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警戒
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それからというもの、私はモーク伯爵令息と交流を持つようになった。
「エルシア嬢、おはよう」
「あ、おはようございます……」
クラスは違うが、今では毎日のように挨拶を交わす仲となった。
私はどうやらかなり彼のことが気になっているらしい。
未来の夫候補の一人である。
(まぁ、まだ決まったわけじゃないけど……)
いきなり婚約者、というわけではなく恋人同士から始めるなら良いかもしれない。
前世では恋愛経験が一切無かったため、男の人と付き合ってみたいって思ってる自分もいるし。
「今日も綺麗だね」
「え、そんなことないですよ……!」
「いいや、君は他の誰よりも美しいよ。そんなに自分を卑下しないで」
「あ、ありがとうございます……?」
そしてモーク伯爵令息は毎日こんな調子である。
(たしかにエルシアは誰から見ても綺麗な子だけれど……)
男性に、しかもこんな風に面と向かって言われるのは何だか恥ずかしい。
異性慣れしていない私は、今日も顔が真っ赤である。
「――エルシア様!」
「……シャルロッテ様?」
モーク伯爵令息と二人で話していたそのとき、声を掛けて来たのはシャルロッテだった。
「おはようございます、シャルロッテ様」
「おはようございます」
いつものように私の一番の友人であるシャルロッテとも挨拶を交わした。
そこでシャルロッテは私の隣にいたモーク伯爵令息に目を向けた。
「貴方は……」
「初めまして、シャルロッテ皇女殿下」
そこでモーク伯爵令息は一歩前に出て礼をとった。
「モーク伯爵家のリオンと申します」
「まぁ、モーク伯爵令息でしたか…………エルシア様とはどのようなご関係なのですか?」
シャルロッテの問いに、私は言葉に詰まった。
(こ、これは何て答えるのが正解なんだろう?)
未来の旦那様候補ですだなんてそんな恥ずかしいこと言えるはずが無かった。
私が返答に困っていると、助け船を出すようにモーク伯爵令息が口を開いた。
「――エルシア嬢は私の友人の一人です」
「友人の一人……ですか」
「はい」
そこでシャルロッテは私の方に視線を戻した。
彼女と目を合わせた私はコクコクと頷いた。
そのとき突然、シャルロッテが私の手を掴んだ。
「モーク伯爵令息、エルシア様を少しお借りしてもよろしいですか?」
「はい、もちろんです。私の許可など必要ありません」
私は唐突なシャルロッテの行動に内心困惑した。
「シャルロッテ様、どうして……?」
「行きましょう、エルシア様」
シャルロッテは私の問いに答えることはなく、ニッコリと笑って私をモーク伯爵令息の前から連れ出した。
***
私がシャルロッテに連れて来られたのは、人気のない校舎裏だった。
「シャルロッテ様、どうかなさったのですか?」
私の手を放し、振り返ったシャルロッテに尋ねた。
振り向いたシャルロッテは神妙な面持ちをしていた。
「エルシア様、あのお方……モーク伯爵令息をあまり信頼なさらない方がよろしいかと思いますわ」
「え、どうしてですか?」
モーク伯爵令息を信頼するなだなんて。
一体それはどういうことなのだろうか。
「あの方、何だか怪しいんですの」
「怪しい……ですか?」
私にはとてもじゃないがそんな風には見えなかった。
シャルロッテの勘違いではないのか。
「モーク伯爵令息は優しい方ですよ、シャルロッテ様」
「……」
私がそう言ってもシャルロッテは彼に思うところがあるらしく、何かを考え込むようにしてじっと黙り込んだ。
「シャルロッテ様、どうして突然そのようなことをおっしゃるのですか?」
「……いえ、モーク伯爵令息の目が……」
「目……?」
意味が分からず聞き返したが、彼女がそれに答えてくれることは無かった。
「いえ、今のは忘れてください。とにかく、警戒を怠らないようになさった方がよろしいかと」
「……分かりました」
それだけ言うと、シャルロッテは近くにいた従者に何かを伝えて足早にこの場を立ち去った。
