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断罪劇①

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「申し上げたいこととは一体?」
「順を追って説明いたします。貴方がたは後回しですわ」


怪訝そうにこちらを見つめるレイチェル・グレイス男爵令嬢の取り巻きを力強い眼差しで見つめ返した。


(怖がってはいけない、負けてはいけない)


誰かを断罪するなんて初めての試みだったけれど、不思議とそれほど恐ろしくはない。
近くには聡明な王太子殿下がいて、優しいシャルロッテ皇女もいて、そして――


「――エルシア!!!」
「……!」


そのとき、突然大声を上げて前へ出たのはモーク伯爵令息だった。
それを見て、隣にいた仮面の男が私を守るように腰の剣に手をかけた。


「大丈夫よ、私は平気だから」
「……」


私が優しく宥めると、彼はそっと剣から手を離した。


(……自分から前に出てきてくれるだなんてね。好都合だわ)


まずは一人。
ハワンズ公爵家を乗っ取ろうとし、カイルの権威を失墜させた男。
決して逃がしはしない。


「エルシア、どうして僕のエスコートを受け入れてくれなかったんだ!?僕たちは恋人同士なのに――」
「黙ってください」
「…………何?」


ピシャリと冷たく告げると、彼は困惑したような表情になった。


(そりゃあそうよね、だってこれまで私は彼に心底惚れ込んでる女を演じていたのだから)


しかし、それも今日で終わりだ。
本当に長かった。


「エルシア、どうしてそんな目で僕を……」
「モーク伯爵令息、よくも今まで隠していましたね」
「……何だって?」


今、私はここで彼の罪を――いや、モーク伯爵家の犯した罪を全て明らかにする。


「――モーク伯爵令息、貴方には様々な容疑がかけられています」
「様々な容疑?一体何のことだ!」


言いがかりはよせと伯爵令息はみっともなく騒いでみせた。


「貴方は私の婿になることでハワンズ公爵家を乗っ取ろうとしましたね?」
「なッ……ぼ、僕がそんなこと考えるわけないだろ!」


会場にざわめきが広がった。


(動揺したわね)


今がチャンスだと思った私は、この場を借りてモーク伯爵令息を徹底的に追い詰めることにした。


「ええ、そうですわね。たしかにこれは貴方が考えたことではありませんね」
「そ、そうだ!僕がそんなことを考えるわけがない!ふざけたことを言うのもいい加減に――」
「――だってそれ、貴方ではなくモーク伯爵が考えたことですものね」
「!?!?」


彼の顔がみるみるうちに青くなった。


「どういうことだ、モーク伯爵家はハワンズ公爵家を乗っ取ろうとしていたのか?」
「だから令息はエルシア嬢と付き合ったのか……何て男なんだ」


会場にいる生徒たちは口々に令息を非難した。
その状況をまずいと思ったのか、彼が慌てて口を開いた。


「しょ、証拠はあるのか!証拠も無いのにそんなことを言うだなんてどうかしてる!」
「――証拠ならありますわよ」
「え……?シャ、シャルロッテ皇女殿下……?」


答えたのは私ではなくシャルロッテだった。


「な、何故皇女様が!」
「エルシア様は私の大切なご友人ですもの。そして貴方様のことは初めて見たときから怪しいと思っておりました。そこで少々、皇女の権力を使って調べさせていただきましたわ」
「……!」


伯爵令息の肩がビクリと震えた。
これは相当追い詰められている。


(本当に、シャルロッテには感謝しかないわ)


彼女が近頃学園を不在にしていたのはどうやら証拠集めをしていたかららしい。
そのことをレオンハルトから聞かされたときは驚いた。
帝国の皇女ともあろう人間が、そんなことをするのかと。


そしたらシャルロッテは頬を染めて嬉しそうに大切な友人のためだからと言った。


「調べてみたらたくさん出てきましたわ、伯爵家が犯した罪の数々――今頃モーク伯爵は騎士たちに捕らえられている頃でしょう」
「ち、父上が……!?」
「お父様だけではありません。貴方の兄君もです」
「兄上まで……!」


それを聞いた彼は敗北を悟ったのか、膝から崩れ落ちた。
そして、それと同じタイミングで王家の騎士たちが会場になだれ込んできた。


「伯爵令息を捕らえろ!」


レオンハルトの声で騎士たちが動き、彼の周りを一斉に取り囲んだ。


「は、放せ!僕に触るな!」


最後まで彼は抵抗し続けたが、結局最後は騎士たちに取り押さえられ、連行されていった。


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