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一度目の人生②
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カイルとの対話から数日後。
(最近全然カイルに会えないな……彼は大丈夫だって言ってたけれど……)
王太子殿下に続きフォース公爵家の嫡男までもが男爵令嬢に夢中になったと学園では話題になっている。
もちろんあのときの彼の言葉を疑っているわけではないが、ずっと会えない日々が続いているからか不安は拭えない。
(ん……?あれは……)
教室の前を通りかかったとき、私はある光景を目にした。
「…………シャルロッテ皇女?」
誰もいない教室の中で一人ポツンと座っていたのは、帝国からの留学生であるシャルロッテ皇女殿下だった。
そして彼女はまたレオンハルトの婚約者でもあった。
(……まさか、泣いているの?)
シャルロッテ皇女は一人涙を流していた。
それを見た私は驚いてしまった。
皇女は冷たい人だと思っていたから。
(……放っておけないわ)
皇女を一人に出来なかった私は、彼女にそっと近付いた。
「――皇女殿下」
「……!あなたは……?」
話しかけられた皇女はビクリと肩を震わせて、目を見開いた。
「初めまして、でしたよね?皇女殿下、私はエルシア・ハワンズと申します」
「まぁ、ハワンズ公爵家の……」
シャルロッテ皇女とは同じクラスではあるが、話したことはほとんど無かった。
「……私に何かご用ですか?」
「いえ、ただ教室の前をたまたま通りかかったら皇女殿下を発見したもので……」
「そうでしたか……」
泣き顔を見られたくないのか、シャルロッテは顔を逸らした。
(……とてもじゃないけれど冷淡な人には見えないわ)
シャルロッテ皇女は学園の生徒たちから敬遠されている。
理由は彼女の高い身分と冷たい性格だと言われていた。
高い身分……はまだ分かるとして冷たい性格というのが私はどうも理解出来なかった。
皇女と関わったことも無いのに、婚約者である王太子殿下に嫌われているというだけでそのようなことを言っているのだ。
「皇女殿下、よろしければ泣いていた理由をお聞かせくださいませんか?」
「と、とても人に聞かせるようなものでは……」
「かまいません。どんな話だろうと私は聞きたいのです」
「ハワンズ嬢……」
私はシャルロッテの隣の席に座り、彼女の話に耳を傾けた。
「そうですか……王太子殿下が……」
「はい、近頃はあの男爵令嬢に夢中で私のことを見てもくれないのです」
皇女の悩みの種は主に殿下と男爵令嬢のことだった。
(というか、シャルロッテ皇女って殿下のこと好きだったのね)
政略結婚だとばかり思っていたから、少し意外だ。
「皇女殿下、大丈夫ですよ」
「ハワンズ嬢?」
不安そうにこちらを見つめる皇女の手を、私はギュッと握った。
以前私が不安で仕方が無いときにカイルがやってくれたことだった。
「――殿下、どうか私を――いいえ、カイルを信じてください」
「カイル……?フォース公爵家のご長男のことですか……?」
「ええ、いずれ全てが元に戻るはずです。それまでもう少しだけ待っていてください」
「……よく分かりませんが、ハワンズ嬢がそうおっしゃるのであればそういたしますわ」
涙を拭った皇女殿下は、その口元に笑みを浮かべた。
(最近全然カイルに会えないな……彼は大丈夫だって言ってたけれど……)
王太子殿下に続きフォース公爵家の嫡男までもが男爵令嬢に夢中になったと学園では話題になっている。
もちろんあのときの彼の言葉を疑っているわけではないが、ずっと会えない日々が続いているからか不安は拭えない。
(ん……?あれは……)
教室の前を通りかかったとき、私はある光景を目にした。
「…………シャルロッテ皇女?」
誰もいない教室の中で一人ポツンと座っていたのは、帝国からの留学生であるシャルロッテ皇女殿下だった。
そして彼女はまたレオンハルトの婚約者でもあった。
(……まさか、泣いているの?)
シャルロッテ皇女は一人涙を流していた。
それを見た私は驚いてしまった。
皇女は冷たい人だと思っていたから。
(……放っておけないわ)
皇女を一人に出来なかった私は、彼女にそっと近付いた。
「――皇女殿下」
「……!あなたは……?」
話しかけられた皇女はビクリと肩を震わせて、目を見開いた。
「初めまして、でしたよね?皇女殿下、私はエルシア・ハワンズと申します」
「まぁ、ハワンズ公爵家の……」
シャルロッテ皇女とは同じクラスではあるが、話したことはほとんど無かった。
「……私に何かご用ですか?」
「いえ、ただ教室の前をたまたま通りかかったら皇女殿下を発見したもので……」
「そうでしたか……」
泣き顔を見られたくないのか、シャルロッテは顔を逸らした。
(……とてもじゃないけれど冷淡な人には見えないわ)
シャルロッテ皇女は学園の生徒たちから敬遠されている。
理由は彼女の高い身分と冷たい性格だと言われていた。
高い身分……はまだ分かるとして冷たい性格というのが私はどうも理解出来なかった。
皇女と関わったことも無いのに、婚約者である王太子殿下に嫌われているというだけでそのようなことを言っているのだ。
「皇女殿下、よろしければ泣いていた理由をお聞かせくださいませんか?」
「と、とても人に聞かせるようなものでは……」
「かまいません。どんな話だろうと私は聞きたいのです」
「ハワンズ嬢……」
私はシャルロッテの隣の席に座り、彼女の話に耳を傾けた。
「そうですか……王太子殿下が……」
「はい、近頃はあの男爵令嬢に夢中で私のことを見てもくれないのです」
皇女の悩みの種は主に殿下と男爵令嬢のことだった。
(というか、シャルロッテ皇女って殿下のこと好きだったのね)
政略結婚だとばかり思っていたから、少し意外だ。
「皇女殿下、大丈夫ですよ」
「ハワンズ嬢?」
不安そうにこちらを見つめる皇女の手を、私はギュッと握った。
以前私が不安で仕方が無いときにカイルがやってくれたことだった。
「――殿下、どうか私を――いいえ、カイルを信じてください」
「カイル……?フォース公爵家のご長男のことですか……?」
「ええ、いずれ全てが元に戻るはずです。それまでもう少しだけ待っていてください」
「……よく分かりませんが、ハワンズ嬢がそうおっしゃるのであればそういたしますわ」
涙を拭った皇女殿下は、その口元に笑みを浮かべた。
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