(何だろう……?変なシャルロッテ……)
「エルシア嬢、おはよう」
「あ、おはようございます……」
クラスは違うが、今では毎日のように挨拶を交わす仲となった。
私はどうやらかなり彼のことが気になっているらしい。
未来の夫候補の一人である。
(まぁ、まだ決まったわけじゃないけど……)
いきなり婚約者、というわけではなく恋人同士から始めるなら良いかもしれない。
前世では恋愛経験が一切無かったため、男の人と付き合ってみたいって思ってる自分もいるし。
「今日も綺麗だね」
「え、そんなことないですよ……!」
「いいや、君は他の誰よりも美しいよ。そんなに自分を卑下しないで」
「あ、ありがとうございます……?」
そしてモーク伯爵令息は毎日こんな調子である。
(たしかにエルシアは誰から見ても綺麗な子だけれど……)
男性に、しかもこんな風に面と向かって言われるのは何だか恥ずかしい。
異性慣れしていない私は、今日も顔が真っ赤である。
「――エルシア様!」
「……シャルロッテ様?」
モーク伯爵令息と二人で話していたそのとき、声を掛けて来たのはシャルロッテだった。
「おはようございます、シャルロッテ様」
「おはようございます」
いつものように私の一番の友人であるシャルロッテとも挨拶を交わした。
そこでシャルロッテは私の隣にいたモーク伯爵令息に目を向けた。
「貴方は……」
「初めまして、シャルロッテ皇女殿下」
そこでモーク伯爵令息は一歩前に出て礼をとった。
「モーク伯爵家のリオンと申します」
「まぁ、モーク伯爵令息でしたか…………エルシア様とはどのようなご関係なのですか?」
シャルロッテの問いに、私は言葉に詰まった。
(こ、これは何て答えるのが正解なんだろう?)
未来の旦那様候補ですだなんてそんな恥ずかしいこと言えるはずが無かった。
私が返答に困っていると、助け船を出すようにモーク伯爵令息が口を開いた。
「――エルシア嬢は私の友人の一人です」
「友人の一人……ですか」
「はい」
そこでシャルロッテは私の方に視線を戻した。
彼女と目を合わせた私はコクコクと頷いた。
そのとき突然、シャルロッテが私の手を掴んだ。
「モーク伯爵令息、エルシア様を少しお借りしてもよろしいですか?」
「はい、もちろんです。私の許可など必要ありません」
私は唐突なシャルロッテの行動に内心困惑した。
「シャルロッテ様、どうして……?」
「行きましょう、エルシア様」
シャルロッテは私の問いに答えることはなく、ニッコリと笑って私をモーク伯爵令息の前から連れ出した。
***
私がシャルロッテに連れて来られたのは、人気のない校舎裏だった。
「シャルロッテ様、どうかなさったのですか?」
私の手を放し、振り返ったシャルロッテに尋ねた。
振り向いたシャルロッテは神妙な面持ちをしていた。
「エルシア様、あのお方……モーク伯爵令息をあまり信頼なさらない方がよろしいかと思いますわ」
「え、どうしてですか?」
モーク伯爵令息を信頼するなだなんて。
一体それはどういうことなのだろうか。
「あの方、何だか怪しいんですの」
「怪しい……ですか?」
私にはとてもじゃないがそんな風には見えなかった。
シャルロッテの勘違いではないのか。
「モーク伯爵令息は優しい方ですよ、シャルロッテ様」
「……」
私がそう言ってもシャルロッテは彼に思うところがあるらしく、何かを考え込むようにしてじっと黙り込んだ。
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「……いえ、モーク伯爵令息の目が……」
「目……?」
意味が分からず聞き返したが、彼女がそれに答えてくれることは無かった。
「いえ、今のは忘れてください。とにかく、警戒を怠らないようになさった方がよろしいかと」
「……分かりました」
それだけ言うと、シャルロッテは近くにいた従者に何かを伝えて足早にこの場を立ち去った。
(何だろう……?変なシャルロッテ……)
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