8 / 79
本編
8 これからのこと
しおりを挟む
王女殿下と別れて私は早足で自室へと戻った。
幸いにも、彼女と遭遇した後は誰かに会うことはなかった。
私はそのまま自室にあるベッドにドサリと座り込んだ。
「はぁ・・・」
王女殿下と話したのは久しぶりだった。彼女は王宮ではいつも私を無視するから。しかし舞踏会など人の目があるところではさすがに無視は出来ないのか、挨拶程度ならしたことがあった。
私はそのときの王女殿下を思い浮かべた。
『ごきげんよう、聖女様』
そう言ってニッコリと微笑む王女殿下。王女殿下と同年代の貴族令息たちはそんな彼女の美しい笑みに皆頬を赤らめていた。そして令嬢たちは王女殿下は何て優しい人なのだろうと彼女に感心した。
彼女の舞踏会での姿は「王女という高貴な身分であるのにもかかわらず平民の聖女にも優しく接する美しいお姫様」だった。貴族たちは皆王女殿下のことをそう思っているだろうし、私も平民だった頃はよく彼女の話を耳にしたものだ。
誰にでも分け隔てなく接する美貌の王女様、王国一の美女、国王陛下が唯一愛した女性の娘。
どれも彼女を褒め称えるものだった。
しかし、今の私にはそれがどうも腑に落ちない。
(・・・・・・じゃあ、いつも私が王宮で見ている彼女は?ついさっき私が見たあれは?)
社交の場にいるアンジェリカ王女殿下はまさに社交界の華だった。周りにはいつも人だかりが出来ていてその中心で花が綻ぶような笑みを見せている。美しい容姿と王女という高貴な身分を持ち合わせていながら、自国の最高権力者の寵愛を一身に受けているのだ。貴族令息は誰でも一度は王女殿下に恋をし、令嬢は皆が彼女とお近づきになりたいと思っている。
(私は出来るだけ関わりたくないけれどね・・・)
もし先ほど見たアレがアンジェリカ王女殿下の本性なのであれば、私はあまり関わりたくないと思った。私の苦手とするタイプだ。
私はそのまま倒れるようにしてベッドに横になった。
(はぁ・・・これからどうしようかな?)
アレックスとの婚約を解消したことで、この先の結婚式など彼と参加する予定であった行事が全て無くなってしまった。そのため、私には今特にすることがない。これから自分が何をすればいいのか、また自分の将来のビジョンが思い浮かばなかった。
アレックスのことを考えると自然と気持ちが沈んでしまう。それは分かっているが、どうしても考えずにはいられなかった。
私は枕に顔を埋めて唇をグッと噛みしめた。
(アレックスに内緒でウエディングドレスも見に行ってたのに・・・)
何日も悩み続けてようやく決めたウエディングドレス。私は元々あまりファッションに興味が無かったが、愛する人の隣に立つのだからと気合いを入れてドレス選びをしていた。いくつものドレスを試着して、ようやく決めた一着だった。しかし、それも全て無駄になってしまったのだと思うと何だか悲しくなった。
私がアレックスと結ばれることは永遠にない。彼が選んだのは私ではなくアンジェリカ王女殿下だから。私では彼女の足元にも及ばないだろう。あの二人のことを考えるたびに複雑な気持ちになるが、いつまでもこんなことは言ってられない。
(私も、過去は忘れないといけないよね・・・)
そこで私は彼らのことを考えるのをやめた。
アレックスと結婚する未来はもう無くなってしまったのだから、これからは先のことを考えなければならない。
―これから私は、何をするべきか。
(とりあえず、このまま王宮に居続けるのだけは御免よ・・・)
それについて頭の中で少しだけ考えた私は真っ先にそう思った。
王宮にいる貴族たちは平民である私を良く思っていない人間が多い。それに何より王宮には私が今最も関わりたくない相手であるアレックスと王女殿下もいるのだ。正直、彼らが幸せそうにしているところなど見たくもない。
