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ヒロインの策略
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レオンハルトとの対話から数日後。
「――ハワンズ公爵令嬢、少しよろしいでしょうか」
「はい、どうしました?」
学園の廊下を歩いていた私に声を掛けてきたのはレオンハルトの側近だった。
「殿下がお呼びです。すぐに来ていただきたいと」
「……分かりました」
神妙な面持ちの側近を見た私は、ことの重大さを理解した。
(どうやら結果が出たみたいね)
おそらく私の予想した通りになっているのだろう。
でなければそのような深刻な顔をするはずが無いから。
(……行きましょう)
私は覚悟を決めてレオンハルトが待っているらしい王宮へと向かった。
***
「殿下、ハワンズ公爵令嬢がいらっしゃいました」
「――入れてくれ」
私が通されたのは王宮にあるレオンハルトの執務室だった。
中に入ると、レオンハルトが難しい顔をして手元にある書類を眺めていた。
「……エルシア嬢、とりあえず座ってくれ」
「はい、殿下」
執務室にあるソファに座ったレオンハルトは、ハァとため息をついた。
「……エルシア嬢」
「殿下……」
「――君の言った通りの結果だったよ」
そこでレオンハルトは衝撃を隠しきれないというように額を手で覆った。
(やっぱり……)
私ももちろん彼と同じ気持ちだった。
「君の言った通り、グレイス男爵令嬢が私に渡そうとしてきたクッキーの成分を詳しく調べさせた。そしたら一種の魅了のようなものが確認された」
「……やはりですか」
小説の中でのヒロインは料理上手で、お菓子や弁当を作ってはよくレオンハルトに渡していた。
レオンハルトがヒロインを好きになったきっかけとして、彼女の作る料理が美味しかったというのも大きい。
(だけど、それに相手を魅了する効果があったなんて……レイチェルはそれを知っているのかしら……)
たとえ知らなかったとしてもこれは重罪だ。
相手は一国の王子だったから。
「ああ、あの男爵令嬢まさかここまでしていたとはな……もし受け取っていたらどうなっていたか……」
「殿下……そう落ち込まないでください……」
レオンハルトには申し訳ないが、今は落ち込んでいる場合では無かった。
モーク伯爵令息に続き、またもう一つ問題が増えたのだ。
「殿下、グレイス男爵令嬢の取り巻きの方々についてご存知ですか?」
「ああ、直接見たことは無いが……高位貴族の令息ばかりだと聞いている。それも次男三男ではなく跡継ぎばかりをはべらせていると……」
「その通りです、殿下」
私の言いたいことが分かったのか、レオンハルトが重い息を吐いた。
「その令息たちももしかしたら……」
「はい、魅了をかけられているのかもしれません」
それを聞いたレオンハルトは盛大なため息を吐いた。
「カイルのこともまだ解決していないというのに……次々と面倒事を増やしてくれるな……」
「ですね……」
ここ最近、レオンハルトは執務に追われている日々だと聞く。
「殿下、私にも何かお手伝いできることがあれば言ってくださいね」
「ああ、ありがとう。エルシア嬢、お互いに頑張ろう」
「そうですね、カイルのためにも、シャルロッテ様のためにも頑張りましょう」
「だな……」
愛しい婚約者のことを思い浮かべたレオンハルトはクスッと笑って再び執務へと戻って行った。
「――ハワンズ公爵令嬢、少しよろしいでしょうか」
「はい、どうしました?」
学園の廊下を歩いていた私に声を掛けてきたのはレオンハルトの側近だった。
「殿下がお呼びです。すぐに来ていただきたいと」
「……分かりました」
神妙な面持ちの側近を見た私は、ことの重大さを理解した。
(どうやら結果が出たみたいね)
おそらく私の予想した通りになっているのだろう。
でなければそのような深刻な顔をするはずが無いから。
(……行きましょう)
私は覚悟を決めてレオンハルトが待っているらしい王宮へと向かった。
***
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中に入ると、レオンハルトが難しい顔をして手元にある書類を眺めていた。
「……エルシア嬢、とりあえず座ってくれ」
「はい、殿下」
執務室にあるソファに座ったレオンハルトは、ハァとため息をついた。
「……エルシア嬢」
「殿下……」
「――君の言った通りの結果だったよ」
そこでレオンハルトは衝撃を隠しきれないというように額を手で覆った。
(やっぱり……)
私ももちろん彼と同じ気持ちだった。
「君の言った通り、グレイス男爵令嬢が私に渡そうとしてきたクッキーの成分を詳しく調べさせた。そしたら一種の魅了のようなものが確認された」
「……やはりですか」
小説の中でのヒロインは料理上手で、お菓子や弁当を作ってはよくレオンハルトに渡していた。
レオンハルトがヒロインを好きになったきっかけとして、彼女の作る料理が美味しかったというのも大きい。
(だけど、それに相手を魅了する効果があったなんて……レイチェルはそれを知っているのかしら……)
たとえ知らなかったとしてもこれは重罪だ。
相手は一国の王子だったから。
「ああ、あの男爵令嬢まさかここまでしていたとはな……もし受け取っていたらどうなっていたか……」
「殿下……そう落ち込まないでください……」
レオンハルトには申し訳ないが、今は落ち込んでいる場合では無かった。
モーク伯爵令息に続き、またもう一つ問題が増えたのだ。
「殿下、グレイス男爵令嬢の取り巻きの方々についてご存知ですか?」
「ああ、直接見たことは無いが……高位貴族の令息ばかりだと聞いている。それも次男三男ではなく跡継ぎばかりをはべらせていると……」
「その通りです、殿下」
私の言いたいことが分かったのか、レオンハルトが重い息を吐いた。
「その令息たちももしかしたら……」
「はい、魅了をかけられているのかもしれません」
それを聞いたレオンハルトは盛大なため息を吐いた。
「カイルのこともまだ解決していないというのに……次々と面倒事を増やしてくれるな……」
「ですね……」
ここ最近、レオンハルトは執務に追われている日々だと聞く。
「殿下、私にも何かお手伝いできることがあれば言ってくださいね」
「ああ、ありがとう。エルシア嬢、お互いに頑張ろう」
「そうですね、カイルのためにも、シャルロッテ様のためにも頑張りましょう」
「だな……」
愛しい婚約者のことを思い浮かべたレオンハルトはクスッと笑って再び執務へと戻って行った。
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