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断罪劇②
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「シャルロッテ様、本当にありがとうございました」
「いえいえ、これくらいお安い御用ですわ」
モーク伯爵令息が連れて行かれた後、私はすぐにシャルロッテに駆け寄って手を握った。
「皇女の権力を行使するのは初めてでしたが……案外便利ですわね」
「ふふふ、これからはたくさん使っていいと思いますよ。シャルロッテ様は優しすぎるんです」
「エルシア様にそう言ってもらえると嬉しいですわ」
シャルロッテは皇族にしては少々優しすぎる。
そこが彼女の良いところでもあるが。
お互いの目を見つめて笑い合っていたそのとき、突然耳障りな声が割り込んできた。
「お、おい!僕たちを無視するな!」
「「……!」」
シャルロッテの顔が一瞬にして険しくなった。
(来たわね……)
そこで私たちはレイチェルを取り囲んでいる貴族令息たちと向き合った。
「シャルロッテ様、アクアマリン王国の高位貴族である私から謝罪させていただきます。彼らが身分を弁えずに馬鹿な真似をして申し訳ありません」
「エルシア様のせいではありませんわ。ただ、やられっぱなしというのは気分が悪いですわね」
少し前までは気弱な皇女だったシャルロッテが何だか頼もしい。
私やレオンハルトと関わって少しずつ変化していったのだろう。
シャルロッテが幸せになってくれるのは私にとっても喜ばしいことだ。
「聞いているんですか、エルシア嬢!シャルロッテ皇女殿下!」
「「……」」
今、私とシャルロッテの目の前で喚いているのはたしか侯爵家の令息だったはずだ。
名門ではあるものの、ハワンズ公爵家の私と帝国の皇女を相手に出来るほどの権力は無い。
(立場を分からせる必要がありそうね)
私もシャルロッテも反撃する気満々だ。
「何でしょうか?聞いていなかったのでもう一度おっしゃってくださいませんか?」
「なッ……!?」
侯爵令息が顔を真っ赤にした。
「貴方がたが学園で身分を笠にレイチェルに嫌がらせを繰り返していたということです!心当たりが無いとは言わせませんよ!」
「……」
証拠も無しに格上の人間を公衆の面前で貶めるだなんてどうかしてる。
ふと横にいたシャルロッテを見ると、今までに見たことが無いくらい冷めた目をしていた。
「悪いけど、身に覚えがありませんね」
「私も同じですわ」
「しらばっくれるのもいい加減にしてください!」
声を荒らげる令息に、レオンハルトの眉がピクリと動いた。
大切にしている婚約者を傷付ける発言をされて頭に来ているのだろう。
小説とは違ってレオンハルトは本当にシャルロッテを大事にしている。
「嫌がらせとは具体的にどのようなことでしょうか?」
シャルロッテが一歩前に出て追及した。
「レイチェルを無視したり教科書をゴミ箱に捨てたり、挙句の果てには池に落としたと言うではありませんか!」
「……」
(この学園に池なんてあったかしら?)
