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本編
14 遭遇
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アレックスとアンジェリカ王女殿下の婚約発表から数日が経った。私は今日も授業に向かうため王宮の廊下を歩いていた。淑女教育、魔法の特訓、聖女としての活動。毎日毎日同じことの繰り返しで頭がどうにかなりそうだ。
アレックスと王女殿下が婚約しようと私にはもう関係ないことだ。彼らが結ばれようと私の日常には何の影響もない。いつものように毎日似たようなスケジュールをこなすだけ。
(私は一刻も早くここから出なければいけない。だからあの二人のことなんていちいち気にしちゃいられない)
そんなことを考えながら私は王宮を歩く。相変わらず息が詰まりそうだ。
「・・・」
そんなことより、何だか最近王宮の空気が重くなったような気がするのは私の気のせいだろうか。
(いつもよりどんよりしているのは気のせい?)
三年間ずっと王宮で暮らしている私は、今の状態にどこか違和感を感じていた。こんなのはここへ来てから初めてだ。
すると、前から気を落としたような表情の貴族令息が歩いてくる。
「ハァ・・・」
その貴族の令息は私の方を見もせず、気分の悪そうな顔でただため息をついて私の横を通り過ぎて行った。それも彼だけではない。ここ最近私とすれ違った貴族令息皆が彼と同じような顔をしていた。
(・・・・・・・何なの?)
私は弱々しい背中をしている令息の後ろ姿を見つめ、そう思った。いつもと違う彼らの様子に困惑している自分がいる。
(最近何か令息たちが落ち込むようなことあったっけ?)
私は頭の中をフル回転させて考え込んだ。
そこであることに気が付いた。
(あ、もしかして)
―アレックスとアンジェリカ王女殿下の婚約。
もしかしたらそれが原因で彼らはそれほどに落ち込んでいるのではないだろうか。
いや、ここ数日間で貴族社会を揺るがすほどの大きなニュースはむしろそれしかない。
(アンジェリカ王女殿下は絶世の美女であり、社交界の華でもある。貴族令息たちはあわよくば彼女を妻にと望んでいただろうから・・・そんな人が婚約してしまえばこんな空気になるのも無理ないわね)
ようやく合点がいき、私はうんうんと頷いた。
それでこんなにも王宮の空気が重苦しく感じるのか。
―国内外問わず縁談が山のように舞い込んできていたにもかかわらず、長い間誰も選ぶことのなかった美貌の王女殿下が婚約した。それも国民から人気の高い存在である勇者と。それにより、今王都は完全にお祝いムードだ。
しかし、どうやら貴族社会では違ったらしい。皆が皆王女殿下とアレックスの婚約を祝福してくれているというわけなかったようだ。実際に、数日前から貴族令息たちは皆一様に覇気が無い。
(私にとってはもうどうでもいいことだけど・・・)
何だか自分までこの空気に浸食されていってしまいそうな気がしてくる。別にアレックスにまだ未練があるからとかそういうわけではない。ただ単にあの二人を思い出すのが嫌なだけだ。
この王宮にいる限り、私があの二人のことを忘れる日は来ないだろう。
(だからこそすぐに王宮から抜け出さなければいけないわね。そのためには聖女としての活動を頑張らなければいけない。ええと、たしかもうすぐ騎士団の討伐があるはずだから・・・)
そんなことを考えていたそのときだった―
「―まぁ、聖女様ではありませんか」
「あ・・・」
王宮の廊下で立ち止まっていたそのとき、突然声をかけられて後ろを振り返った。
「アンジェリカ王女殿下・・・」
私に話しかけてきたのは予想通りの人物だった。
そして、その隣にいたのは―
(アレックス・・・)
私に声をかけてきたのはアンジェリカ王女殿下と―その婚約者のアレックスだった。
(最悪だ・・・)
王女殿下はアレックスの腕にしがみついて不敵な笑みを浮かべながら私を見ていた。それはまるで私を挑発しているようだった。
(ダメ・・・動揺してはいけない・・・)
少しでも動揺してしまえばそれは王女殿下の思う壺だ。彼女はそうなることを望んでいるのだから。本当なら今すぐこの場から逃げ出したかったが、相手が王女である以上そうはいかない。それにそんなことをしたら、仲睦まじい二人を見たくなくて逃げたと思われてしまうだろう。それだけは絶対に嫌だ。
私は沸き上がってくる恐怖心を必死で抑え、スカートの裾を持ち上げた。
「アンジェリカ王女殿下、勇者様。ご機嫌いかがでしょうか」
平然を装い、彼らに挨拶をした。
私のその言葉を聞いたアレックスが不思議そうにポツリと呟いた。
「”勇者様”・・・?」
「・・・何か、問題でも?」
「あ、いや・・・」
そう、私はもうアレックスの婚約者ではない。同じ村で育った幼馴染とはいえ、彼は今王女殿下の婚約者なのだ。二人きりのときならまだしも、婚約者である王女殿下の前で呼び捨てにするだなんてそんな不敬な真似は出来ない。
(何故王女殿下が私を目の敵にするのかは分からないけれど・・・私は絶対に彼らの思い通りにはならないわ)
いくら婚約解消を切り出したのが私とはいえ、世間は私が女として王女殿下に負けたのだと思っているだろう。実際に、私は浮気をされた挙句彼女に婚約者を奪われてしまったのだから。そう思われているだけでも非常に不快だが、二度も同じような屈辱を味わうわけにはいかない。
「聖女様、こんなところで一体何をしていらっしゃるのですか?」
「これから光魔法の授業へ向かうところです」
「まあ、そうでしたか・・・」
私の返答に王女殿下はニヤリと笑った。
そして、突然パァッと輝くような笑みを浮かべて言葉を続けた。
「私、これからアレックス様とお出かけしてきますの!」
「・・・」
少し前の私なら王女殿下のその言葉を聞いて嫉妬で狂っていただろう。しかし、不思議と今は何とも思わなかった。それどころか、一時的とはいえ彼らが王宮からいなくなってくれることを嬉しいとさえ思っていた。
私は王女殿下に笑い返した。
「まあ、そうだったのですね。是非楽しんできてください」
「・・・」
それを聞いた王女殿下の顔から表情が消えた。
(私が嫉妬するとでも思っていたのかな)
あいにく私はもう嫉妬心を抱くほどアレックスのことを好いてはいない。実際、目の前でイチャついている二人を見ても別に何も思わなかった。私の恋はとっくに終わっているからだ。
「殿下?どうかなさったのですか?」
「・・・・・・・・・ええ、もちろんそういたしますわ」
王女殿下はしばらくの間真顔で固まっていたが、私の声に反応してすぐにいつもの顔に戻った。
「・・・」
ふと王女殿下の横にいたアレックスを見ると、彼は何かを言いたそうな顔で私を見ていた。
しかし私はアレックスが何を望んでいようとも、彼と話すことなど何もない。アレックスのその視線に気付かないフリをした。
「それでは私は魔法の授業がありますのでこれで失礼いたします」
私はそれだけ言って王女殿下たちから背を向けた。
「・・・・・・ええ、聖女様のさらなるご活躍をお祈りしていますわ」
後ろから王女殿下の声が聞こえた。背を向けているため王女殿下の顔は見えないが、その言葉にはどこか棘があるように感じた。
「・・・・・・一つ、言い忘れていました」
「・・・?」
私はそこで王女殿下たちの方を振り返った。
「王女殿下、勇者様。ご婚約おめでとうございます。どうかお幸せに」
「「・・・!」」
私の祝いの言葉に二人は目を見開いて驚いたような顔をした。まさか私からそんなことを言われるとは思っていなかったのだろうか。どちらにせよ、彼らのそんな顔を見れるのは悪くない。
次は振り返ることなく、私はそのまま授業へと向かった。
アレックスと王女殿下が婚約しようと私にはもう関係ないことだ。彼らが結ばれようと私の日常には何の影響もない。いつものように毎日似たようなスケジュールをこなすだけ。
(私は一刻も早くここから出なければいけない。だからあの二人のことなんていちいち気にしちゃいられない)
そんなことを考えながら私は王宮を歩く。相変わらず息が詰まりそうだ。
「・・・」
そんなことより、何だか最近王宮の空気が重くなったような気がするのは私の気のせいだろうか。
(いつもよりどんよりしているのは気のせい?)
三年間ずっと王宮で暮らしている私は、今の状態にどこか違和感を感じていた。こんなのはここへ来てから初めてだ。
すると、前から気を落としたような表情の貴族令息が歩いてくる。
「ハァ・・・」
その貴族の令息は私の方を見もせず、気分の悪そうな顔でただため息をついて私の横を通り過ぎて行った。それも彼だけではない。ここ最近私とすれ違った貴族令息皆が彼と同じような顔をしていた。
(・・・・・・・何なの?)
私は弱々しい背中をしている令息の後ろ姿を見つめ、そう思った。いつもと違う彼らの様子に困惑している自分がいる。
(最近何か令息たちが落ち込むようなことあったっけ?)