(王太子殿下は優しくしてくれるけれど・・・)
私の立場を考えると王太子殿下とあまり仲良くするべきではないだろう。平民の私と仲良くすれば殿下の評判を落とすことになりかねないし、貴族令嬢から変に嫉妬されても困る。出来るだけ面倒事は避けたいものだ。
フィリクス王太子殿下には長い間ずっと婚約者がいない。だから少しでも親しくすればすぐに噂になってしまいそうだ。殿下の妻の座を狙う貴族令嬢は数えきれないほどいるだろう。次期国王である殿下の心を射止めることが出来れば、未来の王妃になることが出来るのだから。
私は、そう思いながらもひとまず王宮から出る方法を考えた。
そして、あることを思いついた。
(・・・聖女としての功績を残せば、爵位がもらえるかな)
私が聖女として頑張れば、もしかしたら国王陛下から爵位をもらうことが出来るかもしれない。過去にも戦争で武功を立てて平民が貴族になったという例はいくつか存在する。
それに国のことを考えれば、国王陛下は聖女の力が使える私を手放したくはないはずだ。私はこの国で唯一光魔法が使える聖女なのだから。
―聖女としての功績を残し、国王陛下から爵位をもらう。
そうすればこの息が詰まるような王宮から出ることが出来るかもしれない。いや、それだけじゃない。爵位をもらうことが出来れば私は平民ではなく、貴族になる。そうすれば誰も私に文句など言えないし、今までのように平民だからと馬鹿にすることも出来ないだろう。
「・・・」
ついさっきまではいつまでここにいなければいけないんだろうと憂鬱な気持ちになっていたが、ようやく希望の光が見えたような気がした。
(よーし!頑張るわよ!絶対にここから抜け出してやるんだから!)
私は自室で一人、両手をギュッと握ってそう意気込んだ。
幸いにも、彼女と遭遇した後は誰かに会うことはなかった。
私はそのまま自室にあるベッドにドサリと座り込んだ。
「はぁ・・・」
王女殿下と話したのは久しぶりだった。彼女は王宮ではいつも私を無視するから。しかし舞踏会など人の目があるところではさすがに無視は出来ないのか、挨拶程度ならしたことがあった。
私はそのときの王女殿下を思い浮かべた。
『ごきげんよう、聖女様』
そう言ってニッコリと微笑む王女殿下。王女殿下と同年代の貴族令息たちはそんな彼女の美しい笑みに皆頬を赤らめていた。そして令嬢たちは王女殿下は何て優しい人なのだろうと彼女に感心した。
彼女の舞踏会での姿は「王女という高貴な身分であるのにもかかわらず平民の聖女にも優しく接する美しいお姫様」だった。貴族たちは皆王女殿下のことをそう思っているだろうし、私も平民だった頃はよく彼女の話を耳にしたものだ。
誰にでも分け隔てなく接する美貌の王女様、王国一の美女、国王陛下が唯一愛した女性の娘。
どれも彼女を褒め称えるものだった。
しかし、今の私にはそれがどうも腑に落ちない。
(・・・・・・じゃあ、いつも私が王宮で見ている彼女は?ついさっき私が見たあれは?)
社交の場にいるアンジェリカ王女殿下はまさに社交界の華だった。周りにはいつも人だかりが出来ていてその中心で花が綻ぶような笑みを見せている。美しい容姿と王女という高貴な身分を持ち合わせていながら、自国の最高権力者の寵愛を一身に受けているのだ。貴族令息は誰でも一度は王女殿下に恋をし、令嬢は皆が彼女とお近づきになりたいと思っている。
(私は出来るだけ関わりたくないけれどね・・・)
もし先ほど見たアレがアンジェリカ王女殿下の本性なのであれば、私はあまり関わりたくないと思った。私の苦手とするタイプだ。
私はそのまま倒れるようにしてベッドに横になった。
(はぁ・・・これからどうしようかな?)
