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真実
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(どうしてリオン様のお兄様がここにいるの……?)
そう思ったものの、私はその場から動くことが出来ずにいた。
盗み聞きするだなんて良くない、そんなことは分かりきっていた。
しかし、何故だか胸騒ぎがしてこの場を離れることが出来なかった。
「お前、こんな騒ぎを起こしやがって……」
「悪かったよ、兄上」
どうやら兄が弟を叱っているようだ。
騒ぎとはきっと、カイルとのことだろう。
しかし、今回の件に関してはモーク伯爵令息は被害者だ。
彼に罰が下ることは無い。
それなのに何故あんな風に𠮟りつけているのだろうか。
「いいか、俺たちの計画はまだ始まったばかりなんだぞ」
「ああ、分かってるよ」
(計画……?一体何のこと……?)
何だか嫌な予感がする。
この先を聞いてはいけないような、そんな気がして仕方が無い。
「心配しないでいい、兄上。ハワンズ公爵令嬢は俺にベタ惚れなんだから。計画が失敗することは無いよ」
「ならいいが……」
まるで嘲笑うかのようにそう言ったモーク伯爵令息。
いつもの紳士的な彼は、そこにはいなかった。
(…………何を、言っているの?)
その言葉を聞いた瞬間、時が止まったかのように頭が真っ白になった。
彼の言っていることの意味が分からない。
固まっている私に気付くことなく、二人は会話を続ける。
「しかし、よく考えたな。公爵家を乗っ取るだなんて」
「ああ、良い案だろう?モーク伯爵家の権力拡大にも繋がる」
「でも何でわざわざハワンズ公爵家にしたんだ?エルシア嬢はたしかに綺麗だが……公女は他にもいただろう?」
「ああいう世間知らずで無知なお嬢様は良いカモなんだよ。ちょっと優しくすりゃすぐに勘違いする」
「ハハッ、本当に最低な男だなお前は。エルシア嬢のこと別に好きじゃないってことか?」
「ああ、俺が彼女と結婚して公爵位を継いだら唯一の後継者であるあの女も殺すつもりだからな。そうすれば誰も俺に口出し出来ない」
心臓が冷えていくのを感じた。
とてもじゃないけれど、目の前の光景が信じられない。
この人たちは一体何を言っているのだろうか。
「……」
夢ではないかと疑って頬をつねってみるが、間違いなくここは現実世界だった。
(乗っ取る……?殺す……?世間知らずで無知……?)
彼の発した言葉は、私の胸を突き刺すには十分すぎるくらいだった。
呆然としている私の耳に、再び彼らの会話が聞こえてくる。
「カイル・フォースにその計画を知られたときは焦ったよ。アイツ激怒して殴りかかってきたんだぜ?」
「おい、大丈夫かよ。カイルって言ったらフォース公爵家の人間だろ?」
「平気さ、アイツはもうすぐ退学になるだろうからな。暴力事件を起こしたんだ。二度と社交界にも出られないだろう」
「まぁ、それもそうだな」
「仮にアイツが誰かに告げ口したところで暴力男の言葉なんて誰も信じやしない。手を出した時点で終わりなんだよ」
それを聞いた私はハッとなった。
「……!」
(カイル……!)
気付けば私は、走り出していた。
そう思ったものの、私はその場から動くことが出来ずにいた。
盗み聞きするだなんて良くない、そんなことは分かりきっていた。
しかし、何故だか胸騒ぎがしてこの場を離れることが出来なかった。
「お前、こんな騒ぎを起こしやがって……」
「悪かったよ、兄上」
どうやら兄が弟を叱っているようだ。
騒ぎとはきっと、カイルとのことだろう。
しかし、今回の件に関してはモーク伯爵令息は被害者だ。
彼に罰が下ることは無い。
それなのに何故あんな風に𠮟りつけているのだろうか。
「いいか、俺たちの計画はまだ始まったばかりなんだぞ」
「ああ、分かってるよ」
(計画……?一体何のこと……?)
何だか嫌な予感がする。
この先を聞いてはいけないような、そんな気がして仕方が無い。
「心配しないでいい、兄上。ハワンズ公爵令嬢は俺にベタ惚れなんだから。計画が失敗することは無いよ」
「ならいいが……」
まるで嘲笑うかのようにそう言ったモーク伯爵令息。
いつもの紳士的な彼は、そこにはいなかった。
(…………何を、言っているの?)
その言葉を聞いた瞬間、時が止まったかのように頭が真っ白になった。
彼の言っていることの意味が分からない。
固まっている私に気付くことなく、二人は会話を続ける。
「しかし、よく考えたな。公爵家を乗っ取るだなんて」
「ああ、良い案だろう?モーク伯爵家の権力拡大にも繋がる」
「でも何でわざわざハワンズ公爵家にしたんだ?エルシア嬢はたしかに綺麗だが……公女は他にもいただろう?」
「ああいう世間知らずで無知なお嬢様は良いカモなんだよ。ちょっと優しくすりゃすぐに勘違いする」
「ハハッ、本当に最低な男だなお前は。エルシア嬢のこと別に好きじゃないってことか?」
「ああ、俺が彼女と結婚して公爵位を継いだら唯一の後継者であるあの女も殺すつもりだからな。そうすれば誰も俺に口出し出来ない」
心臓が冷えていくのを感じた。
とてもじゃないけれど、目の前の光景が信じられない。
この人たちは一体何を言っているのだろうか。
「……」
夢ではないかと疑って頬をつねってみるが、間違いなくここは現実世界だった。
(乗っ取る……?殺す……?世間知らずで無知……?)
彼の発した言葉は、私の胸を突き刺すには十分すぎるくらいだった。
呆然としている私の耳に、再び彼らの会話が聞こえてくる。
「カイル・フォースにその計画を知られたときは焦ったよ。アイツ激怒して殴りかかってきたんだぜ?」
「おい、大丈夫かよ。カイルって言ったらフォース公爵家の人間だろ?」
「平気さ、アイツはもうすぐ退学になるだろうからな。暴力事件を起こしたんだ。二度と社交界にも出られないだろう」
「まぁ、それもそうだな」
「仮にアイツが誰かに告げ口したところで暴力男の言葉なんて誰も信じやしない。手を出した時点で終わりなんだよ」
それを聞いた私はハッとなった。
「……!」
(カイル……!)
気付けば私は、走り出していた。
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