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55 新たな門出
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「王妃様、大丈夫ですか?」
「ええ、平気よ」
エルフレッドが部屋を出て行った後。
私を心配しているのか、リリアーナが声をかけた。
今から宮殿を出る準備をしなければならない。
すぐに荷物をまとめ、何の未練も無くここを出て行くつもりだ。
部屋を見渡すと、たくさんの思い出が蘇ってくる。
(長い結婚生活だったわね……)
四年と聞けばそこまで長くないようにも感じるが、前世を含めると十年近くの年月を王宮で過ごした。
過去の自分に対して思うところはたくさんあった。
(私は上手く王妃としてやれていたかしら……)
後継者も産めず、側妃に寵愛を奪われてしまった時点で良い王妃とは言えなかったかもしれない。
だけど、民のために、貴族のために出来る限りのことはしてきたつもりだ。
ドレッサーの引き出しを開けると、かつてエルフレッドから贈られた宝石や装飾品が目に入った。
辛かったけれど、悪い記憶ばかりでは無かった。
かつては愛し、人生で唯一の光となってくれた人だったから。
持って行って売りに出せば市井で暮らしていくうえで十分な資金になるだろう。
だけどこれは置いて行かなければならない。
そうすることで完全に彼を忘れられるような気がするから。
(この先、エルフレッドが聡明で穏やかな女性と結ばれてくれたらいいな……)
そんな女性が王妃なら、この国も安泰だろう。
もう二度と同じ過ちは犯さないと、エルフレッドを信じている。
今の彼ならば十分信用に値するからだ。
(私はこれから新しい人生を生きていくのよ)
今度こそは絶対に幸せになってみせる。
***
荷物を持って部屋の外へ出た私を、王宮の侍従長が出迎えた。
「王妃陛下、馬車までご案内します」
「ありがとう」
どうやら馬車までは彼が案内してくれるようだ。
(住む場所は陛下が用意してくれたみたいだし……当分は生活に困らなさそうだけれど)
エルフレッドはせめてもの償いとして私に家と生活資金を準備してくれた。
これから向かう新たな地で仕事を見つけて平民として穏やかな日々を過ごすつもりだ。
「ありがとう、元気でね」
「陛下……!」
そう言葉をかけると、侍従長が泣きそうな顔になった。
彼もまた、前世を含めて私に優しくしてくれた数少ない人物の一人だった。
「陛下!どうかお元気で!」
「陛下!」
馬車に乗り込んだ私は、涙を流しながら叫ぶ侍女たちに手を振った。
彼女たちともこれで最後になってしまうのだと思うと何だか悲しいが、涙を見せるわけにはいかない。
「これも私が選んだ道なんだから……」
貴族令嬢ではいられなくなった私にはこうするしか方法は無い。
本当はギルバートのことも一目見たかったが、彼はとても忙しいようでその願いは叶わなかった。
それでも最後に手紙を出しておいたから、きっとこれまでの感謝の気持ちは届くだろう。
溢れそうになる涙をこらえていると、馬車が止まり、外から声がした。
「リーシャ様、到着しました」
「……今行くわ」
御者の手を取って馬車から降りると、見たことの無い豪邸が目の前に広がった。
何だか想像していたのとは随分と違う家だ。
(ここが私の暮らす家……?平民が住む場所とは思えないのだけれど……)
というか、どこかの貴族の家みたいだ。
不思議に思った私は、すぐ横を歩いていた御者に尋ねた。
「……ねぇ、ここはどこ?」
「――ヘンリー公爵邸です」
「………………………………………え?」
「ええ、平気よ」
エルフレッドが部屋を出て行った後。
私を心配しているのか、リリアーナが声をかけた。
今から宮殿を出る準備をしなければならない。
すぐに荷物をまとめ、何の未練も無くここを出て行くつもりだ。
部屋を見渡すと、たくさんの思い出が蘇ってくる。
(長い結婚生活だったわね……)
四年と聞けばそこまで長くないようにも感じるが、前世を含めると十年近くの年月を王宮で過ごした。
過去の自分に対して思うところはたくさんあった。
(私は上手く王妃としてやれていたかしら……)
後継者も産めず、側妃に寵愛を奪われてしまった時点で良い王妃とは言えなかったかもしれない。
だけど、民のために、貴族のために出来る限りのことはしてきたつもりだ。
ドレッサーの引き出しを開けると、かつてエルフレッドから贈られた宝石や装飾品が目に入った。
辛かったけれど、悪い記憶ばかりでは無かった。
かつては愛し、人生で唯一の光となってくれた人だったから。
持って行って売りに出せば市井で暮らしていくうえで十分な資金になるだろう。
だけどこれは置いて行かなければならない。
そうすることで完全に彼を忘れられるような気がするから。
(この先、エルフレッドが聡明で穏やかな女性と結ばれてくれたらいいな……)
そんな女性が王妃なら、この国も安泰だろう。
もう二度と同じ過ちは犯さないと、エルフレッドを信じている。
今の彼ならば十分信用に値するからだ。
(私はこれから新しい人生を生きていくのよ)
今度こそは絶対に幸せになってみせる。
***
荷物を持って部屋の外へ出た私を、王宮の侍従長が出迎えた。
「王妃陛下、馬車までご案内します」
「ありがとう」
どうやら馬車までは彼が案内してくれるようだ。
(住む場所は陛下が用意してくれたみたいだし……当分は生活に困らなさそうだけれど)
エルフレッドはせめてもの償いとして私に家と生活資金を準備してくれた。
これから向かう新たな地で仕事を見つけて平民として穏やかな日々を過ごすつもりだ。
「ありがとう、元気でね」
「陛下……!」
そう言葉をかけると、侍従長が泣きそうな顔になった。
彼もまた、前世を含めて私に優しくしてくれた数少ない人物の一人だった。
「陛下!どうかお元気で!」
「陛下!」
馬車に乗り込んだ私は、涙を流しながら叫ぶ侍女たちに手を振った。
彼女たちともこれで最後になってしまうのだと思うと何だか悲しいが、涙を見せるわけにはいかない。
「これも私が選んだ道なんだから……」
貴族令嬢ではいられなくなった私にはこうするしか方法は無い。
本当はギルバートのことも一目見たかったが、彼はとても忙しいようでその願いは叶わなかった。
それでも最後に手紙を出しておいたから、きっとこれまでの感謝の気持ちは届くだろう。
溢れそうになる涙をこらえていると、馬車が止まり、外から声がした。
「リーシャ様、到着しました」
「……今行くわ」
御者の手を取って馬車から降りると、見たことの無い豪邸が目の前に広がった。
何だか想像していたのとは随分と違う家だ。
(ここが私の暮らす家……?平民が住む場所とは思えないのだけれど……)
というか、どこかの貴族の家みたいだ。
不思議に思った私は、すぐ横を歩いていた御者に尋ねた。
「……ねぇ、ここはどこ?」
「――ヘンリー公爵邸です」
「………………………………………え?」
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