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本編
3 決別
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「アレックス、話があるの」
私は次の日、廊下を歩いていたアレックスに話しかけた。
「ソフィア・・・今は忙しいんだ。後にしてくれないか」
彼は気まずそうな顔でそう言った。いつもの私なら彼に嫌われたくなくてここで引いていただろう。しかし今日の私は違う。
「大事な話なの」
私がアレックスと目を合わせてそう言うと、彼は面倒くさそうにしながらも頷いてくれた。それから私たちは個室へと移動し、二人で向き合うようにして座った。
アレックスとこんな風に話すのは久しぶりだ。これが最後なのだと思うと少し寂しくなる。
「・・・」
目の前に座っているアレックスは私を見もしない。ずっと気まずそうに視線を逸らしたままだ。彼が私にそんな態度を取る理由を知っている私は少しだけ複雑な気持ちになった。
しかしいつまでもこのままというわけにもいかないと思った私はそんな彼に対してハッキリと言った。
「アレックス、私たちの婚約を無かったことにしましょう」
「・・・!」
その言葉にアレックスは驚いた顔をして私を見た。
(ふふふ・・・ようやく私を真っ直ぐに見てくれるのね・・・)
彼のその顔を見て少しだけ胸がすいた。驚いても声も出せない様子のアレックスに私は鋭い声で尋ねた。
「・・・アレックス、あなた王女殿下と恋仲なのでしょう?」
「な、何故それを・・・」
私の言葉にアレックスは慌てたような顔をした。浮気がバレたときの人間の顔だ。まさか私が気付いていないと思っていたとは、呆れたものだ。
「だから私との婚約は無かったことにしましょう。その方がお互いのためになるわ」
「・・・いいのか?」
「ええ、こればっかりは仕方がないことだもの」
私はそこまで言うとソファから立ち上がり、アレックスを見下ろした。
「アレックス、あなたは紛れもなく私の初恋だった。あなたと過ごした時間は私にとってかけがえのない宝物だったわ。それだけは本当よ。たとえ別々の道を歩むことになっても、私はあなたの幸せを願っているわ」
「ソフィア・・・!」
私はそれだけ言って部屋を出て行く。
後ろは振り返らない。私はこの恋に終わりを告げるために彼をここへ連れて来たのだ。
私がアレックスと王女殿下の逢瀬を目撃したあの時点で私の恋は既に終わっていたも同然だ。私はただ自分の気持ちにけじめをつけただけ。もう苦しい思いはしたくなかったから。これからは私を聖女として慕ってくれる国民のために生きていく。
私はそう心に決めて部屋を出た。
部屋を出た後、私は自室に戻るために王宮の廊下を歩いていた。
(・・・これで良いのよ)
将来を誓い合った幼馴染のアレックスは私を裏切って王女殿下と恋仲になった。権力を得ると人は変わってしまうというが本当にその通りだなと思う。
実際、あれほど私に愛を囁いてくれたアレックスは勇者になってあっさり美しい王女様に鞍替えしたのだから。私の知っている彼はもういない。アレックスは勇者になってから傲慢になったなと思う。
(・・・・・・私は捨てられたんじゃない。私からあの浮気者を捨ててやったのよ)
私はそう思って無理に笑顔を作ってみせた。
「・・・」
しかし、それで私の心が晴れることは無かった。むしろ言いようのない虚しさがこみ上げてきた。
(・・・何でこんな気持ちになるんだろ)
浮気したアレックスにはついさっき別れを告げた。だから私が悩むことなど一つも無いはずだ。それなのに、この胸の痛みは一体何なのだろうか。
私はそう思いながらも王宮の廊下を歩き続けた。
そのとき、意外な人物と出くわした。
「・・・・・王太子殿下?」
私は次の日、廊下を歩いていたアレックスに話しかけた。
「ソフィア・・・今は忙しいんだ。後にしてくれないか」
彼は気まずそうな顔でそう言った。いつもの私なら彼に嫌われたくなくてここで引いていただろう。しかし今日の私は違う。
「大事な話なの」
私がアレックスと目を合わせてそう言うと、彼は面倒くさそうにしながらも頷いてくれた。それから私たちは個室へと移動し、二人で向き合うようにして座った。
アレックスとこんな風に話すのは久しぶりだ。これが最後なのだと思うと少し寂しくなる。
「・・・」
目の前に座っているアレックスは私を見もしない。ずっと気まずそうに視線を逸らしたままだ。彼が私にそんな態度を取る理由を知っている私は少しだけ複雑な気持ちになった。
しかしいつまでもこのままというわけにもいかないと思った私はそんな彼に対してハッキリと言った。
「アレックス、私たちの婚約を無かったことにしましょう」
「・・・!」
その言葉にアレックスは驚いた顔をして私を見た。
(ふふふ・・・ようやく私を真っ直ぐに見てくれるのね・・・)
彼のその顔を見て少しだけ胸がすいた。驚いても声も出せない様子のアレックスに私は鋭い声で尋ねた。
「・・・アレックス、あなた王女殿下と恋仲なのでしょう?」
「な、何故それを・・・」
私の言葉にアレックスは慌てたような顔をした。浮気がバレたときの人間の顔だ。まさか私が気付いていないと思っていたとは、呆れたものだ。
「だから私との婚約は無かったことにしましょう。その方がお互いのためになるわ」
「・・・いいのか?」
「ええ、こればっかりは仕方がないことだもの」
私はそこまで言うとソファから立ち上がり、アレックスを見下ろした。
「アレックス、あなたは紛れもなく私の初恋だった。あなたと過ごした時間は私にとってかけがえのない宝物だったわ。それだけは本当よ。たとえ別々の道を歩むことになっても、私はあなたの幸せを願っているわ」
「ソフィア・・・!」
私はそれだけ言って部屋を出て行く。
後ろは振り返らない。私はこの恋に終わりを告げるために彼をここへ連れて来たのだ。
私がアレックスと王女殿下の逢瀬を目撃したあの時点で私の恋は既に終わっていたも同然だ。私はただ自分の気持ちにけじめをつけただけ。もう苦しい思いはしたくなかったから。これからは私を聖女として慕ってくれる国民のために生きていく。
私はそう心に決めて部屋を出た。
部屋を出た後、私は自室に戻るために王宮の廊下を歩いていた。
(・・・これで良いのよ)
将来を誓い合った幼馴染のアレックスは私を裏切って王女殿下と恋仲になった。権力を得ると人は変わってしまうというが本当にその通りだなと思う。
実際、あれほど私に愛を囁いてくれたアレックスは勇者になってあっさり美しい王女様に鞍替えしたのだから。私の知っている彼はもういない。アレックスは勇者になってから傲慢になったなと思う。
(・・・・・・私は捨てられたんじゃない。私からあの浮気者を捨ててやったのよ)
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「・・・」
しかし、それで私の心が晴れることは無かった。むしろ言いようのない虚しさがこみ上げてきた。
(・・・何でこんな気持ちになるんだろ)
浮気したアレックスにはついさっき別れを告げた。だから私が悩むことなど一つも無いはずだ。それなのに、この胸の痛みは一体何なのだろうか。
私はそう思いながらも王宮の廊下を歩き続けた。
そのとき、意外な人物と出くわした。
「・・・・・王太子殿下?」
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