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一度目の人生①

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「エルシア!」
「まぁ、カイル!」


学園内にある庭園に、私は立っていた。
奥からカイルが駆け寄ってくる。
私に駆け付けたカイルは、私をギュッと抱き締めた。


「わっ!ちょっと!」
「別に良いだろ?恋人同士なんだから」
「そ、それはそうだけど……どこに人目があるか分からないし……」


誰もが憧れるフォース公爵家の嫡男であるカイルは私の恋人だった。
私たちの出会いは幼い頃で、もう十年以上の付き合いになる。
正式に交際したのは学園に入学してからだけど。


「カイル……愛してるわ……」
「ああ、俺もお前を愛してる」


そしていつものように私たちは愛の言葉を囁き合った。


「今の俺があるのはお前のおかげなんだ」
「本当に?」
「ああ、お前があのとき騎士のことをカッコイイって言ったから……俺は剣術を磨き続けたんだ」
「そんな昔のこと……覚えていたのね」
「当たり前だろ、お前とのことなんて忘れるわけがない」


カイルが私を抱き締める手に力を込めた。
しかし、私はいつもと違って彼の瞳に不安の色が混じっていることに気が付いた。


「カイル、少し話そうか」
「エルシア……」


私たちは一度体を離し、学園にある個室へと入った。


「カイル、何かあった?そんな目をするだなんてあなたらしくない」
「ああ……レオンハルトが……」
「まさか、王太子殿下がまだあの男爵令嬢と……?」
「そうだ、いくら言っても離れようとしなくて困ってるんだ」


――レイチェル・グレイス男爵令嬢。
グレイス男爵家の庶子で、入学の少し前に母が亡くなり男爵家に引き取られたと聞いている。


(まさか、殿下まであの男爵令嬢に夢中になってしまうだなんて……)


グレイス男爵令嬢は天使のように美しい容姿を持ち、それを使って多くの貴族令息を骨抜きにしている。
それが今、学園で問題になっている。


「国王陛下や王妃陛下はそれを知っているのかしら?」
「……どうだろうな。話くらいは聞いているかもしれないな」
「そう……両陛下から言ってもらうのが一番良いのでしょうけど……」


なかなか難しいだろう。


「エルシア、俺はあの男爵令嬢が何かしたと思ってる」
「……!それって」


カイルの口から飛び出したのは驚くべきことだった。


「さっきアイツと話してきたが……あんなレオンハルトは初めて見た。明らかに変だ。男爵令嬢に盲目で、周りが見えていない感じがした」
「そんな……」
「いくら本気の恋をしたと言っても、アイツはあそこまで愚かになるような男じゃない。それだけはたしかだ」
「私も王太子殿下のことは幼い頃から知っているけれど……言われてみればそうだわ」


カイルに言われてようやく私も気が付いた。
ここ最近、王太子殿下の様子が変だということを。


(もし、男爵令嬢が何かしているとしたら……)


「俺は、あの女に近付いてみようと思っている」
「カイル……そんな……!」


止めようとした私の手を、カイルは優しく握った。


「心配するな、エルシア。俺があんな女に惚れるわけないだろう?」
「だけど……あの男爵令嬢が何かしているとしたら……」
「俺の剣術の実力を舐めてもらったら困る。何かされそうになったらアイツを切り捨てた後にお前を連れて逃げるだけだ」
「カイル……」


この日を境に、カイルとはあまり会えなくなってしまった。


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