今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの

文字の大きさ
上 下
56 / 59

56 幸せ エルフレッド視点

しおりを挟む
「陛下、リーシャ様との離婚が成立しました」
「そうか……」


その知らせを聞いたとき、侍従の前だということも忘れてため息をついた。
胸がズキリと痛む。


「あぁ……本当は離婚したくなかったな……」
「陛下……」


侍従が慰めるように私の肩に手を置いた。
全て自分のせいだというのにこのような姿になってしまうとは、何と情けない男だろう。


「リーシャ様は誰から見ても素敵な方でしたからね」
「お前もそう思うか」
「はい、この国で暮らす者全員がそう感じていたかと」
「そうだな……」


その通りだ。
リーシャは私にはもったいないくらい素晴らしい女性だった。
彼女のおかげで今の私があると言っても過言ではない。
それほどまでに、私はリーシャに助けられてきた。


(だからこそ、彼女の幸せを願うべきなんだろうな……)


――何より自分は、リーシャに償いきれないほどの大きな罪を犯している。
ギルバートからあの話を聞いたときのことが今でも忘れられなかった。






「エルフレッド、話がある」
「何だ?」


一昨日、私の執務室を訪ねたギルバートが神妙な面持ちでそう口にした。
この男のことは昔からよく知っているが、こんな顔をしているところは初めて見た。


「今から話すことはお前にとって信じられないだろうが……私は一切嘘をつかない」
「……何を言っている?」
「聞いてほしい。――私の前世の話を」
「前世だと……?」


ギルバートから聞いた話は衝撃的なものだった。


「な、何を言って……」
「全て事実だ」


話によると、ギルバートは今三度目の人生を生きているらしい。
そして回帰しているのはリーシャも同じなのだという。


(信じられないが……ギルバートがこのようなくだらない嘘をつくとは思えない……)


そして、次に聞いた話はもっと衝撃的だった。


「な、何だって……!?私がそんなことをしていたと……!?」
「そうだ、お前は彼女にとって最低最悪な夫だった」


一度目の人生で私はクロエを寵愛し、リーシャを蔑ろにした挙句冤罪で牢に入れたということ。
そして二度目では暗殺者に狙われるリーシャを見殺しにしたということ。


「そ、そんな……冗談だろう……?」


信じられない、いや、信じたくなかった。
自分が彼女にそのような極悪非道なことをしていたという事実に耐えられなかった。


「前にリーシャが倒れたことがあっただろう?あの日から彼女の態度が一変したと感じなかったか?」
「た、たしかに……」


そういえば、熱を出してからリーシャは私とクロエに冷たくなった。
――もしあの日、彼女が前世の記憶を取り戻していたとしたら。
全ての辻褄が合う。


(認めたくはないが……)


クロエに溺れていたかつての自分ならやりかねない。
それが自身の出した結論だった。


「……私にはもう、彼女の隣にいる資格は無いのだな」
「ああ、私もそう思う」


ギルバートは無表情で頷いた。
リーシャのことになるとこの男は普段と違う姿を見せる。


「離婚か……リーシャがそれを望むなら……」
「エルフレッド」
「しかし、今リーシャを市井に放り出すのは危険だ……」


リーシャを手放すことはさておき、今彼女を王宮から出すのは危険だった。
前公爵と夫人が市井にいるうえ、スイート公爵家に恨みを持つ人間だって多くいる。
そんな中でリーシャを平民にしたらどうなるか分からない。


頭を抱えていると、ギルバートが口を開いた。


「――そのことで、私から一つ提案がある」
「……?」








「今頃……リーシャはギルバートの元へ行っている頃だろう」


悔しさが無いわけではない。
しかし、アイツなら何故だかそこまで憎くはなかった。


(……てっきり誰のことも愛せない男だと思っていたが、勘違いだったようだな)


ギルバートのことは昔からよく知っている。
私とは比べ物にならないくらい優秀で、助けられたことも多かった。
だからこそ、アイツにも幸せになってほしかった。


「閣下になら安心してリーシャ様を任せられますね」
「そうだな……悔しいが、アレは私よりもずっと良い男だから」


(ギルバート……絶対にリーシャを幸せにしてくれよ……)


私が心配する必要なんて無い。
アイツなら絶対にやり遂げるだろう。
だからこそ、あのときギルバートの要求を呑んだ。


「陛下、執務がまだ残っていますよ」
「ああ……やるか……」


しばらく放心状態になっていた私だったが、侍従のその声でようやく背筋を伸ばして机の上にある書類と向き合った。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

二度目の恋

豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。 王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。 満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。 ※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。

【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました

紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。 ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。 ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。 貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。

幼馴染を溺愛する旦那様の前から、消えてあげることにします

新野乃花(大舟)
恋愛
「旦那様、幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

10年もあなたに尽くしたのに婚約破棄ですか?

水空 葵
恋愛
 伯爵令嬢のソフィア・キーグレスは6歳の時から10年間、婚約者のケヴィン・パールレスに尽くしてきた。  けれど、その努力を裏切るかのように、彼の隣には公爵令嬢が寄り添うようになっていて、婚約破棄を提案されてしまう。  悪夢はそれで終わらなかった。  ケヴィンの隣にいた公爵令嬢から数々の嫌がらせをされるようになってしまう。  嵌められてしまった。  その事実に気付いたソフィアは身の安全のため、そして復讐のために行動を始めて……。  裏切られてしまった令嬢が幸せを掴むまでのお話。 ※他サイト様でも公開中です。 2023/03/09 HOT2位になりました。ありがとうございます。 本編完結済み。番外編を不定期で更新中です。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。

ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。 事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

処理中です...