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30 一度目の人生② ギルバート視点
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王妃リーシャが王の寵愛を一身に受ける側妃クロエに嫉妬し、嫌がらせを繰り返した挙句投獄された。
私はそれを知ってすぐエルフレッドに会いに行った。
「エルフレッド、王妃を牢に入れたと聞いたが……何のつもりだ?」
「リーシャは罪を犯した。クロエと私の子を毒殺しようとしたのだから、当然のことだ。いくら王妃だろうと今回ばかりは特別扱いすることは出来ない」
「……お前」
呆れてものも言えなかった。
ポッと出の女のために、幼少期から自分を傍で支えてくれた女性を捨てるのか。
(……彼女をそこまで壊したのはお前ではないか。そのことを分かっていないのか?)
このとき、側妃クロエは第二子を妊娠中だった。
側室に先に子が生まれたという事実だけでも、正妻にとっては屈辱的なことだというのに。
エルフレッドはリーシャのことを全く気遣っていないらしい。
お前は一体これまで何を学んできたんだ。
彼女の何を見てきたんだ。
「エルフレッド、お前……自分が何をしているか分かっているのか?」
「……何の話だ?」
エルフレッドは顔を上げて私を見た。
私の言っていることが本当に分からないらしい。
「側室との間に先に子を儲けるだなんて……正妻の立場が無くなるとは考えなかったのか?」
「……」
エルフレッドはその言葉にじっと黙り込んだ後、口を開いた。
「仕方ないじゃないか、――私はクロエを……彼女を愛するために生まれてきたんだから」
「……何だと?」
そう口にしたエルフレッドの瞳は焦点が合っておらず、不気味だった。
(……エルフレッドは、こんなヤツだったか?)
幼い頃からエルフレッドという一人の人間を見てきたが、最近の彼はどこか様子が変だった。
エルフレッドだけはリーシャを信じていると思っていたが、私の勘違いだったようで、私がどれだけ説得を試みようともとうとう彼が正気に戻ることは無かった。
(このままリーシャを放っておくのは気分が悪いな……)
そう思った私は、事件の調査に乗り出すことを決めた。
エルフレッドを心から愛し、いつだって彼の幸せを願っていた心優しい彼女が毒殺を試みるだなんてとても信じられなかったからだ。
隠された真実があるのなら、ハッキリさせるべきだろう。
(アイツだってそれくらいのこと分かっているはずだ……)
どうにかしてリーシャを助けたい。
そう思い、あらゆる手を使って彼女の無実を晴らそうとした。
が、しかし――
「………………何だと?」
リーシャが亡くなったのを聞いたのは、事件の調査を始めてすぐのことだった。
正式に判決が下る前に、王宮の地下牢で謎の死を遂げたらしい。
結局彼女の死は自殺と片付けられたが、私はそうは思わない。
リーシャが犯した罪に加え、何らかの陰謀が渦巻いているとしか思えなかった。
リーシャが亡くなってすぐ、エルフレッドは自身の子を二人産んだクロエに王妃の座を与えた。
悪役王妃が死に、愛し合う二人が結ばれた。
その事実に、国民たちは真実の愛だと沸き上がった。
とても気分が悪かった。
(何故……何故そんなに喜べるんだ……?)
たしかにリーシャは罪を犯したかもしれない。
しかし、元はと言えば全てエルフレッドが原因だ。
彼女が彼に何をしたというのか。
ただエルフレッドを愛しただけではないか。
「ああ……何てことだ……」
リーシャを助けられなかったことを酷く後悔した。
私はそれを知ってすぐエルフレッドに会いに行った。
「エルフレッド、王妃を牢に入れたと聞いたが……何のつもりだ?」
「リーシャは罪を犯した。クロエと私の子を毒殺しようとしたのだから、当然のことだ。いくら王妃だろうと今回ばかりは特別扱いすることは出来ない」
「……お前」
呆れてものも言えなかった。
ポッと出の女のために、幼少期から自分を傍で支えてくれた女性を捨てるのか。
(……彼女をそこまで壊したのはお前ではないか。そのことを分かっていないのか?)
このとき、側妃クロエは第二子を妊娠中だった。
側室に先に子が生まれたという事実だけでも、正妻にとっては屈辱的なことだというのに。
エルフレッドはリーシャのことを全く気遣っていないらしい。
お前は一体これまで何を学んできたんだ。
彼女の何を見てきたんだ。
「エルフレッド、お前……自分が何をしているか分かっているのか?」
「……何の話だ?」
エルフレッドは顔を上げて私を見た。
私の言っていることが本当に分からないらしい。
「側室との間に先に子を儲けるだなんて……正妻の立場が無くなるとは考えなかったのか?」
「……」
エルフレッドはその言葉にじっと黙り込んだ後、口を開いた。
「仕方ないじゃないか、――私はクロエを……彼女を愛するために生まれてきたんだから」
「……何だと?」
そう口にしたエルフレッドの瞳は焦点が合っておらず、不気味だった。
(……エルフレッドは、こんなヤツだったか?)
幼い頃からエルフレッドという一人の人間を見てきたが、最近の彼はどこか様子が変だった。
エルフレッドだけはリーシャを信じていると思っていたが、私の勘違いだったようで、私がどれだけ説得を試みようともとうとう彼が正気に戻ることは無かった。
(このままリーシャを放っておくのは気分が悪いな……)
そう思った私は、事件の調査に乗り出すことを決めた。
エルフレッドを心から愛し、いつだって彼の幸せを願っていた心優しい彼女が毒殺を試みるだなんてとても信じられなかったからだ。
隠された真実があるのなら、ハッキリさせるべきだろう。
(アイツだってそれくらいのこと分かっているはずだ……)
どうにかしてリーシャを助けたい。
そう思い、あらゆる手を使って彼女の無実を晴らそうとした。
が、しかし――
「………………何だと?」
リーシャが亡くなったのを聞いたのは、事件の調査を始めてすぐのことだった。
正式に判決が下る前に、王宮の地下牢で謎の死を遂げたらしい。
結局彼女の死は自殺と片付けられたが、私はそうは思わない。
リーシャが犯した罪に加え、何らかの陰謀が渦巻いているとしか思えなかった。
リーシャが亡くなってすぐ、エルフレッドは自身の子を二人産んだクロエに王妃の座を与えた。
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その事実に、国民たちは真実の愛だと沸き上がった。
とても気分が悪かった。
(何故……何故そんなに喜べるんだ……?)
たしかにリーシャは罪を犯したかもしれない。
しかし、元はと言えば全てエルフレッドが原因だ。
彼女が彼に何をしたというのか。
ただエルフレッドを愛しただけではないか。
「ああ……何てことだ……」
リーシャを助けられなかったことを酷く後悔した。
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