36 / 59
36 夫の暴走
しおりを挟む
ギルバートと会ってから数日が経過した。
あの日から穏やかな日々を過ごしていた私だったが、王宮の廊下でとある人物と遭遇してしまうこととなる。
「陛下……」
「……」
たまたま前から歩いて来たのはあの日以来ずっと会っていないエルフレッドだった。
一週間ぶりに見る彼は、前よりも少しやつれたような気がする。
信じたくなかったが、食事も喉を通らないというギルバートの話は本当だったようだ。
「リーシャ、久しぶりだな……」
「陛下、お久しぶりです」
そう言ってドレスを持ち上げ、一礼した。
「――それでは、私はこれで失礼いたします」
当然これ以上関わりたいとは思わず、それだけ言って立ち去ろうとした。
そんな私をエルフレッドが慌てて引き留めた。
「ま、待ってくれリーシャ!」
「……何か用でも?」
突然腕を強く掴まれて不快感を隠せない。
「リーシャ、悪かった……!」
「陛下、何を……」
彼は突然の行動に困惑している私の手を両手で強く握った。
「全て私が間違っていた……君を深く傷付けたこと……本当にすまなかった……」
「陛下……」
エルフレッドは床に膝を着いて縋るような目で私を見つめた。
今さらそんなことを言うだなんて。
まさか、再構築でも望んでいるというのだろうか。
(人目がある場所でやめてほしいわ……前よりも愚かになってしまったようね……)
彼の行動は全て無駄なことだ。
どれだけエルフレッドが後悔しようとも、私が彼を受け入れることは絶対に無い。
私の何年もの苦しみをたったその程度の謝罪で済ませようとしている彼を受け入れられるはずが無い。
彼は私が二度の人生を歩んでいることなんて知らないから仕方の無いことではあるが。
「陛下、立ってください。使用人たちの目があります」
「リーシャ、本当に悪かった……」
未だに私の手を握って離さない彼を何とか引き剥がした私は、正面から目を合わせてキッパリと告げた。
「謝罪は受け入れましょう。ですが、私のことは放っておいてください」
「リーシャ、私は君とやり直したいんだ……頼む……!」
「今さら何を言っているのですか」
エルフレッドは胸に手を当てて切実に叫んだ。
「君が離れて行ってようやく、どれだけ大切な存在だったかに気が付いた。どうかもう一度、私の元へ戻ってきてはくれないか」
「冗談はやめてください……それなら、側妃様はどうなるのですか。以前の私のように愛されない妃として王宮で惨めな暮らしをさせるとでも?陛下が強く望んで王宮へ上げたのに?」
「そ、それは……」
その言葉を聞いた彼はすぐに黙り込んだ。
(何て情けない人なの……呆れるわ……)
どうしてこんな人を好きになっていたんだろう。
そう思いながら冷めた目で彼を見つめていると、しばらく俯いていた彼が低い声で呟いた。
「……のせいか」
「何ですか?」
「ギルバートのせいで、君はそんなことを言うようになったのか?」
「…………………はい?」
何故今ヘンリー公爵が、と言う前に彼は顔を上げて鋭い眼光を私に向けた。
「ギルバートが何度も君の元へ訪れていることを私が知らないとでも思っていたのか?」
「……!」
一瞬思考が停止し、声を出すことが出来なかった。
そんな私を見て、彼は確信したように笑った。
「ハハッ……二人を信じていた私が馬鹿だったようだな……」
「陛下、違うんです。彼は……」
「――聞きたくない」
彼は私の言葉を遮ると、背後に控えていた騎士に向かって叫んだ。
「騎士!!!」
「はい、陛下」
「王妃を自室に閉じ込めろ、当分の間は謹慎させておく」
「そ、そんな……!」
(どうしてそんなことを……!)
