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二度目の
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『ねぇ、あなたの名前は何て言うの?』
『僕は……』
『あ、いけない私ったら!人に名前を聞くときはまずは自分から名乗りなさいってお母様が言ってたのに!』
『……』
『私はエルシアっていうのよ!』
『エルシア……』
赤い髪をした少年がボソッと呟いた。
『お父様が王宮でお仕事をしているんだけどね……ここへ来たのは今日が初めてなの!』
『……もしかして、王太子殿下の婚約者候補の件でか?』
『あー……そうそう。そうなんだけど……』
『だけど?』
言葉を詰まらせた私を、彼は不思議そうに見つめた。
『私は、王子様じゃなくて強い騎士さんと結婚したいなぁ』
『……騎士?』
彼は何を言っているのか分からないと言ったような顔になった。
『うん!騎士さんはカッコイイでしょう?』
『……女の子は王子様に対して憧れるものじゃないのか?』
『たしかに、そういう子が多いけど……私は騎士さんの方が好きなの!』
『どうして?』
よほど気になったのか、少年が私に尋ねた。
『私ね、以前騎士さんに助けてもらったことがあるのよ』
『騎士に?』
『うん!』
私は騎士というものがどれほど素晴らしい存在かを少年に熱弁した。
『お母様とお出かけしたときに、迷子になっちゃったんだけど……』
『……何してんだよ』
『そのときに助けてくれたのがたまたま近くを巡回していた騎士さんだったの!私、お母様とはぐれちゃってとっても不安になってたんだけど、騎士さんがお菓子をくれたりして慰めてくれたんだ』
『……』
じっと話を聞いていた少年に、私は満面の笑みを浮かべて言った。
『だから私は、強くてカッコイイ騎士さんが大好きなの!』
その瞬間、周囲に草花が吹き荒れた。
(あれ、もっと見ていたいのに……)
いつも私の意思とは関係なく終わってしまう。
まだ夢は途中だ。
それなのに――
いつの間にか視界は真っ暗になっていた。
(ここはどこだろう?)
何も見えない。
気のせいか、遠くの方で声が聞こえてくる。
「……様」
聞き間違いかと思ったが、声はどんどん大きくなっていく。
「……シア様」
(……誰?)
もう少しだけここにいさせてと思ったそのとき、耳をつんざくような声が聞こえた。
「エルシア様ッ!」
「……ッ!」
ハッとなって目が覚めた。
「あ、あれ……私……」
そこは学園の教室だった。
どうやら休み時間に居眠りをしてしまったらしい。
「大声で呼んでしまって申し訳ありません。もうすぐ授業が始まるので起こした方がいいかなと……」
「あ、ああ!ありがとうございます!助かりました!」
壁にかけてあった時計を見ると、授業が始まる五分前を差していた。
(危ない危ない。遅刻するところだったわ)
私は勉強用具を抱えて廊下を早歩きで歩いた。
次は移動教室だったからだ。
それにしても不思議だ。
(……また懐かしい夢を見ていたような気がする)
もちろん内容は覚えていなかったが。
『僕は……』
『あ、いけない私ったら!人に名前を聞くときはまずは自分から名乗りなさいってお母様が言ってたのに!』
『……』
『私はエルシアっていうのよ!』
『エルシア……』
赤い髪をした少年がボソッと呟いた。
『お父様が王宮でお仕事をしているんだけどね……ここへ来たのは今日が初めてなの!』
『……もしかして、王太子殿下の婚約者候補の件でか?』
『あー……そうそう。そうなんだけど……』
『だけど?』
言葉を詰まらせた私を、彼は不思議そうに見つめた。
『私は、王子様じゃなくて強い騎士さんと結婚したいなぁ』
『……騎士?』
彼は何を言っているのか分からないと言ったような顔になった。
『うん!騎士さんはカッコイイでしょう?』
『……女の子は王子様に対して憧れるものじゃないのか?』
『たしかに、そういう子が多いけど……私は騎士さんの方が好きなの!』
『どうして?』
よほど気になったのか、少年が私に尋ねた。
『私ね、以前騎士さんに助けてもらったことがあるのよ』
『騎士に?』
『うん!』
私は騎士というものがどれほど素晴らしい存在かを少年に熱弁した。
『お母様とお出かけしたときに、迷子になっちゃったんだけど……』
『……何してんだよ』
『そのときに助けてくれたのがたまたま近くを巡回していた騎士さんだったの!私、お母様とはぐれちゃってとっても不安になってたんだけど、騎士さんがお菓子をくれたりして慰めてくれたんだ』
『……』
じっと話を聞いていた少年に、私は満面の笑みを浮かべて言った。
『だから私は、強くてカッコイイ騎士さんが大好きなの!』
その瞬間、周囲に草花が吹き荒れた。
(あれ、もっと見ていたいのに……)
いつも私の意思とは関係なく終わってしまう。
まだ夢は途中だ。
それなのに――
いつの間にか視界は真っ暗になっていた。
(ここはどこだろう?)
何も見えない。
気のせいか、遠くの方で声が聞こえてくる。
「……様」
聞き間違いかと思ったが、声はどんどん大きくなっていく。
「……シア様」
(……誰?)
もう少しだけここにいさせてと思ったそのとき、耳をつんざくような声が聞こえた。
「エルシア様ッ!」
「……ッ!」
ハッとなって目が覚めた。
「あ、あれ……私……」
そこは学園の教室だった。
どうやら休み時間に居眠りをしてしまったらしい。
「大声で呼んでしまって申し訳ありません。もうすぐ授業が始まるので起こした方がいいかなと……」
「あ、ああ!ありがとうございます!助かりました!」
壁にかけてあった時計を見ると、授業が始まる五分前を差していた。
(危ない危ない。遅刻するところだったわ)
私は勉強用具を抱えて廊下を早歩きで歩いた。
次は移動教室だったからだ。
それにしても不思議だ。
(……また懐かしい夢を見ていたような気がする)
もちろん内容は覚えていなかったが。
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