私は頭の中をフル回転させて考え込んだ。
そこであることに気が付いた。
(あ、もしかして)
―アレックスとアンジェリカ王女殿下の婚約。
もしかしたらそれが原因で彼らはそれほどに落ち込んでいるのではないだろうか。
いや、ここ数日間で貴族社会を揺るがすほどの大きなニュースはむしろそれしかない。
(アンジェリカ王女殿下は絶世の美女であり、社交界の華でもある。貴族令息たちはあわよくば彼女を妻にと望んでいただろうから・・・そんな人が婚約してしまえばこんな空気になるのも無理ないわね)
ようやく合点がいき、私はうんうんと頷いた。
それでこんなにも王宮の空気が重苦しく感じるのか。
―国内外問わず縁談が山のように舞い込んできていたにもかかわらず、長い間誰も選ぶことのなかった美貌の王女殿下が婚約した。それも国民から人気の高い存在である勇者と。それにより、今王都は完全にお祝いムードだ。
しかし、どうやら貴族社会では違ったらしい。皆が皆王女殿下とアレックスの婚約を祝福してくれているというわけなかったようだ。実際に、数日前から貴族令息たちは皆一様に覇気が無い。
(私にとってはもうどうでもいいことだけど・・・)
何だか自分までこの空気に浸食されていってしまいそうな気がしてくる。別にアレックスにまだ未練があるからとかそういうわけではない。ただ単にあの二人を思い出すのが嫌なだけだ。
この王宮にいる限り、私があの二人のことを忘れる日は来ないだろう。
(だからこそすぐに王宮から抜け出さなければいけないわね。そのためには聖女としての活動を頑張らなければいけない。ええと、たしかもうすぐ騎士団の討伐があるはずだから・・・)
そんなことを考えていたそのときだった―
「―まぁ、聖女様ではありませんか」
「あ・・・」
王宮の廊下で立ち止まっていたそのとき、突然声をかけられて後ろを振り返った。
「アンジェリカ王女殿下・・・」
私に話しかけてきたのは予想通りの人物だった。
そして、その隣にいたのは―
(アレックス・・・)
私に声をかけてきたのはアンジェリカ王女殿下と―その婚約者のアレックスだった。
(最悪だ・・・)
王女殿下はアレックスの腕にしがみついて不敵な笑みを浮かべながら私を見ていた。それはまるで私を挑発しているようだった。
(ダメ・・・動揺してはいけない・・・)
少しでも動揺してしまえばそれは王女殿下の思う壺だ。彼女はそうなることを望んでいるのだから。本当なら今すぐこの場から逃げ出したかったが、相手が王女である以上そうはいかない。それにそんなことをしたら、仲睦まじい二人を見たくなくて逃げたと思われてしまうだろう。それだけは絶対に嫌だ。
私は沸き上がってくる恐怖心を必死で抑え、スカートの裾を持ち上げた。
「アンジェリカ王女殿下、勇者様。ご機嫌いかがでしょうか」
平然を装い、彼らに挨拶をした。
私のその言葉を聞いたアレックスが不思議そうにポツリと呟いた。
「”勇者様”・・・?」
「・・・何か、問題でも?」
「あ、いや・・・」
そう、私はもうアレックスの婚約者ではない。同じ村で育った幼馴染とはいえ、彼は今王女殿下の婚約者なのだ。二人きりのときならまだしも、婚約者である王女殿下の前で呼び捨てにするだなんてそんな不敬な真似は出来ない。
(何故王女殿下が私を目の敵にするのかは分からないけれど・・・私は絶対に彼らの思い通りにはならないわ)
いくら婚約解消を切り出したのが私とはいえ、世間は私が女として王女殿下に負けたのだと思っているだろう。実際に、私は浮気をされた挙句彼女に婚約者を奪われてしまったのだから。そう思われているだけでも非常に不快だが、二度も同じような屈辱を味わうわけにはいかない。
「聖女様、こんなところで一体何をしていらっしゃるのですか?」
「これから光魔法の授業へ向かうところです」
「まあ、そうでしたか・・・」
私の返答に王女殿下はニヤリと笑った。
そして、突然パァッと輝くような笑みを浮かべて言葉を続けた。
「私、これからアレックス様とお出かけしてきますの!」
「・・・」
少し前の私なら王女殿下のその言葉を聞いて嫉妬で狂っていただろう。しかし、不思議と今は何とも思わなかった。それどころか、一時的とはいえ彼らが王宮からいなくなってくれることを嬉しいとさえ思っていた。
私は王女殿下に笑い返した。
「まあ、そうだったのですね。是非楽しんできてください」
「・・・」
それを聞いた王女殿下の顔から表情が消えた。
(私が嫉妬するとでも思っていたのかな)
あいにく私はもう嫉妬心を抱くほどアレックスのことを好いてはいない。実際、目の前でイチャついている二人を見ても別に何も思わなかった。私の恋はとっくに終わっているからだ。
「殿下?どうかなさったのですか?」
「・・・・・・・・・ええ、もちろんそういたしますわ」
王女殿下はしばらくの間真顔で固まっていたが、私の声に反応してすぐにいつもの顔に戻った。
「・・・」
ふと王女殿下の横にいたアレックスを見ると、彼は何かを言いたそうな顔で私を見ていた。
しかし私はアレックスが何を望んでいようとも、彼と話すことなど何もない。アレックスのその視線に気付かないフリをした。
「それでは私は魔法の授業がありますのでこれで失礼いたします」
私はそれだけ言って王女殿下たちから背を向けた。
「・・・・・・ええ、聖女様のさらなるご活躍をお祈りしていますわ」
後ろから王女殿下の声が聞こえた。背を向けているため王女殿下の顔は見えないが、その言葉にはどこか棘があるように感じた。
「・・・・・・一つ、言い忘れていました」
「・・・?」
私はそこで王女殿下たちの方を振り返った。
「王女殿下、勇者様。ご婚約おめでとうございます。どうかお幸せに」
「「・・・!」」
私の祝いの言葉に二人は目を見開いて驚いたような顔をした。まさか私からそんなことを言われるとは思っていなかったのだろうか。どちらにせよ、彼らのそんな顔を見れるのは悪くない。
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