【本編完結】幼馴染で将来を誓い合った勇者は私を捨てて王女と結婚するようです。それなら私はその王女様の兄の王太子様と結婚したいと思います。

ましゅぺちーの

文字の大きさ
上 下
13 / 79
本編

13 舞踏会

しおりを挟む
それから数日後。


「・・・」


私は無駄に広い会場に一人でいた。


「見て、聖女様よ・・・」


「勇者様はどうしたのかしら?」


「あら、知らないの?噂では勇者様はもう・・・」


周りにいる貴族たちが私を見てヒソヒソと話している。それが私を褒めているわけではないのだということだけはよく伝わってくる。


私は舞踏会で完全に好奇の目にさらされていた。


(はぁ~~~~~~~~)


心の中で大きなため息をついた。


今日、私は王家主催の舞踏会に参加していた。舞踏会に参加するのはこれが初めてではない。ただ、一人で参加するのは初めてだ。私はいつもアレックスのエスコートで会場へ入っていたから。しかしアレックスはもう王女殿下の婚約者なので私をエスコートするわけにはいかない。他に親しい男性などいない私は一人で会場へ入るほかなかったのだ。


(早く帰りたい・・・)


それからしばらくしてアレックスと王女殿下が会場へと入ってきた。


今日の主役はこの二人だ。何故ならこの舞踏会はアレックスと王女殿下の婚約を貴族たちに知らせるためのものだからだ。もちろんそんなことを知らない貴族たちは二人と私を交互に見てザワザワしている。


そして、玉座に座る国王陛下が仲睦まじい様子で入場してきた二人を手招きして呼び寄せた。


「今日は皆に伝えたいことがある!自慢の我が娘アンジェリカと勇者アレックスがこの度婚約することになった!」


陛下のその言葉に貴族たちの間でどよめきが広がった。


(周りの視線が痛い・・・)


それから二人は会場の中央へ移動して踊り始める。アレックスは元々整った顔立ちをしている。絶世の美女と呼ばれる王女殿下と並んだら本当に絵になるなと思う。周りの貴族たちも突然の発表に最初は動揺しているようだったがダンスをする二人を見て口々にお似合いだと言い始めた。


私から見ても本当にお似合いな二人だと思う。やはり私はアレックスとは釣り合わなかったのだ。私は特別頭が良いわけでも、王女殿下ほどの美しさを持ち合わせているわけでもないのだから。


しばらくして二人のダンスが終了した。会場にいた貴族たちから盛大な拍手が起こる。ダンスを終えた二人の周りには一瞬にして人だかりが出来た。彼らはただただ二人を褒め称える言葉を口にしている。どうやら私の味方は誰もいないらしい。


(・・・分かってはいたけれど、何だか悲しくなるわね)


私は会場の隅に一人ポツンと取り残された。まるで美しい花の傍に目立たずひっそりと生えている雑草のようだ。誰一人としてその存在に気付かない。


(もう体調が悪いって言って抜けようかな・・・)


この場での私は招かれざる客なのだろう。


そう思ってその場を離れようとしたそのとき、突然すぐ傍から声がした。


「―ソフィア嬢」


(この声は・・・もしかして・・・!)


耳に入ってきたのは聞き覚えのある優しい声だった。


「殿下・・・!」


私に声をかけたのは、王太子殿下だった。どうやら彼もこの舞踏会に参加していたようだ。普段と違って髪の毛をしっかりとセットしているからかどこか雰囲気が違って見えた。しかしその美しさは相変わらず健在である。


「久しぶりだな、ソフィア嬢」


「はい、お久しぶりです」


そういえばここ最近舞踏会の準備が忙しくて王太子殿下に会っていなかったことに気付く。


「元気にしていたか?」


「はい、おかげさまで」


「そうか、それはよかった」


私の返事に殿下は満足げな笑みを浮かべた。


王太子殿下が色々と気遣ってくれたおかげで、ここ数日はわりと快適に過ごすことが出来ていた。


(本当に、殿下には感謝してもしきれないな)


そんなことを思っていたそのとき、殿下が突然私の手を取った。


「―ところでソフィア嬢。よければ私と一曲踊ってはくれないだろうか」


「・・・・・・え」


一瞬何かの聞き間違いかと思った。私が舞踏会で見た王太子殿下はいつもたくさんの令嬢に囲まれていたがその中の誰とも踊ることはなかったからだ。


「わ、私とですか・・・?」


「君以外に誰がいるんだ」


王太子殿下はそんな私の反応にクスリと笑いながらそう言った。


(ほ、本当に私と踊るつもりなの!?)


