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夢
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(カイルったら、一体どうしちゃったんだろう?)
私はわけも分からないまま、部屋のベッドで横になっていた。
『お前は……本当に……何も覚えていないのか……』
頭の中では、カイルが放った言葉がこだましていた。
酷くショックを受けたような彼の顔。
長い間脳裏に焼き付いたまま、離れなかった。
(昔、会ったことあったかな……?)
私は必死で記憶の中を整理したが、何も思い浮かばなかった。
学園に入学する前にエルシアの体に憑依した私は彼女の記憶をある程度は知っていた。
どんな原理かはよく分からないが、夢だったり突如浮かんできたりを何度か経験していたのだ。
だからこそ、貴族令嬢として不可欠なマナーや淑女教育は入学時点で既に身に着いていた。
(ん~?でもカイルの記憶なんて無かったけどなぁ……)
その中で赤い髪をした少年が出てきた記憶は今のところ無かった。
大体が優しい両親と過ごした記憶だったり、社交界に出たときの記憶だった。
(赤い髪なんて珍しいから忘れるはずがないんだけどな……)
結局この日、私の中での疑問は解決しないままだった。
***
『ねぇ、あなたこんなところで何をしているの?』
『近寄るなッ!』
目の前にいる少年が、私の伸ばした手を思いきり振り払った。
五、六歳だろうか。
この日は王太子殿下の婚約者候補として初めて王宮へ登城し、お茶会に参加した日だった。
そんな中で、私はお茶会を抜け出した先の庭園である一人の幼い少年に出会った。
偶然の出会いだった。
まさかこんなところに人がいるだなんて思わなくて。
『どうしてそんなこと言うの?意地悪を言っちゃいけないんだってお父様とお母様が』
『……意地悪を言っているんじゃない』
『じゃあどうして?私のことが嫌いなの?』
『……そういうわけじゃ』
少年は怯えた顔をしていた。
『……お前は、俺が怖くないのか?』
『怖い?』
『みんなが言うんだ。俺の顔は怖いって。髪と目が血みたいだって』
少年の燃えるような赤い髪にそれと同じ色の瞳。
私はそれを怖いだなんて思わなかった。
だからこそ、彼の言っていることを理解出来なかったのだ。
『怖くないわ!赤は正義の色だもの!』
『せ、正義……?』
『王宮にいる騎士さんたちがいつも着ている服だって赤色だもの!だから私は――』
そこで私は未だに怯えたままの少年に対してニッコリと笑いかけた。
『あなたのその色、とってもカッコイイと思う!』
『……!』
少年の赤い瞳が驚いたように丸く見開かれた。
『さぁ、戻りましょう。あなたも王太子殿下のお茶会に招待されたんでしょう?』
『……ああ』
私は少年の手を引いて来た道を戻り始めた。
「……」
そこで私は目覚めた。
いつもとは違う、見慣れない天井が視界に広がっている。
(あれ、ここどこだ……?)
体を起こしてからようやくフォース公爵邸に泊まりに来ていたのだということに気が付いた。
(……何だかすごく懐かしい夢を見ていたような気がするわ……)
不思議だった。
こんなにも変な気分になるのは初めてで。
いつもより目覚めが良かった。
(妙ね。こんなのは久しぶりだわ)
私は部屋のカーテンを開け、太陽の光を浴びながら伸びをした。
口元に自然と笑みが浮かんでしまうほどに気持ちの良い朝だ。
が、しかし――
(一体どんな夢だったんだろう?)
――愚かにも、私はその夢を覚えてはいなかった。
私はわけも分からないまま、部屋のベッドで横になっていた。
『お前は……本当に……何も覚えていないのか……』
頭の中では、カイルが放った言葉がこだましていた。
酷くショックを受けたような彼の顔。
長い間脳裏に焼き付いたまま、離れなかった。
(昔、会ったことあったかな……?)
私は必死で記憶の中を整理したが、何も思い浮かばなかった。
学園に入学する前にエルシアの体に憑依した私は彼女の記憶をある程度は知っていた。
どんな原理かはよく分からないが、夢だったり突如浮かんできたりを何度か経験していたのだ。
だからこそ、貴族令嬢として不可欠なマナーや淑女教育は入学時点で既に身に着いていた。
(ん~?でもカイルの記憶なんて無かったけどなぁ……)
その中で赤い髪をした少年が出てきた記憶は今のところ無かった。
大体が優しい両親と過ごした記憶だったり、社交界に出たときの記憶だった。
(赤い髪なんて珍しいから忘れるはずがないんだけどな……)
結局この日、私の中での疑問は解決しないままだった。
***
『ねぇ、あなたこんなところで何をしているの?』
『近寄るなッ!』
目の前にいる少年が、私の伸ばした手を思いきり振り払った。
五、六歳だろうか。
この日は王太子殿下の婚約者候補として初めて王宮へ登城し、お茶会に参加した日だった。
そんな中で、私はお茶会を抜け出した先の庭園である一人の幼い少年に出会った。
偶然の出会いだった。
まさかこんなところに人がいるだなんて思わなくて。
『どうしてそんなこと言うの?意地悪を言っちゃいけないんだってお父様とお母様が』
『……意地悪を言っているんじゃない』
『じゃあどうして?私のことが嫌いなの?』
『……そういうわけじゃ』
少年は怯えた顔をしていた。
『……お前は、俺が怖くないのか?』
『怖い?』
『みんなが言うんだ。俺の顔は怖いって。髪と目が血みたいだって』
少年の燃えるような赤い髪にそれと同じ色の瞳。
私はそれを怖いだなんて思わなかった。
だからこそ、彼の言っていることを理解出来なかったのだ。
『怖くないわ!赤は正義の色だもの!』
『せ、正義……?』
『王宮にいる騎士さんたちがいつも着ている服だって赤色だもの!だから私は――』
そこで私は未だに怯えたままの少年に対してニッコリと笑いかけた。
『あなたのその色、とってもカッコイイと思う!』
『……!』
少年の赤い瞳が驚いたように丸く見開かれた。
『さぁ、戻りましょう。あなたも王太子殿下のお茶会に招待されたんでしょう?』
『……ああ』
私は少年の手を引いて来た道を戻り始めた。
「……」
そこで私は目覚めた。
いつもとは違う、見慣れない天井が視界に広がっている。
(あれ、ここどこだ……?)
体を起こしてからようやくフォース公爵邸に泊まりに来ていたのだということに気が付いた。
(……何だかすごく懐かしい夢を見ていたような気がするわ……)
不思議だった。
こんなにも変な気分になるのは初めてで。
いつもより目覚めが良かった。
(妙ね。こんなのは久しぶりだわ)
私は部屋のカーテンを開け、太陽の光を浴びながら伸びをした。
口元に自然と笑みが浮かんでしまうほどに気持ちの良い朝だ。
が、しかし――
(一体どんな夢だったんだろう?)
――愚かにも、私はその夢を覚えてはいなかった。
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