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一度目の人生⑥
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帝国との戦争が始まったのは、それからすぐだった。
(やっぱりこうなったのね……)
レオンハルト殿下は婚約者であるシャルロッテ皇女を蔑ろにするだけでなく、男爵令嬢に現を抜かし、最後は公の場でその名誉を汚した。
帝国の怒りも十分理解出来る。
(これからどうすればいいんだろう……)
王国は当然迎え撃つつもりだろうが、大国に敵うはずがない。
そんなのは子供でも分かる。
私は今、学園から帰ってハワンズ公爵邸にいる。
帝国と戦うことになる絶望を感じているのか、邸の中がやけに静かだ。
(カイル……)
カイルが最後に言った言葉が何度も頭に浮かんだ。
『――エルシア、危なくなったら俺を置いて逃げるんだ』
カイルは何度もそう言っていたが、そんなこと私には出来ない。
カイルのことももちろん、この国は私の大切な両親だっている。
彼らを捨てて自分だけ逃げるだなんて……。
(そんなことするくらいならいっそ死んでしまったほうがマシね)
逃げるという選択肢は最初からない。
それに、何の罪も無い国民たちを捨てるというのも気が進まなかった。
(ごめんね、カイル……)
――私は、一人の王国民として王国の最期をしっかりと見届けるわ。
***
「お嬢様、大変です……!」
「どうかしたの?」
数日後。
いよいよ帝国との戦争が始まったのかと覚悟していた私に、さらなる衝撃的な事実が伝えられた。
「フォース公爵令息が最前線へ行ったそうです……!」
「……え?」
それを聞いた瞬間、血の気が引いていくのを感じた。
「カイルが……最前線へ……?」
「はい……どうやら自ら志願したそうです……」
「……」
体が思うように動かなかった。
(カイルが最前線へ……?最も危険な場所へ行ったですって……?)
カイルの強さを信じていないわけではない。
しかし、それでも不安と恐怖で胸が押しつぶされそうになった。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「……平気よ。少し一人にしてちょうだい」
「はい」
侍女が出て行った後、私は倒れ込むようにしてソファに座った。
放心状態で、誰かと一緒にいれるような気分では無かった。
(カイル……)
何故わざわざ危険な最前線へ自ら行ったのか、まだ若いのに早死にするつもりか、そんな彼に対する恨みも無いわけではなかった。
だけど――
(彼はきっと……今の私と同じ気持ちなはずよ……)
彼もきっと両親を、母国を、そして親友のレオンハルトを見捨てられなかったのだろう。
だからこそ自ら最前線へと行った。
そんなカイルの気持ちを知っていたから、私には彼を責められない。
(私たちってやっぱり、どこまでも価値観が合うのね……)
ならば私は、最後まで彼について行くだけだ。
ソファから立ち上がった私はそっと膝を折り、両手を前で組んだ。
(どうか、お願いします、神様。――カイルを、この国をお助けください)
そんな祈りも虚しく、私にとって最悪の事態を迎えてしまうのはそれから数日後のことだった。
(やっぱりこうなったのね……)
レオンハルト殿下は婚約者であるシャルロッテ皇女を蔑ろにするだけでなく、男爵令嬢に現を抜かし、最後は公の場でその名誉を汚した。
帝国の怒りも十分理解出来る。
(これからどうすればいいんだろう……)
王国は当然迎え撃つつもりだろうが、大国に敵うはずがない。
そんなのは子供でも分かる。
私は今、学園から帰ってハワンズ公爵邸にいる。
帝国と戦うことになる絶望を感じているのか、邸の中がやけに静かだ。
(カイル……)
カイルが最後に言った言葉が何度も頭に浮かんだ。
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彼らを捨てて自分だけ逃げるだなんて……。
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逃げるという選択肢は最初からない。
それに、何の罪も無い国民たちを捨てるというのも気が進まなかった。
(ごめんね、カイル……)
――私は、一人の王国民として王国の最期をしっかりと見届けるわ。
***
「お嬢様、大変です……!」
「どうかしたの?」
数日後。
いよいよ帝国との戦争が始まったのかと覚悟していた私に、さらなる衝撃的な事実が伝えられた。
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「はい……どうやら自ら志願したそうです……」
「……」
体が思うように動かなかった。
(カイルが最前線へ……?最も危険な場所へ行ったですって……?)
カイルの強さを信じていないわけではない。
しかし、それでも不安と恐怖で胸が押しつぶされそうになった。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「……平気よ。少し一人にしてちょうだい」
「はい」
侍女が出て行った後、私は倒れ込むようにしてソファに座った。
放心状態で、誰かと一緒にいれるような気分では無かった。
(カイル……)
何故わざわざ危険な最前線へ自ら行ったのか、まだ若いのに早死にするつもりか、そんな彼に対する恨みも無いわけではなかった。
だけど――
(彼はきっと……今の私と同じ気持ちなはずよ……)
彼もきっと両親を、母国を、そして親友のレオンハルトを見捨てられなかったのだろう。
だからこそ自ら最前線へと行った。
そんなカイルの気持ちを知っていたから、私には彼を責められない。
(私たちってやっぱり、どこまでも価値観が合うのね……)
ならば私は、最後まで彼について行くだけだ。
ソファから立ち上がった私はそっと膝を折り、両手を前で組んだ。
(どうか、お願いします、神様。――カイルを、この国をお助けください)
そんな祈りも虚しく、私にとって最悪の事態を迎えてしまうのはそれから数日後のことだった。
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