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47 私がヒロイン 側妃クロエ視点
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「どうして……どうしてなの……」
薄暗く汚れた地下牢に私は一人収監されていた。
本来ならここは私ではなく、悪役王妃であるリーシャがいるべき場所だった。
それなのに、何故私が。
(私は皆から愛されるヒロインなのよ……前の世界でそういう風に作ったんだから……そうであるべきなのよ……)
私には前世の記憶がある。
あまり詳しくは覚えていないが、こことは全く違う世界で暮らしていた記憶。
前世での私は無責任な両親に捨てられ、幼少の頃から施設で育った。
家族と呼べる者は無く、かといって恋人がいたわけでもない。
誰からも愛されない孤独な日々だった。
そんな私の唯一の趣味が恋愛小説を書くことだった。
壮絶な過去を持つヒロインがハイスペックな王子様と恋をする、そんな話。
この物語のヒロインであるクロエのモデルはまさに前世の私だった。
だからこそ、クロエに転生したことに気が付いたときは舞い上がるほど嬉しかった。
(私、愛されるヒロインになったのね……!)
前世で不幸な人生を歩んだお詫びに神様が与えてくれた第二の生。
ここは私のためだけに作られた世界だ。
私が幸せになるために作られた、そんな世界。
そこから私はただただ原作の通りに行動した。
作者は私、話の内容はもちろん細かく覚えている。
その通りに動けば絶対に幸せになれるだなんて、何て素晴らしい世界なんだろう。
引き取り先である子爵家での生活は幸せとは言えなかったが、これもすぐ終わる。
子爵令嬢になった私はすぐにヒーローであるエルフレッドと出会うのだから。
「どうかしたか?」
「あ……私、道に迷ってしまって……」
「そうか……なら、私が馬車まで送っていこう」
初めて見るエルフレッドは本当に綺麗な人で、私が長年憧れ続けた王子様そのものだった。
こんな人に愛されるだなんて、本当に幸せ。
「令嬢、どうかしましたか?」
「ギ、ギルバート……!」
その少し後に出会ったギルバートもこの世のものとは思えないほどに美しい人だった。
原作だと彼は私に叶わぬ恋をし、最後に悪役王妃を地獄に堕とす。
こんな良い男二人に取り合われるだなんて、ヒロインの魅力は本当にすごい。
(あぁ、早く貴方たちに愛されたいわ……)
何もせずとも全てが順調に行くと信じて疑わなかった。
だって私はこの世界のヒロインだから。
(ギルバートも良いけれど、やっぱり結婚するならエルフレッドよね……)
どちらもハイスペに変わりは無いが、彼の方が地位は高いわけだし。
あぁ、でもやっぱりギルバートも捨てがたい。
いっそエルフレッドと結婚してギルバートを愛人にしてしまおうか。
(決めたわ、王妃になったらギルバートを愛人にする。彼も喜んで受け入れるはずよ)
王妃が他の男と関係を持つだなんて本来ならいけないことだけれど、ヒロインだから大丈夫。
絶対に幸せになれる、全てが上手くいくと、そう思っていたのに。
――いつから思い通りにいかなくなったのだろう。
「初めまして、王妃陛下。クロエと申します」
「リーシャよ」
エルフレッドの正妻である王妃と会ったのは、彼の側妃になってすぐのことだった。
(この女が悪役王妃ね……綺麗な顔をしているけれどアンタは悪役……愛されることは一生無いのよ)
王妃リーシャは夫であるエルフレッドを幼い頃から慕っていた。
作中では夫の寵愛を独り占めしたクロエが憎くて嫌がらせを繰り返す。
最後はエルフレッドの子を妊娠したクロエを毒殺しようとして地下牢に幽閉。
クロエの身を案じたギルバートに秘密裏に処刑されてしまうキャラだ。
(アハハッ!何て可哀相なの!私と違って悪役に転生した運の悪い自分を恨むことね)
王妃としてのプライドゆえ今は平然としているが、すぐに醜い姿を見ることが出来るだろう。
高位貴族の令嬢として何不自由なく育った女の狂う様を間近で見れるだなんて。
(悪役は悪役らしくさっさと罪を犯して退場してよね)
薄暗く汚れた地下牢に私は一人収監されていた。
本来ならここは私ではなく、悪役王妃であるリーシャがいるべき場所だった。
それなのに、何故私が。
(私は皆から愛されるヒロインなのよ……前の世界でそういう風に作ったんだから……そうであるべきなのよ……)
私には前世の記憶がある。
あまり詳しくは覚えていないが、こことは全く違う世界で暮らしていた記憶。
前世での私は無責任な両親に捨てられ、幼少の頃から施設で育った。
家族と呼べる者は無く、かといって恋人がいたわけでもない。
誰からも愛されない孤独な日々だった。
そんな私の唯一の趣味が恋愛小説を書くことだった。
壮絶な過去を持つヒロインがハイスペックな王子様と恋をする、そんな話。
この物語のヒロインであるクロエのモデルはまさに前世の私だった。
だからこそ、クロエに転生したことに気が付いたときは舞い上がるほど嬉しかった。
(私、愛されるヒロインになったのね……!)
前世で不幸な人生を歩んだお詫びに神様が与えてくれた第二の生。
ここは私のためだけに作られた世界だ。
私が幸せになるために作られた、そんな世界。
そこから私はただただ原作の通りに行動した。
作者は私、話の内容はもちろん細かく覚えている。
その通りに動けば絶対に幸せになれるだなんて、何て素晴らしい世界なんだろう。
引き取り先である子爵家での生活は幸せとは言えなかったが、これもすぐ終わる。
子爵令嬢になった私はすぐにヒーローであるエルフレッドと出会うのだから。
「どうかしたか?」
「あ……私、道に迷ってしまって……」
「そうか……なら、私が馬車まで送っていこう」
初めて見るエルフレッドは本当に綺麗な人で、私が長年憧れ続けた王子様そのものだった。
こんな人に愛されるだなんて、本当に幸せ。
「令嬢、どうかしましたか?」
「ギ、ギルバート……!」
その少し後に出会ったギルバートもこの世のものとは思えないほどに美しい人だった。
原作だと彼は私に叶わぬ恋をし、最後に悪役王妃を地獄に堕とす。
こんな良い男二人に取り合われるだなんて、ヒロインの魅力は本当にすごい。
(あぁ、早く貴方たちに愛されたいわ……)
何もせずとも全てが順調に行くと信じて疑わなかった。
だって私はこの世界のヒロインだから。
(ギルバートも良いけれど、やっぱり結婚するならエルフレッドよね……)
どちらもハイスペに変わりは無いが、彼の方が地位は高いわけだし。
あぁ、でもやっぱりギルバートも捨てがたい。
いっそエルフレッドと結婚してギルバートを愛人にしてしまおうか。
(決めたわ、王妃になったらギルバートを愛人にする。彼も喜んで受け入れるはずよ)
王妃が他の男と関係を持つだなんて本来ならいけないことだけれど、ヒロインだから大丈夫。
絶対に幸せになれる、全てが上手くいくと、そう思っていたのに。
――いつから思い通りにいかなくなったのだろう。
「初めまして、王妃陛下。クロエと申します」
「リーシャよ」
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高位貴族の令嬢として何不自由なく育った女の狂う様を間近で見れるだなんて。
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