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心を込めて
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レオンハルトからカイルのサポートを、と言われた私はその頼みを了承したはいいものの、すぐに頭を悩ませた。
(サポートって言っても……何をすればいいんだろう?)
きっとカイルは今精神的に不安定なはずだ。
レオンハルトはそんなカイルを支えてほしいという意味で私にそのようなことを言ったのだろう。
しかし、少し前にカイルを傷付けてしまった私は何をするべきなのか悩んだ。
(カイルのことよく知らないんだよなぁ……)
私はカイルについて知っていることはあまりない。
幼い頃からの知り合いではあったが、それほど関わった記憶もなかった。
本当ならカイルの好む食べ物などを持って行ってあげたいが、それすらも分からなかった。
「どうすれば……」
考え込んでいたそのとき、私はふと小説の内容を思い出した。
(そういえば……カイルってたしか……)
私は必死で前世の記憶を辿った。
そしてこのとき、ようやくカイルの好むであろうものが一つ思い浮かんだのである。
「これなら……!」
思い付いた私はすぐに家へと帰った。
***
「エマ!」
「……エルシアお嬢様?」
公爵邸へと帰った私は、使用人たちのいる厨房へと急いだ。
突如厨房へ入って来た私を見て、シェフたちは驚きを隠しきれないようだ。
「エマ、お菓子作りのやり方を教えてほしいの!」
「お、お嬢様……?急にどうなさったのですか……?」
使用人たちは困惑した。
私はいちいち事情を説明する暇も無かったので、適当に誤魔化した。
「あ、えっと……学園の友達にプレゼントしたいなぁって思って……」
「そうだったのですね!それは良いことです!」
嘘ではない。
私が手作りお菓子をプレゼントするつもりの相手はカイルだから。
(彼が私を友達だと思っているかは分からないけれど……)
小説の中だと、カイルはヒロインが作ってきたクッキーを喜んで口にしていた。
カイルは基本的には人から差し入れされたものは受け取らない人だ。
では何故ヒロインの手作りクッキーは食べたのか。
そう、彼はそのような心が込められたものを無下には出来ないタイプの人間なのだ。
赤の他人は流石に無理だが、ある程度知った人間ならば受け取ってくれるのである。
「お嬢様にお友達が出来たようで嬉しいです」
「ありがとう。では、早速作り方を教えてくれるかしら?」
「もちろんです、お嬢様」
私はその夜、使用人のエマを講師にお菓子作りについてを一から学んだ。
「お嬢様、ここでボウルに砂糖を投入です!」
「ボウルに砂糖を……」
「お嬢様、それ塩です!」
「ああ、間違えた!」
前世含めてお菓子作りなど一度もしたことの無い私はもちろん苦戦した。
しかし、私は諦めなかった。
全てはカイルのため。
彼は私のためにあれだけのことをしてくれたのだから、これくらいはどうだってことない。
そしてそんなことをしているうちに、気付けば朝になっていた。
「完成しましたね、お嬢様!」
「ええ、やっと出来たわ」
何度も失敗を重ね、ようやく手作りのお菓子が完成した。
(これを今日カイルに持って行けば……!)
私は完成したクッキーを包装して厨房から出た。
(サポートって言っても……何をすればいいんだろう?)
きっとカイルは今精神的に不安定なはずだ。
レオンハルトはそんなカイルを支えてほしいという意味で私にそのようなことを言ったのだろう。
しかし、少し前にカイルを傷付けてしまった私は何をするべきなのか悩んだ。
(カイルのことよく知らないんだよなぁ……)
私はカイルについて知っていることはあまりない。
幼い頃からの知り合いではあったが、それほど関わった記憶もなかった。
本当ならカイルの好む食べ物などを持って行ってあげたいが、それすらも分からなかった。
「どうすれば……」
考え込んでいたそのとき、私はふと小説の内容を思い出した。
(そういえば……カイルってたしか……)
私は必死で前世の記憶を辿った。
そしてこのとき、ようやくカイルの好むであろうものが一つ思い浮かんだのである。
「これなら……!」
思い付いた私はすぐに家へと帰った。
***
「エマ!」
「……エルシアお嬢様?」
公爵邸へと帰った私は、使用人たちのいる厨房へと急いだ。
突如厨房へ入って来た私を見て、シェフたちは驚きを隠しきれないようだ。
「エマ、お菓子作りのやり方を教えてほしいの!」
「お、お嬢様……?急にどうなさったのですか……?」
使用人たちは困惑した。
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「あ、えっと……学園の友達にプレゼントしたいなぁって思って……」
「そうだったのですね!それは良いことです!」
嘘ではない。
私が手作りお菓子をプレゼントするつもりの相手はカイルだから。
(彼が私を友達だと思っているかは分からないけれど……)
小説の中だと、カイルはヒロインが作ってきたクッキーを喜んで口にしていた。
カイルは基本的には人から差し入れされたものは受け取らない人だ。
では何故ヒロインの手作りクッキーは食べたのか。
そう、彼はそのような心が込められたものを無下には出来ないタイプの人間なのだ。
赤の他人は流石に無理だが、ある程度知った人間ならば受け取ってくれるのである。
「お嬢様にお友達が出来たようで嬉しいです」
「ありがとう。では、早速作り方を教えてくれるかしら?」
「もちろんです、お嬢様」
私はその夜、使用人のエマを講師にお菓子作りについてを一から学んだ。
「お嬢様、ここでボウルに砂糖を投入です!」
「ボウルに砂糖を……」
「お嬢様、それ塩です!」
「ああ、間違えた!」
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しかし、私は諦めなかった。
全てはカイルのため。
彼は私のためにあれだけのことをしてくれたのだから、これくらいはどうだってことない。
そしてそんなことをしているうちに、気付けば朝になっていた。
「完成しましたね、お嬢様!」
「ええ、やっと出来たわ」
何度も失敗を重ね、ようやく手作りのお菓子が完成した。
(これを今日カイルに持って行けば……!)
私は完成したクッキーを包装して厨房から出た。
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