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疑問
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それから私は、カイルとフォース公爵夫妻と共に夕食を摂った後に湯浴みをした。
(ハワンズ公爵邸に負けないくらい大きいわね……)
私に割り当てられたのはカイルの隣にある部屋だった。
直々に部屋の案内をしてくれた公爵夫人の話によると、ここは代々フォース公爵家の令嬢が使ってきた部屋らしい。
ちなみにカイルの部屋はもちろん公爵家の嫡男が使うところだ。
(そんな部屋を私に使わせてくれるだなんて……)
公爵夫人の配慮に驚いた。
いくらカイルの友人だからって、ここまでしてもらっていいのだろうか。
フォース公爵夫人が若い頃に着ていた室内用のワンピースを借りた私は、ひとまずカイルに会いに行った。
彼がいるのは隣の部屋なのですぐに着いた。
「――カイル、いる?」
「エルシア?」
部屋の中にいたカイルは入って来た私を見て目をぱちくりさせた。
「どうしたんだ?急にここへ来て」
「暇だったから……カイルと少し話そうかなって」
「そうか」
私から顔を背けたカイルは少しだけ口角が上がったように見えた。
(もしかして、嬉しいの?)
あの事件が起きた日から長らく不思議に思っていたことがあった。
何故カイルが私のためにここまでしてくれるのかがどうしても分からない。
少し前までは、彼は私のことを嫌っているのだとずっと思っていた。
だからこそあんな風に冷たく当たって何かと嫌味を言ってくるのだと。
だけど、今の彼を見る限り――
(…………どうして?)
以前の彼と別人のように見えるのは気のせいだろうか。
どうしてそんなに優しくしてくれるのだろう。
私の中でそんな疑問が膨れ上がっていく。
カイルの考えがまるで分からない。
「ねぇ、カイル……」
「何だ?」
私の声に反応したカイルがこちらを向いた。
燃えるような赤い瞳が、私を映している。
「カイルは……どうして……」
「……」
一瞬迷ったが、私は思い切って聞いてみることにした。
「どうして……私のためにそこまでしてくれるの?」
「……」
ずっと気になっていたことだった。
聞く機会が無くて聞けていなかったけれど、どうしても理由を知りたかった。
私の質問に、カイルは目を見開いた後言いづらそうな顔をしながらも口を開いた。
「それは……お前が……」
「私が?」
「……」
きょとんとした顔になる私を見て、カイルは言葉を詰まらせた。
何故だかとても悲しそうな顔だ。
(……どうしたんだろう?)
何か言いづらいことでもあるのだろうか。
カイルの答えには全く見当がつかない。
「お前は……本当に……何も覚えていないのか……」
「覚えていない?一体何を?」
「……ッ」
とうとう彼が俯いてしまった。
(覚えていないってどういうこと……?私の知らない何かがあるの?)
彼の言っていることが上手く理解出来なかった。
私たち、前に何かあっただろうか。
(もしかして、私が忘れているだけ?)
私は彼の顔をじっと見つめた。
「カイル……私たち、以前会ったことがあったかしら?」
「……」
「カイル?」
「……悪い、今日はもうお前と話せそうにない」
「え、どうして……?」
私は慌てて理由を尋ねたが、彼はそんな私から背を向けてしまった。
「悪い、今日はもう部屋に戻って休んでくれ」
「カイル……!」
結局、私は何かを言う暇もなく部屋を追い出されたのだった。
(ハワンズ公爵邸に負けないくらい大きいわね……)
私に割り当てられたのはカイルの隣にある部屋だった。
直々に部屋の案内をしてくれた公爵夫人の話によると、ここは代々フォース公爵家の令嬢が使ってきた部屋らしい。
ちなみにカイルの部屋はもちろん公爵家の嫡男が使うところだ。
(そんな部屋を私に使わせてくれるだなんて……)
公爵夫人の配慮に驚いた。
いくらカイルの友人だからって、ここまでしてもらっていいのだろうか。
フォース公爵夫人が若い頃に着ていた室内用のワンピースを借りた私は、ひとまずカイルに会いに行った。
彼がいるのは隣の部屋なのですぐに着いた。
「――カイル、いる?」
「エルシア?」
部屋の中にいたカイルは入って来た私を見て目をぱちくりさせた。
「どうしたんだ?急にここへ来て」
「暇だったから……カイルと少し話そうかなって」
「そうか」
私から顔を背けたカイルは少しだけ口角が上がったように見えた。
(もしかして、嬉しいの?)
あの事件が起きた日から長らく不思議に思っていたことがあった。
何故カイルが私のためにここまでしてくれるのかがどうしても分からない。
少し前までは、彼は私のことを嫌っているのだとずっと思っていた。
だからこそあんな風に冷たく当たって何かと嫌味を言ってくるのだと。
だけど、今の彼を見る限り――
(…………どうして?)
以前の彼と別人のように見えるのは気のせいだろうか。
どうしてそんなに優しくしてくれるのだろう。
私の中でそんな疑問が膨れ上がっていく。
カイルの考えがまるで分からない。
「ねぇ、カイル……」
「何だ?」
私の声に反応したカイルがこちらを向いた。
燃えるような赤い瞳が、私を映している。
「カイルは……どうして……」
「……」
一瞬迷ったが、私は思い切って聞いてみることにした。
「どうして……私のためにそこまでしてくれるの?」
「……」
ずっと気になっていたことだった。
聞く機会が無くて聞けていなかったけれど、どうしても理由を知りたかった。
私の質問に、カイルは目を見開いた後言いづらそうな顔をしながらも口を開いた。
「それは……お前が……」
「私が?」
「……」
きょとんとした顔になる私を見て、カイルは言葉を詰まらせた。
何故だかとても悲しそうな顔だ。
(……どうしたんだろう?)
何か言いづらいことでもあるのだろうか。
カイルの答えには全く見当がつかない。
「お前は……本当に……何も覚えていないのか……」
「覚えていない?一体何を?」
「……ッ」
とうとう彼が俯いてしまった。
(覚えていないってどういうこと……?私の知らない何かがあるの?)
彼の言っていることが上手く理解出来なかった。
私たち、前に何かあっただろうか。
(もしかして、私が忘れているだけ?)
私は彼の顔をじっと見つめた。
「カイル……私たち、以前会ったことがあったかしら?」
「……」
「カイル?」
「……悪い、今日はもうお前と話せそうにない」
「え、どうして……?」
私は慌てて理由を尋ねたが、彼はそんな私から背を向けてしまった。
「悪い、今日はもう部屋に戻って休んでくれ」
「カイル……!」
結局、私は何かを言う暇もなく部屋を追い出されたのだった。
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