレス公女のお茶会に参加することに賛成のようだった。


「わ、私お茶会に参加するのは初めてで・・・」


「だからこそ、今のうちから経験しておいた方が良いだろう」


「た、たしかに・・・」


それでもまだ不安げに揺れる私の瞳を見たのか、彼は私を安心させるように言った。


「それに安心していい。リリーナならきっと君を悪いようにはしないさ」


「・・・そうでしょうか」


「あ、そういえば君はリリーナと関わったことがなかったな。何で急に招待状を送ったのかは私も分からないが・・・」


「あ、いえ・・・」


この間一度お会いしました、なんてとてもじゃないけど言えなかった。


(結局参加するしかないのかな・・・)


私は王太子殿下に後押しされて、ついにお茶会への参加を決めた。


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