周囲も同じことを思っていたらしく、ヒソヒソと話し始めた。
「レイチェル、君からも言ってくれ。辛いだろうが……真実を全て話してくれ」
「え……えーと……」
「レイチェル!君はシャルロッテ皇女やエルシア嬢に酷いことをされたんだろう?」
取り巻きの一人がレイチェルの肩を掴んで揺さぶった。
てっきり泣きながら訴えてくるかと思ったが、彼女は意外な反応を示した。
「えー……そんなこと……されたかなぁ?」
「……レイチェル?」
目線を斜め上に向け、冷や汗をかいている。
「あー……言ってなかったんだけどぉ……もしかしたら私の勘違いだったかも……?」
「レイチェル……!?」
ヒロインの曖昧な返答に、取り巻きたちは困惑しているようだった。
そんな彼女の姿に、思わず笑みが零れる。
(あらあら、今さら逃げようとしているのかしら)
でもね、もう遅い。
――絶対に逃がさないわ。
「いえいえ、これくらいお安い御用ですわ」
モーク伯爵令息が連れて行かれた後、私はすぐにシャルロッテに駆け寄って手を握った。
「皇女の権力を行使するのは初めてでしたが……案外便利ですわね」
「ふふふ、これからはたくさん使っていいと思いますよ。シャルロッテ様は優しすぎるんです」
「エルシア様にそう言ってもらえると嬉しいですわ」
シャルロッテは皇族にしては少々優しすぎる。
そこが彼女の良いところでもあるが。
お互いの目を見つめて笑い合っていたそのとき、突然耳障りな声が割り込んできた。
「お、おい!僕たちを無視するな!」
「「……!」」
シャルロッテの顔が一瞬にして険しくなった。
(来たわね……)
そこで私たちはレイチェルを取り囲んでいる貴族令息たちと向き合った。
「シャルロッテ様、アクアマリン王国の高位貴族である私から謝罪させていただきます。彼らが身分を弁えずに馬鹿な真似をして申し訳ありません」
「エルシア様のせいではありませんわ。ただ、やられっぱなしというのは気分が悪いですわね」
少し前までは気弱な皇女だったシャルロッテが何だか頼もしい。
私やレオンハルトと関わって少しずつ変化していったのだろう。
シャルロッテが幸せになってくれるのは私にとっても喜ばしいことだ。
「聞いているんですか、エルシア嬢!シャルロッテ皇女殿下!」
「「……」」
今、私とシャルロッテの目の前で喚いているのはたしか侯爵家の令息だったはずだ。
名門ではあるものの、ハワンズ公爵家の私と帝国の皇女を相手に出来るほどの権力は無い。
(立場を分からせる必要がありそうね)
私もシャルロッテも反撃する気満々だ。
「何でしょうか?聞いていなかったのでもう一度おっしゃってくださいませんか?」
「なッ……!?」
侯爵令息が顔を真っ赤にした。
「貴方がたが学園で身分を笠にレイチェルに嫌がらせを繰り返していたということです!心当たりが無いとは言わせませんよ!」
「……」
証拠も無しに格上の人間を公衆の面前で貶めるだなんてどうかしてる。
ふと横にいたシャルロッテを見ると、今までに見たことが無いくらい冷めた目をしていた。
「悪いけど、身に覚えがありませんね」
「私も同じですわ」
「しらばっくれるのもいい加減にしてください!」
声を荒らげる令息に、レオンハルトの眉がピクリと動いた。
大切にしている婚約者を傷付ける発言をされて頭に来ているのだろう。
小説とは違ってレオンハルトは本当にシャルロッテを大事にしている。
「嫌がらせとは具体的にどのようなことでしょうか?」
シャルロッテが一歩前に出て追及した。
「レイチェルを無視したり教科書をゴミ箱に捨てたり、挙句の果てには池に落としたと言うではありませんか!」
「……」
(この学園に池なんてあったかしら?)
周囲も同じことを思っていたらしく、ヒソヒソと話し始めた。
「レイチェル、君からも言ってくれ。辛いだろうが……真実を全て話してくれ」
「え……えーと……」
「レイチェル!君はシャルロッテ皇女やエルシア嬢に酷いことをされたんだろう?」
取り巻きの一人がレイチェルの肩を掴んで揺さぶった。
てっきり泣きながら訴えてくるかと思ったが、彼女は意外な反応を示した。
「えー……そんなこと……されたかなぁ?」
「……レイチェル?」
目線を斜め上に向け、冷や汗をかいている。
「あー……言ってなかったんだけどぉ……もしかしたら私の勘違いだったかも……?」
「レイチェル……!?」
ヒロインの曖昧な返答に、取り巻きたちは困惑しているようだった。
そんな彼女の姿に、思わず笑みが零れる。
(あらあら、今さら逃げようとしているのかしら)
でもね、もう遅い。
――絶対に逃がさないわ。
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