アレックスとの婚約を解消したことで、この先の結婚式など彼と参加する予定であった行事が全て無くなってしまった。そのため、私には今特にすることがない。これから自分が何をすればいいのか、また自分の将来のビジョンが思い浮かばなかった。
アレックスのことを考えると自然と気持ちが沈んでしまう。それは分かっているが、どうしても考えずにはいられなかった。
私は枕に顔を埋めて唇をグッと噛みしめた。
(アレックスに内緒でウエディングドレスも見に行ってたのに・・・)
何日も悩み続けてようやく決めたウエディングドレス。私は元々あまりファッションに興味が無かったが、愛する人の隣に立つのだからと気合いを入れてドレス選びをしていた。いくつものドレスを試着して、ようやく決めた一着だった。しかし、それも全て無駄になってしまったのだと思うと何だか悲しくなった。
私がアレックスと結ばれることは永遠にない。彼が選んだのは私ではなくアンジェリカ王女殿下だから。私では彼女の足元にも及ばないだろう。あの二人のことを考えるたびに複雑な気持ちになるが、いつまでもこんなことは言ってられない。
(私も、過去は忘れないといけないよね・・・)
そこで私は彼らのことを考えるのをやめた。
アレックスと結婚する未来はもう無くなってしまったのだから、これからは先のことを考えなければならない。
―これから私は、何をするべきか。
(とりあえず、このまま王宮に居続けるのだけは御免よ・・・)
それについて頭の中で少しだけ考えた私は真っ先にそう思った。
王宮にいる貴族たちは平民である私を良く思っていない人間が多い。それに何より王宮には私が今最も関わりたくない相手であるアレックスと王女殿下もいるのだ。正直、彼らが幸せそうにしているところなど見たくもない。
(王太子殿下は優しくしてくれるけれど・・・)
私の立場を考えると王太子殿下とあまり仲良くするべきではないだろう。平民の私と仲良くすれば殿下の評判を落とすことになりかねないし、貴族令嬢から変に嫉妬されても困る。出来るだけ面倒事は避けたいものだ。
フィリクス王太子殿下には長い間ずっと婚約者がいない。だから少しでも親しくすればすぐに噂になってしまいそうだ。殿下の妻の座を狙う貴族令嬢は数えきれないほどいるだろう。次期国王である殿下の心を射止めることが出来れば、未来の王妃になることが出来るのだから。
私は、そう思いながらもひとまず王宮から出る方法を考えた。
そして、あることを思いついた。
(・・・聖女としての功績を残せば、爵位がもらえるかな)
私が聖女として頑張れば、もしかしたら国王陛下から爵位をもらうことが出来るかもしれない。過去にも戦争で武功を立てて平民が貴族になったという例はいくつか存在する。
それに国のことを考えれば、国王陛下は聖女の力が使える私を手放したくはないはずだ。私はこの国で唯一光魔法が使える聖女なのだから。
―聖女としての功績を残し、国王陛下から爵位をもらう。
そうすればこの息が詰まるような王宮から出ることが出来るかもしれない。いや、それだけじゃない。爵位をもらうことが出来れば私は平民ではなく、貴族になる。そうすれば誰も私に文句など言えないし、今までのように平民だからと馬鹿にすることも出来ないだろう。
「・・・」
ついさっきまではいつまでここにいなければいけないんだろうと憂鬱な気持ちになっていたが、ようやく希望の光が見えたような気がした。
(よーし!頑張るわよ!絶対にここから抜け出してやるんだから!)
私は自室で一人、両手をギュッと握ってそう意気込んだ。
105
お気に入りに追加
3,509
あなたにおすすめの小説
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。
藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。
そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。
私がいなければ、あなたはおしまいです。
国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。
設定はゆるゆるです。
本編8話で完結になります。
貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。
もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」
隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。
「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」
三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。
ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。
妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。
本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。
随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。
拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。
藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。
何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。
同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。
もうやめる。
カイン様との婚約は解消する。
でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。
愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。
旦那様、離縁の申し出承りますわ
ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」
大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。
領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。
旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。
その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。
離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに!
*女性軽視の言葉が一部あります(すみません)
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる