今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの

文字の大きさ
上 下
50 / 59

50 愚か者

しおりを挟む
「陛下、スイート公爵家は取り潰しとなるそうです」
「そう……」


アイラはクロエの罪に加担し、私を貶めようとした。
本来ならば処刑だったところを自供したということもあり、何とか命だけは助けてもらえることになったようだ。
それでも生涯幽閉となり、二度と外へは出られなくなったようだが。


アイラと私の生家である公爵家は取り潰しとなり、父と義母は平民になる。
あの二人に平民としての暮らしが出来るとは思えない。
公爵夫人になってからというもの、義母は贅沢三昧な暮らしを送っていたようだったから。
父と結婚したのも金と地位に釣られたのだろう。


父は当然、愛し合って結婚したのだと信じて疑わないが。


(そういえば、少し前にお父様と義母が訪ねてきたっけ……)





***




時は数時間前に遡る。


『ああ、リーシャ!良かった、無事だったんだな!』
『生きていたのね!とっても嬉しいわ!』
『……何ですか?』


先触れも無く、突然父と義母が私の元を訪れた。
それに加えて王妃の体をベタベタ触るだなんて不敬極まりない行為だ。


すぐに引き剥がして用件を尋ねると、二人はとんでもないことを言い始めた。


『あの馬鹿娘、何てことをしてくれたんだ!』
『本当よ、血の繋がった姉を貶めようとするなんて!育て方を間違えたわ!』
『……』


吐き気がする。


(今さら何を言っているのかしら……)


アイラがああなったのはこの人たちのせいだ。
二人が溺愛し、ろくな教育もせずに甘やかしたせいであんな風になった。
それなのに罪を犯した途端に見捨てるとは、それでも親なのか。


(どうやらまだ自分の立場を分かっていないようね)


本当の悪はアイラでは無く、この二人だろう。


『スイート公爵家は無くなるでしょう』
『…………え?』


アイラを非難していた二人の顔が同時に固まった。


『貴方たちはもう貴族ではなくなります』
『そんな……』


絶望したような表情で膝を着いた義母が私のドレスの裾を掴んで叫ぶ。


『あ、貴方!貴方から陛下に言ってちょうだい!貴方だって公爵家が取り潰しになったら困るでしょう!?』
『……どうでしょう。あの家に思い入れなんてありませんから』
『ちょ、ちょっと!』


冷めたような私の答えに、義母が目から大粒の涙を流した。
貴族ではなくなった自分の未来の姿が容易に想像出来るのだろう。
少し前までは散々威張り散らしていたくせして、立場が悪くなると掌を返すだなんて。
どこまでも醜い人たちだ。


『貴族でいられないだなんて……そんな……私もう生活水準下げれないわよ……どうやって生きろというの……』
『何故ですか?元々平民として暮らしていたのでしょう?お父様もいますし、平民になったとしても愛し合う二人で仲良く暮らせばいいのでは?』
『――ふざけないで!!!』


義母が声を荒らげた。


『地位も金も無いアイツに興味なんて無いのよ!!!私はただ贅沢な暮らしが出来ればそれで良かったの!!!』
『な……何だと……?』
『あら……』


ついつい本音が出てしまったようだ。
当の本人がすぐそこにいるというのに、何ということだろう。


『お前……そんなことを思っていたのか……』
『あ……貴方……ち、違うのよ……これは……』


今になって否定しても遅かった。
父は怒りを爆発させ、義母に詰め寄っている。


(とうとう本性が露わになったわね)


当然、騙されていた父も馬鹿だけれど。


『もういい、勝手に一人で野垂れ死んでろ!私は知らないからな!』
『待って!捨てないで!貴方にも捨てられたら私、どうやって暮らせばいいの!一度も働いたことなんて無いのに……!』


父は必死で手を伸ばす義母を置いて部屋を出て行った。
かつて深く愛し合っていた二人は見る影も無かった。


(アイラがこんな醜い姿の二人を見なくて良かったかも……)


アイラは昔から仲の良い両親に憧れを抱いていたから。
それも今完全に崩れ落ちてしまったが。


一人取り残された義母はイヤーッと絶望に満ちた叫び声を上げた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

婚約解消したら後悔しました

せいめ
恋愛
 別に好きな人ができた私は、幼い頃からの婚約者と婚約解消した。  婚約解消したことで、ずっと後悔し続ける令息の話。  ご都合主義です。ゆるい設定です。  誤字脱字お許しください。  

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

「奇遇ですね。私の婚約者と同じ名前だ」

ねむたん
恋愛
侯爵家の令嬢リリエット・クラウゼヴィッツは、伯爵家の嫡男クラウディオ・ヴェステンベルクと婚約する。しかし、クラウディオは婚約に反発し、彼女に冷淡な態度を取り続ける。 学園に入学しても、彼は周囲とはそつなく交流しながら、リリエットにだけは冷たいままだった。そんな折、クラウディオの妹セシルの誘いで茶会に参加し、そこで新たな交流を楽しむ。そして、ある子爵子息が立ち上げた商会の服をまとい、いつもとは違う姿で社交界に出席することになる。 その夜会でクラウディオは彼女を別人と勘違いし、初めて優しく接する。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

処理中です...