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56 幸せ エルフレッド視点
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「陛下、リーシャ様との離婚が成立しました」
「そうか……」
その知らせを聞いたとき、侍従の前だということも忘れてため息をついた。
胸がズキリと痛む。
「あぁ……本当は離婚したくなかったな……」
「陛下……」
侍従が慰めるように私の肩に手を置いた。
全て自分のせいだというのにこのような姿になってしまうとは、何と情けない男だろう。
「リーシャ様は誰から見ても素敵な方でしたからね」
「お前もそう思うか」
「はい、この国で暮らす者全員がそう感じていたかと」
「そうだな……」
その通りだ。
リーシャは私にはもったいないくらい素晴らしい女性だった。
彼女のおかげで今の私があると言っても過言ではない。
それほどまでに、私はリーシャに助けられてきた。
(だからこそ、彼女の幸せを願うべきなんだろうな……)
――何より自分は、リーシャに償いきれないほどの大きな罪を犯している。
ギルバートからあの話を聞いたときのことが今でも忘れられなかった。
「エルフレッド、話がある」
「何だ?」
一昨日、私の執務室を訪ねたギルバートが神妙な面持ちでそう口にした。
この男のことは昔からよく知っているが、こんな顔をしているところは初めて見た。
「今から話すことはお前にとって信じられないだろうが……私は一切嘘をつかない」
「……何を言っている?」
「聞いてほしい。――私の前世の話を」
「前世だと……?」
ギルバートから聞いた話は衝撃的なものだった。
「な、何を言って……」
「全て事実だ」
話によると、ギルバートは今三度目の人生を生きているらしい。
そして回帰しているのはリーシャも同じなのだという。
(信じられないが……ギルバートがこのようなくだらない嘘をつくとは思えない……)
そして、次に聞いた話はもっと衝撃的だった。
「な、何だって……!?私がそんなことをしていたと……!?」
「そうだ、お前は彼女にとって最低最悪な夫だった」
一度目の人生で私はクロエを寵愛し、リーシャを蔑ろにした挙句冤罪で牢に入れたということ。
そして二度目では暗殺者に狙われるリーシャを見殺しにしたということ。
「そ、そんな……冗談だろう……?」
信じられない、いや、信じたくなかった。
自分が彼女にそのような極悪非道なことをしていたという事実に耐えられなかった。
「前にリーシャが倒れたことがあっただろう?あの日から彼女の態度が一変したと感じなかったか?」
「た、たしかに……」
そういえば、熱を出してからリーシャは私とクロエに冷たくなった。
――もしあの日、彼女が前世の記憶を取り戻していたとしたら。
全ての辻褄が合う。
(認めたくはないが……)
クロエに溺れていたかつての自分ならやりかねない。
それが自身の出した結論だった。
「……私にはもう、彼女の隣にいる資格は無いのだな」
「ああ、私もそう思う」
ギルバートは無表情で頷いた。
リーシャのことになるとこの男は普段と違う姿を見せる。
「離婚か……リーシャがそれを望むなら……」
「エルフレッド」
「しかし、今リーシャを市井に放り出すのは危険だ……」
リーシャを手放すことはさておき、今彼女を王宮から出すのは危険だった。
前公爵と夫人が市井にいるうえ、スイート公爵家に恨みを持つ人間だって多くいる。
そんな中でリーシャを平民にしたらどうなるか分からない。
頭を抱えていると、ギルバートが口を開いた。
「――そのことで、私から一つ提案がある」
「……?」
「今頃……リーシャはギルバートの元へ行っている頃だろう」
悔しさが無いわけではない。
しかし、アイツなら何故だかそこまで憎くはなかった。
(……てっきり誰のことも愛せない男だと思っていたが、勘違いだったようだな)
ギルバートのことは昔からよく知っている。
私とは比べ物にならないくらい優秀で、助けられたことも多かった。
だからこそ、アイツにも幸せになってほしかった。
「閣下になら安心してリーシャ様を任せられますね」
「そうだな……悔しいが、アレは私よりもずっと良い男だから」
(ギルバート……絶対にリーシャを幸せにしてくれよ……)
私が心配する必要なんて無い。
アイツなら絶対にやり遂げるだろう。
だからこそ、あのときギルバートの要求を呑んだ。
「陛下、執務がまだ残っていますよ」
「ああ……やるか……」
しばらく放心状態になっていた私だったが、侍従のその声でようやく背筋を伸ばして机の上にある書類と向き合った。
「そうか……」
その知らせを聞いたとき、侍従の前だということも忘れてため息をついた。
胸がズキリと痛む。
「あぁ……本当は離婚したくなかったな……」
「陛下……」
侍従が慰めるように私の肩に手を置いた。
全て自分のせいだというのにこのような姿になってしまうとは、何と情けない男だろう。
「リーシャ様は誰から見ても素敵な方でしたからね」
「お前もそう思うか」
「はい、この国で暮らす者全員がそう感じていたかと」
「そうだな……」
その通りだ。
リーシャは私にはもったいないくらい素晴らしい女性だった。
彼女のおかげで今の私があると言っても過言ではない。
それほどまでに、私はリーシャに助けられてきた。
(だからこそ、彼女の幸せを願うべきなんだろうな……)
――何より自分は、リーシャに償いきれないほどの大きな罪を犯している。
ギルバートからあの話を聞いたときのことが今でも忘れられなかった。
「エルフレッド、話がある」
「何だ?」
一昨日、私の執務室を訪ねたギルバートが神妙な面持ちでそう口にした。
この男のことは昔からよく知っているが、こんな顔をしているところは初めて見た。
「今から話すことはお前にとって信じられないだろうが……私は一切嘘をつかない」
「……何を言っている?」
「聞いてほしい。――私の前世の話を」
「前世だと……?」
ギルバートから聞いた話は衝撃的なものだった。
「な、何を言って……」
「全て事実だ」
話によると、ギルバートは今三度目の人生を生きているらしい。
そして回帰しているのはリーシャも同じなのだという。
(信じられないが……ギルバートがこのようなくだらない嘘をつくとは思えない……)
そして、次に聞いた話はもっと衝撃的だった。
「な、何だって……!?私がそんなことをしていたと……!?」
「そうだ、お前は彼女にとって最低最悪な夫だった」
一度目の人生で私はクロエを寵愛し、リーシャを蔑ろにした挙句冤罪で牢に入れたということ。
そして二度目では暗殺者に狙われるリーシャを見殺しにしたということ。
「そ、そんな……冗談だろう……?」
信じられない、いや、信じたくなかった。
自分が彼女にそのような極悪非道なことをしていたという事実に耐えられなかった。
「前にリーシャが倒れたことがあっただろう?あの日から彼女の態度が一変したと感じなかったか?」
「た、たしかに……」
そういえば、熱を出してからリーシャは私とクロエに冷たくなった。
――もしあの日、彼女が前世の記憶を取り戻していたとしたら。
全ての辻褄が合う。
(認めたくはないが……)
クロエに溺れていたかつての自分ならやりかねない。
それが自身の出した結論だった。
「……私にはもう、彼女の隣にいる資格は無いのだな」
「ああ、私もそう思う」
ギルバートは無表情で頷いた。
リーシャのことになるとこの男は普段と違う姿を見せる。
「離婚か……リーシャがそれを望むなら……」
「エルフレッド」
「しかし、今リーシャを市井に放り出すのは危険だ……」
リーシャを手放すことはさておき、今彼女を王宮から出すのは危険だった。
前公爵と夫人が市井にいるうえ、スイート公爵家に恨みを持つ人間だって多くいる。
そんな中でリーシャを平民にしたらどうなるか分からない。
頭を抱えていると、ギルバートが口を開いた。
「――そのことで、私から一つ提案がある」
「……?」
「今頃……リーシャはギルバートの元へ行っている頃だろう」
悔しさが無いわけではない。
しかし、アイツなら何故だかそこまで憎くはなかった。
(……てっきり誰のことも愛せない男だと思っていたが、勘違いだったようだな)
ギルバートのことは昔からよく知っている。
私とは比べ物にならないくらい優秀で、助けられたことも多かった。
だからこそ、アイツにも幸せになってほしかった。
「閣下になら安心してリーシャ様を任せられますね」
「そうだな……悔しいが、アレは私よりもずっと良い男だから」
(ギルバート……絶対にリーシャを幸せにしてくれよ……)
私が心配する必要なんて無い。
アイツなら絶対にやり遂げるだろう。
だからこそ、あのときギルバートの要求を呑んだ。
「陛下、執務がまだ残っていますよ」
「ああ……やるか……」
しばらく放心状態になっていた私だったが、侍従のその声でようやく背筋を伸ばして机の上にある書類と向き合った。
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