【本編完結】幼馴染で将来を誓い合った勇者は私を捨てて王女と結婚するようです。それなら私はその王女様の兄の王太子様と結婚したいと思います。

ましゅぺちーの

文字の大きさ
上 下
6 / 79
本編

6 聖女の力

しおりを挟む
「私はルイスというのだが、君の名は?」
「アルベルトです」
 姓はたがいに名乗らなかった。
 ルイスはつづけて二言三言、話しかけてみる。おずおずと相手も言葉を返してくれる。
 気づくと、閉館時間がせまってきているのか、二人だけになっていた。
 ちょうど出口へと向かうカップルの声が聞こえた。
「なぁ、今夜は泊まっていくだろう?」
 男の声に女性が承諾したらしく、笑い声が響く。
 おそらく絵を見ているうちに男の方は妙な気持ちになってきたのだろう。女もだ。これらの絵には催淫効果があるようだ。つくづくドミンゴ=カマノという絵描きは、罪なものを描いたものだ、とルイスは内心苦笑したが、さらに罪なのは、やはりアベル=アルベニス伯爵か。
 そのアベルが絵から抜け出てきたのではないかと思えるような相手を前にして、どうしてもこのまま別れることはルイスにはできない。
「アルベルト君は、将来は、やはり芸術方面の仕事につきたいのかな?」
 碧い瞳に翳がはしる。
「……いえ、実は学校は辞めることになると思います。……父が破産しまして……僕も働かないとやっていけない」
 彼からにじみでる哀愁の理由はそれかもしれない。
 ルイスは悲し気な相手の表情に、奇妙な興奮をおぼえた。
 アルベルトがかすかに首をかしげた。青いシャツの襟につつまれた首や項、かすかに見える胸元など、男とは思えぬほど白く、なまめかしい。
「君、こういう絵に興味があるのかい?」
 ちょうど二人の前にあるガラスケースのなかのひからびた羊皮紙には、木馬の上であえぐ美青年の姿がある。
 相手は、かすかに頬を赤く染めた。
(これは……、もしかしたら掘り出しものかもしれないぞ)
 ルイスは慎重に言葉を選んだ。
 経済的にこまっているのなら、稼げる仕事に気を引かれるかもしれない。それに……
(アベルのイメージにぴったりだ)
 ルイスの視線をどう取ったのか、アルベルトは困惑した顔になる。その表情も、いかにももっと虐めて、と訴えているようでルイスはぞくぞくしてきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました

毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作 『魔力掲示板』 特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。 平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。 今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~

なか
恋愛
 私は本日、貴方と離婚します。  愛するのは、終わりだ。    ◇◇◇  アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。  初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。  しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。  それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。  この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。   レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。    全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。  彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……  この物語は、彼女の決意から三年が経ち。  離婚する日から始まっていく  戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。  ◇◇◇  設定は甘めです。  読んでくださると嬉しいです。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。 何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。 同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。 もうやめる。 カイン様との婚約は解消する。 でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。 愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

処理中です...