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帰宅
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「今日は本当にありがとうございました」
朝になり、私は家へ帰るために着替えを済ませて門の前で公爵夫妻に挨拶をしていた。
ちょうど今日は休日だった。
「こちらこそカイルのためにありがとう」
「またいつでも来てくれ、エルシア嬢」
二人への感謝の言葉を述べた私は馬車へと乗った。
ハワンズ公爵家の馬車は屋敷へ帰しているので私が乗っているのはフォース公爵家の馬車だ。
(結局カイルは見送りには来なかったわね……)
馬車の中で、私は昨日から一度も姿を見せていないカイルを思い浮かべた。
朝、カイルに会いに行っていいか悩んだ。
昨日あんなことがあったのだから当然だ。
(会いに行きたい気持ちが無いことは無かったけれど……)
結局彼の部屋の前で立ち往生した末に諦めたのだ。
何故だか体が動かなかった。
カイルに会うのはまだ時期尚早だと、誰かが警告しているかのようで。
不思議な感覚だったが、体が彼の部屋の扉をノックすることを拒絶していたのだ。
(それより、何かを見落としているような気がする……)
それと同時に、妙な違和感を覚えた。
その違和感の正体が何なのかは分からずじまいだったが。
***
「「エルシア!!!」」
フォース公爵邸からハワンズ公爵邸へ帰ると、両親が私の元へと駆け寄って来た。
お父様にいたっては何故だか泣きそうな顔をしている。
「お父様、お母様……」
二人には今回の件でかなり心配をかけてしまっていただろう。
私は今まで一度もこんな行動をしたことなど無かったから。
「エルシア、心配したのよ」
「そうだぞ、急にフォース公爵邸に泊まるだなんて……まさか、この前言っていた公爵令息か!?」
「え、あ、いや……」
両親に何て言うべきだろうか。
言い訳が思いつかなかった私は、返答に困ってしまった。
そのとき、お母様が私の肩に優しく手を置いた。
「エルシア、何か心配事でもあるの?表情がいつもより暗いわ」
「お母様……」
お母様はいつだって私の変化に一番に気付いてくれる人だった。
(お母様……)
こんなにも優しい父と母を見ていると、ついつい甘えたくなってしまう。
今まであったこと全部話してもいいんじゃないかって。
だけどそういうわけにもいかなかった。
(好意を利用されただなんて、そんなの二人に言えない……)
優しい両親はきっとこのことを聞けば胸を痛めてしまうだろう。
今回の件はレオンハルト殿下にも両親には伝えないでほしいと言ってあるため、彼らは何も知らないのだ。
俯く私を見たお父様が突然声を上げた。
「まさかフォース公爵令息に何かされたんじゃ!?今すぐ公爵家に抗議の文を……」
「貴方、馬鹿なことをおっしゃらないでください。あのフォース公爵令息がそのようなことするわけがないでしょう」
「だが、エルシアの顔が……」
とんでもないことを言い出すお父様に気付いた私は、慌てて弁解した。
「ち、違うのお父様……公爵令息とは何も無かったのよ……」
「本当か?」
「うん、もう夜も遅いから泊まっていったらどうかと公爵閣下がおっしゃってくれたの」
「そうか……」
フォース公爵閣下の人柄の良さを私よりもよく知っているであろうお父様は、その言葉に納得したようだった。
「とりあえず、私部屋に戻るね!やることがあるから」
「ああ、ゆっくり休んでなさい」
私は聞きたいことが山ほどあると言ったような顔をする両親から逃げるようにそそくさと部屋へ戻った。
(二人とも、ごめんね……!)
朝になり、私は家へ帰るために着替えを済ませて門の前で公爵夫妻に挨拶をしていた。
ちょうど今日は休日だった。
「こちらこそカイルのためにありがとう」
「またいつでも来てくれ、エルシア嬢」
二人への感謝の言葉を述べた私は馬車へと乗った。
ハワンズ公爵家の馬車は屋敷へ帰しているので私が乗っているのはフォース公爵家の馬車だ。
(結局カイルは見送りには来なかったわね……)
馬車の中で、私は昨日から一度も姿を見せていないカイルを思い浮かべた。
朝、カイルに会いに行っていいか悩んだ。
昨日あんなことがあったのだから当然だ。
(会いに行きたい気持ちが無いことは無かったけれど……)
結局彼の部屋の前で立ち往生した末に諦めたのだ。
何故だか体が動かなかった。
カイルに会うのはまだ時期尚早だと、誰かが警告しているかのようで。
不思議な感覚だったが、体が彼の部屋の扉をノックすることを拒絶していたのだ。
(それより、何かを見落としているような気がする……)
それと同時に、妙な違和感を覚えた。
その違和感の正体が何なのかは分からずじまいだったが。
***
「「エルシア!!!」」
フォース公爵邸からハワンズ公爵邸へ帰ると、両親が私の元へと駆け寄って来た。
お父様にいたっては何故だか泣きそうな顔をしている。
「お父様、お母様……」
二人には今回の件でかなり心配をかけてしまっていただろう。
私は今まで一度もこんな行動をしたことなど無かったから。
「エルシア、心配したのよ」
「そうだぞ、急にフォース公爵邸に泊まるだなんて……まさか、この前言っていた公爵令息か!?」
「え、あ、いや……」
両親に何て言うべきだろうか。
言い訳が思いつかなかった私は、返答に困ってしまった。
そのとき、お母様が私の肩に優しく手を置いた。
「エルシア、何か心配事でもあるの?表情がいつもより暗いわ」
「お母様……」
お母様はいつだって私の変化に一番に気付いてくれる人だった。
(お母様……)
こんなにも優しい父と母を見ていると、ついつい甘えたくなってしまう。
今まであったこと全部話してもいいんじゃないかって。
だけどそういうわけにもいかなかった。
(好意を利用されただなんて、そんなの二人に言えない……)
優しい両親はきっとこのことを聞けば胸を痛めてしまうだろう。
今回の件はレオンハルト殿下にも両親には伝えないでほしいと言ってあるため、彼らは何も知らないのだ。
俯く私を見たお父様が突然声を上げた。
「まさかフォース公爵令息に何かされたんじゃ!?今すぐ公爵家に抗議の文を……」
「貴方、馬鹿なことをおっしゃらないでください。あのフォース公爵令息がそのようなことするわけがないでしょう」
「だが、エルシアの顔が……」
とんでもないことを言い出すお父様に気付いた私は、慌てて弁解した。
「ち、違うのお父様……公爵令息とは何も無かったのよ……」
「本当か?」
「うん、もう夜も遅いから泊まっていったらどうかと公爵閣下がおっしゃってくれたの」
「そうか……」
フォース公爵閣下の人柄の良さを私よりもよく知っているであろうお父様は、その言葉に納得したようだった。
「とりあえず、私部屋に戻るね!やることがあるから」
「ああ、ゆっくり休んでなさい」
私は聞きたいことが山ほどあると言ったような顔をする両親から逃げるようにそそくさと部屋へ戻った。
(二人とも、ごめんね……!)
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