エルフレッドの命で、私は騎士に腕を掴まれ自室へと連れて行かれる。
必死でもがいたが、屈強な騎士の力に敵うはずがない。
「陛下!お願い、話を聞いて!――エルフレッド!!!」
何度も叫ぶが、彼の背中は遠くなっていくばかり。
――結局私のその声が、彼に届くことは無かった。
あの日から穏やかな日々を過ごしていた私だったが、王宮の廊下でとある人物と遭遇してしまうこととなる。
「陛下……」
「……」
たまたま前から歩いて来たのはあの日以来ずっと会っていないエルフレッドだった。
一週間ぶりに見る彼は、前よりも少しやつれたような気がする。
信じたくなかったが、食事も喉を通らないというギルバートの話は本当だったようだ。
「リーシャ、久しぶりだな……」
「陛下、お久しぶりです」
そう言ってドレスを持ち上げ、一礼した。
「――それでは、私はこれで失礼いたします」
当然これ以上関わりたいとは思わず、それだけ言って立ち去ろうとした。
そんな私をエルフレッドが慌てて引き留めた。
「ま、待ってくれリーシャ!」
「……何か用でも?」
突然腕を強く掴まれて不快感を隠せない。
「リーシャ、悪かった……!」
「陛下、何を……」
彼は突然の行動に困惑している私の手を両手で強く握った。
「全て私が間違っていた……君を深く傷付けたこと……本当にすまなかった……」
「陛下……」
エルフレッドは床に膝を着いて縋るような目で私を見つめた。
今さらそんなことを言うだなんて。
まさか、再構築でも望んでいるというのだろうか。
(人目がある場所でやめてほしいわ……前よりも愚かになってしまったようね……)
彼の行動は全て無駄なことだ。
どれだけエルフレッドが後悔しようとも、私が彼を受け入れることは絶対に無い。
私の何年もの苦しみをたったその程度の謝罪で済ませようとしている彼を受け入れられるはずが無い。
彼は私が二度の人生を歩んでいることなんて知らないから仕方の無いことではあるが。
「陛下、立ってください。使用人たちの目があります」
「リーシャ、本当に悪かった……」
未だに私の手を握って離さない彼を何とか引き剥がした私は、正面から目を合わせてキッパリと告げた。
「謝罪は受け入れましょう。ですが、私のことは放っておいてください」
「リーシャ、私は君とやり直したいんだ……頼む……!」
「今さら何を言っているのですか」
エルフレッドは胸に手を当てて切実に叫んだ。
「君が離れて行ってようやく、どれだけ大切な存在だったかに気が付いた。どうかもう一度、私の元へ戻ってきてはくれないか」
「冗談はやめてください……それなら、側妃様はどうなるのですか。以前の私のように愛されない妃として王宮で惨めな暮らしをさせるとでも?陛下が強く望んで王宮へ上げたのに?」
「そ、それは……」
その言葉を聞いた彼はすぐに黙り込んだ。
(何て情けない人なの……呆れるわ……)
どうしてこんな人を好きになっていたんだろう。
そう思いながら冷めた目で彼を見つめていると、しばらく俯いていた彼が低い声で呟いた。
「……のせいか」
「何ですか?」
「ギルバートのせいで、君はそんなことを言うようになったのか?」
「…………………はい?」
何故今ヘンリー公爵が、と言う前に彼は顔を上げて鋭い眼光を私に向けた。
「ギルバートが何度も君の元へ訪れていることを私が知らないとでも思っていたのか?」
「……!」
一瞬思考が停止し、声を出すことが出来なかった。
そんな私を見て、彼は確信したように笑った。
「ハハッ……二人を信じていた私が馬鹿だったようだな……」
「陛下、違うんです。彼は……」
「――聞きたくない」
彼は私の言葉を遮ると、背後に控えていた騎士に向かって叫んだ。
「騎士!!!」
「はい、陛下」
「王妃を自室に閉じ込めろ、当分の間は謹慎させておく」
「そ、そんな……!」
(どうしてそんなことを……!)
エルフレッドの命で、私は騎士に腕を掴まれ自室へと連れて行かれる。
必死でもがいたが、屈強な騎士の力に敵うはずがない。
「陛下!お願い、話を聞いて!――エルフレッド!!!」
何度も叫ぶが、彼の背中は遠くなっていくばかり。
――結局私のその声が、彼に届くことは無かった。
3,120
お気に入りに追加
6,230
あなたにおすすめの小説
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
【完結】私が貴方の元を去ったわけ
なか
恋愛
「貴方を……愛しておりました」
国の英雄であるレイクス。
彼の妻––リディアは、そんな言葉を残して去っていく。
離婚届けと、別れを告げる書置きを残された中。
妻であった彼女が突然去っていった理由を……
レイクスは、大きな後悔と、恥ずべき自らの行為を知っていく事となる。
◇◇◇
プロローグ、エピローグを入れて全13話
完結まで執筆済みです。
久しぶりのショートショート。
懺悔をテーマに書いた作品です。
もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!
二度目の恋
豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。
王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。
満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。
※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。
【完結】この運命を受け入れましょうか
なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」
自らの夫であるルーク陛下の言葉。
それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。
「承知しました。受け入れましょう」
ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。
彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。
みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。
だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。
そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。
あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。
これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。
前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。
ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。
◇◇◇◇◇
設定は甘め。
不安のない、さっくり読める物語を目指してます。
良ければ読んでくだされば、嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる