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ペイル侯爵令息の前から華麗に立ち去った私は、学園の廊下を一人で歩いていた。


(一人でいるのも随分慣れたわね……)


シャルロッテが最近学園に来ていないせいか、それ以外に友人のいない私は毎日のように一人でいるようになった。
あの事件が起こる前まではモーク伯爵令息と共にいる時間もあったが、あれ以降彼の顔は見たくもない。


(今思えばシャルロッテの忠告をきちんと聞いておくべきだったわね……)


何であんな人に恋をしていたのだろう。
あのときの自分をボコボコにしてやりたい。


(まぁでも、仲良くない人と無理に一緒にいるっていうのも気が引けるし別にこれで良いのだけれど)


元々私は王族の次に身分が高い公爵家の令嬢だ。
この国に公爵家は三つあって、カイルが生まれたフォース公爵家に女児はおらず、そしてもう一つの公爵家の当主はまだ若く子供はいない。


(王女もいないし……実質この学園でレオンハルト、シャルロッテ、カイルの次に身分が高いのって私なのよね)


廊下を歩いていると多くの視線を感じた。
そしてそこには明らかに敵意を含めたようなものもいくつかあった。
主に男子生徒からのものだった。


(ふーん……ここにも私を良く思っていない人がいるみたい)


おそらくレイチェルの魅了魔法にかかっている令息たちだろう。
驚くことに、その中には将来有望と噂されていた侯爵家の嫡男までいた。


(優秀な高位貴族の令息が帝国の皇女と公爵令嬢を敵に回してどうなるか分からない……だなんてそんなことあるわけないわよね?)


それほどに、レイチェルのかけた魅了魔法は強いものなのだろう。
彼らもまた被害者だ。


(まぁでも、手作りの弁当やお菓子を食べた時点で多少はヒロインに対する好意があったってことよね?)


私は幼い頃から父親に「信用出来ない人から貰った物は絶対に食べてはいけない」と強く聞かされていた。
そのため、彼らの行動は到底理解出来ない。


(魅了が解けたらたっぷり反省してもらわないとね!)


私に対する敵対心はあれど、身分の高さゆえ手を出してくることは無いだろう。
しばらく学園内を歩き続けた私は、ある扉の前で足を止めた。


「失礼しまーす……」


どうか誰も中にいませんように。
そう願いながらゆっくりと、出来るだけ音を立てないように扉を開けた。


(……良かった!誰もいないみたい!)


運が良かったのか、部屋の中に人はいなかった。
ここは図書館だ。
私が何故ここに来たのか、それはちゃんとした理由がある。
決して人々の視線から逃げるためではない。


(ここなら思う存分に調べられるわ!)


そう、私が調べたいのは私が――何故突然異世界に転生し、エルシアという一人の令嬢の体に入り込んだのかだった。


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