私はそのことに驚いたが、王太子殿下の誘いを断るわけにはいかない。


「・・・はい、喜んで」


私はそう言って王太子殿下の手をギュッと握り返した。


殿下はそんな私にフッと笑みを浮かべるとそのまま会場の中央へとエスコートする。アレックスと王女殿下に注がれていた視線が一気にこちらへと集まった。


(な、何か恥ずかしい・・・!)


注目されるのは初めてではないのに、何故だか今は少しだけ恥ずかしいと感じている自分がいた。


そして楽団が演奏を始める。私と王太子殿下はそれに合わせてステップを踏んだ。王太子殿下は物凄くリードが上手でとても踊りやすかった。流石は王子といったところだろうか。私はあまりダンスが得意ではないが彼のおかげで難無く踊ることが出来た。


ダンスの最中、私と目が合った王太子殿下は私にこれ以上ないくらい優しい笑みを向けた。アレックス以外の男性と関わってこなかった私は不覚にも少しだけドキッとした。


そうしてダンスが終了した。アレックスと王女殿下が踊っていたときと同じように盛大な拍手が起こった。その拍手はおそらく私ではなく王太子殿下に向けてのものなのだろうが。


「ソフィア嬢、少し外へ行こうか」


「あ、はい・・・」


王太子殿下は私の手を握ったまま会場の外へと歩き出した。その途中でアレックスとバチリと目が合った。彼は複雑そうな顔でこちらを見ていて、隣にいた王女殿下に関しては物凄く不機嫌そうだった。せっかくの美しい顔が台無しだ。


私はそんな二人の視線を無視し、王太子殿下に連れられるがまま外へ行った。





◇◆◇◆◇◆




会場の外へと出た王太子殿下はしばらく歩くと私の手をパッと離して私に向き直った。


「殿下・・・?」


振り返った殿下の紫色の瞳と目が合う。吸い込まれそうなほどに美しいその瞳はどこか切なさを帯びていた。


「ソフィア嬢」


「はい・・・」


殿下に名前を呼ばれて返事をする。その次に彼の口から出たのは意外な言葉だった。


「―君に、礼を言いたいんだ」


「・・・・・はい?」


私は殿下の言っていることの意味が分からなかった。私はお礼を言われるようなことなどしていない。むしろ感謝しているのは私の方だ。困惑する私をよそに、殿下は言葉を続けた。


「前会ったときに言おうかと思っていたんだが、君を助けることに夢中でつい忘れてしまっていた」


「それは一体・・・」


「あんなことを言ってくれたのは、君が初めてだった」


「・・・?」


突然何を言い出すのだろうか。私は殿下の言葉の意味が分からなくて首をかしげた。


「私の母は、君が前言った通りとても優しい人だったんだ」


「あ・・・」


それを聞いて私はようやく理解した。前に殿下と会ったとき、彼の母君である王妃陛下の話をしたのだ。私は殿下がそのことで気を悪くしたと思っていたが、逆だったようだ。


「側妃に嫉妬しているだとか冷たい女だとかそんなものはただの噂でしかない。それなのに貴族たちは皆それを信じた。母のことをよく知りもしないのに醜い女だと言った」


「殿下・・・」


そう言った殿下は悔しそうな顔をしていた。当然だろう。自分の親を悪く言われるのは誰だって嫌なものだ。


「―だけど、君だけは違った。これまで私の母のことを悪く言わなかったのは君だけだ。ありがとう、ソフィア嬢」


殿下は穏やかな笑みを浮かべてそう言った。その頬は僅かに赤く染まっている。私の発言がよほど嬉しかったのだろうか。何だか可愛い人だ。


私はそんな彼の様子に軽く笑いながら言った。


「いえ、ただ思ったことを口にしただけですよ」


「・・・・・!そうか・・・」


私の言葉を聞いた殿下はどこか嬉しそうだった。母君のことが本当に大好きだったのだろう。


私たちはそのまま会場に戻ることなくしばらくの間二人でいた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~

なか
恋愛
 私は本日、貴方と離婚します。  愛するのは、終わりだ。    ◇◇◇  アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。  初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。  しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。  それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。  この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。   レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。    全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。  彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……  この物語は、彼女の決意から三年が経ち。  離婚する日から始まっていく  戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。  ◇◇◇  設定は甘めです。  読んでくださると嬉しいです。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

王子が元聖女と離縁したら城が傾いた。

七辻ゆゆ
ファンタジー
王子は庶民の聖女と結婚してやったが、関係はいつまで経っても清いまま。何度寝室に入り込もうとしても、強力な結界に阻まれた。 妻の務めを果たさない彼女にもはや我慢も限界。王子は愛する人を妻に差し替えるべく、元聖女の妻に離縁を言い渡した。

団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました

毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作 『魔力掲示板』 特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。 平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。 今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...