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「カイル!!!」
「……エルシア?」
馬車でフォース公爵邸へ駆け付けた私は、すぐにカイルの元へと向かった。
彼は部屋で執務をこなしていた。
(ああ、カイル……!)
一度目の生の記憶を取り戻した後だからか、彼の姿を見た瞬間涙が出そうになった。
(戦争で彼が亡くなってからは、もう二度と会えないと思っていたのに……)
突然やって来た私を、目を丸くして見つめるカイル。
そんな姿も愛おしい。
「カイル!」
「エルシア…………ッ!?」
私は勢い余ってカイルに抱き着いた。
突然の出来事にたじろぐカイル。
私はそんなこと気にも留めず、ただ彼の胸で泣き続けた。
「ああ、カイル……!」
「……おい、どうしたんだ?学園で何か……」
「ううん、何でもないの!ただあなたに会えたのがとても嬉しいの」
カイルはもちろん私に前世の記憶があることなんて知らない。
「カイル、私たち、幼い頃に会ったことがあったわよね」
「……エルシア、まさか」
「ええ、全て思い出したわ。私がまだ幼いあなたに王宮で会ったことも、あなたが人々から怖がられて泣いていたことも、私はそんなあなたの色が好きだと言ったことも」
「……!」
それを聞いたとき、カイルは私をキツく抱き締めた。
「カイル……」
私の肩に、彼の涙がポツポツと落ちた。
「エルシア……お前、本当に……」
「うん、ずっと辛い思いさせてごめんね、カイル」
初めて見る彼の泣き顔。
そんな姿を見ると、私まで涙が止まらなくなった。
(私、今とっても幸せだわ……)
それから私たちはしばらくの間、お互いを抱き締め合って泣き続けた。
***
「カイル、落ち着いた?」
「ああ……」
落ち着きを取り戻した私たちは、椅子に向き合って座っていた。
私の目の前にいるカイルは目を真っ赤にして泣きはらしている。
(もう、カイルったら……よっぽど嬉しかったのね)
前世を含め、私はカイルにとても愛されていたのだなと改めて実感した。
「カイル、あのね……話したいことはたくさんあるんだけど、今は少しだけ待ってほしいの……」
「……それはどういう意味だ?」
「処理しなければいけない問題がもう一つ増えたのよ」
「……もしかして、例の男爵令嬢についてか?」
「カイル……知ってたのね」
”男爵令嬢”と聞いて、カイルは眉をひそめた。
(前世のときからずっとそうだったけれど、本当にヒロインのこと嫌いみたいね……)
小説の中ではカイルはレオンハルトの恋敵役として登場した。
実際、物語の中での彼はレオンハルトと同じくらいヒロインに盲目的だったように思えた。
しかし、それは全てヒロイン・レイチェルの秘密を探るための演技だったと今なら分かる。
「あのね、少し前に殿下と話し合ったのだけれど……」
「ああ、あいつは何て言っていた?」
「それが――」
私たちの計画を聞いたカイルは目を見開いた。
「…………本気か?」
「……エルシア?」
馬車でフォース公爵邸へ駆け付けた私は、すぐにカイルの元へと向かった。
彼は部屋で執務をこなしていた。
(ああ、カイル……!)
一度目の生の記憶を取り戻した後だからか、彼の姿を見た瞬間涙が出そうになった。
(戦争で彼が亡くなってからは、もう二度と会えないと思っていたのに……)
突然やって来た私を、目を丸くして見つめるカイル。
そんな姿も愛おしい。
「カイル!」
「エルシア…………ッ!?」
私は勢い余ってカイルに抱き着いた。
突然の出来事にたじろぐカイル。
私はそんなこと気にも留めず、ただ彼の胸で泣き続けた。
「ああ、カイル……!」
「……おい、どうしたんだ?学園で何か……」
「ううん、何でもないの!ただあなたに会えたのがとても嬉しいの」
カイルはもちろん私に前世の記憶があることなんて知らない。
「カイル、私たち、幼い頃に会ったことがあったわよね」
「……エルシア、まさか」
「ええ、全て思い出したわ。私がまだ幼いあなたに王宮で会ったことも、あなたが人々から怖がられて泣いていたことも、私はそんなあなたの色が好きだと言ったことも」
「……!」
それを聞いたとき、カイルは私をキツく抱き締めた。
「カイル……」
私の肩に、彼の涙がポツポツと落ちた。
「エルシア……お前、本当に……」
「うん、ずっと辛い思いさせてごめんね、カイル」
初めて見る彼の泣き顔。
そんな姿を見ると、私まで涙が止まらなくなった。
(私、今とっても幸せだわ……)
それから私たちはしばらくの間、お互いを抱き締め合って泣き続けた。
***
「カイル、落ち着いた?」
「ああ……」
落ち着きを取り戻した私たちは、椅子に向き合って座っていた。
私の目の前にいるカイルは目を真っ赤にして泣きはらしている。
(もう、カイルったら……よっぽど嬉しかったのね)
前世を含め、私はカイルにとても愛されていたのだなと改めて実感した。
「カイル、あのね……話したいことはたくさんあるんだけど、今は少しだけ待ってほしいの……」
「……それはどういう意味だ?」
「処理しなければいけない問題がもう一つ増えたのよ」
「……もしかして、例の男爵令嬢についてか?」
「カイル……知ってたのね」
”男爵令嬢”と聞いて、カイルは眉をひそめた。
(前世のときからずっとそうだったけれど、本当にヒロインのこと嫌いみたいね……)
小説の中ではカイルはレオンハルトの恋敵役として登場した。
実際、物語の中での彼はレオンハルトと同じくらいヒロインに盲目的だったように思えた。
しかし、それは全てヒロイン・レイチェルの秘密を探るための演技だったと今なら分かる。
「あのね、少し前に殿下と話し合ったのだけれど……」
「ああ、あいつは何て言っていた?」
「それが――」
私たちの計画を聞いたカイルは目を見開いた。
「…………本気か?」
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