目が覚めたらクソ小説の世界のモブに転生していました。~悪役令嬢・その他救済計画!~

ましゅぺちーの

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優しい人

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「カイル!!!」


私は学園中を走り回ってカイルを探した。
もちろんモーク伯爵令息の言葉には傷付いたけれど、今はそれどころではなかった。


(どうかまだ学園にいますように……!)


それだけを祈って探し続けた。
そしてようやく、見つけることが出来た。


「……!」


カイルは学園内の庭で一人佇んでいた。
その横顔はどこか落ち込んでいるようにも見える。


(私が……あんなことを言ってしまったから……)


私はカイルにたくさん酷いことを言ってしまった。
今になって後悔の念がどっと押し寄せてくる。


「カイル……」
「……」


私が彼の後ろ姿に声を掛けると、ようやく彼はこちらを振り向いた。
そして、驚いたように目を見張った。
珍しく考え込んでいたのか、ずっと私の存在に気付いていなかったようだ。


私とカイルの視線がぶつかり合った。
いつものような鋭い瞳ではなく、どこか悲しみが込められていて。
その目を見ると、私は途端に何も言えなくなった。


(ど、どうしよう……何て言えばいいの……?)


助けてもらったお礼?
暴言を吐いたことに対する謝罪?
頭では分かっているのに、いざ彼と向き合ったら何も言葉が出てこなかった。


「カイル……」
「エルシア……」


私が言葉に詰まっていると、カイルは一歩一歩ゆっくりと私に近付いてきた。


「……!」


カイルに名前を呼ばれるのは初めてかもしれない。
彼は私の目の前まで来ると、私の頬にそっと手を伸ばした。


「カイル……?」
「……アイツに、何もされてないか?」
「……!」


(どうして……そんなことが言えるのよ……)


あれだけ暴言を吐いたのに。
自分のためにあそこまでしてくれた彼を傷付けたのに。
どうしてカイルはそんなにも優しい言葉をかけることが出来るのだろうか。


こんなにも優しいカイルを見たのは初めてだ。
いつも私には冷たい人だったから。


「……うん、何ともないよ」
「そうか、それは良かった」


私がそう言うと、カイルは安心したかのように笑みを浮かべた。
その笑顔を見た私は、ようやく決心がついた。


「……あのね、カイル」
「――最後にお前に会えて良かった」
「……………え?」


突然そんなことを言い出したカイルに、驚きを隠しきれない。


(最後にって何……?どういうことなの……?)


「俺は直に学園を退学になるだろう」
「……!」


その言葉で、私はようやく気が付いた。
たしか、モーク伯爵令息も似たようなことを言っていた。
――学内で暴力沙汰を起こせば、間違いなく退学になると。


(ちょっと待ってよ……そんな……!)


そんなの納得いくはずがない。
彼は何の理由もなく暴力を振るったわけではないのだ。
全ては私のためにしてくれたことだ。


「カイル……!そんなこと……!」
「いいんだ、こうやってお前を守れたんだから。お前が罪悪感を感じる必要はどこにもない」
「……!」


そう言ったカイルは、どこか諦めたような顔をしていた。
口ではそんなことを言っているが、彼だって学園を退学になるのは嫌なはずだ。


王立学園を退学になってしまうだなんて、醜聞どころではない。
カイルをそんな目に遭わせるわけにはいかなかった。


「カイル!!!」
「……?」


突如大声を出した私を、カイルは驚いたような顔で見た。


「私が絶対に貴方を助けてあげるから!」
「何言って……」
「だから、少しだけ待ってて!貴方を退学になんてさせないわ!」
「エルシア……」


私はこのとき決心した。
何が何でもカイルを助けようと。


(退学になんてさせない……!絶対に……!)


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