今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの

文字の大きさ
上 下
30 / 59

30 一度目の人生② ギルバート視点

しおりを挟む
王妃リーシャが王の寵愛を一身に受ける側妃クロエに嫉妬し、嫌がらせを繰り返した挙句投獄された。
私はそれを知ってすぐエルフレッドに会いに行った。


「エルフレッド、王妃を牢に入れたと聞いたが……何のつもりだ?」
「リーシャは罪を犯した。クロエと私の子を毒殺しようとしたのだから、当然のことだ。いくら王妃だろうと今回ばかりは特別扱いすることは出来ない」
「……お前」


呆れてものも言えなかった。
ポッと出の女のために、幼少期から自分を傍で支えてくれた女性を捨てるのか。


(……彼女をそこまで壊したのはお前ではないか。そのことを分かっていないのか?)


このとき、側妃クロエは第二子を妊娠中だった。
側室に先に子が生まれたという事実だけでも、正妻にとっては屈辱的なことだというのに。
エルフレッドはリーシャのことを全く気遣っていないらしい。


お前は一体これまで何を学んできたんだ。
彼女の何を見てきたんだ。


「エルフレッド、お前……自分が何をしているか分かっているのか?」
「……何の話だ?」


エルフレッドは顔を上げて私を見た。
私の言っていることが本当に分からないらしい。


「側室との間に先に子を儲けるだなんて……正妻の立場が無くなるとは考えなかったのか?」
「……」


エルフレッドはその言葉にじっと黙り込んだ後、口を開いた。


「仕方ないじゃないか、――私はクロエを……彼女を愛するために生まれてきたんだから」
「……何だと?」


そう口にしたエルフレッドの瞳は焦点が合っておらず、不気味だった。


(……エルフレッドは、こんなヤツだったか?)


幼い頃からエルフレッドという一人の人間を見てきたが、最近の彼はどこか様子が変だった。
エルフレッドだけはリーシャを信じていると思っていたが、私の勘違いだったようで、私がどれだけ説得を試みようともとうとう彼が正気に戻ることは無かった。


(このままリーシャを放っておくのは気分が悪いな……)


そう思った私は、事件の調査に乗り出すことを決めた。
エルフレッドを心から愛し、いつだって彼の幸せを願っていた心優しい彼女が毒殺を試みるだなんてとても信じられなかったからだ。
隠された真実があるのなら、ハッキリさせるべきだろう。


(アイツだってそれくらいのこと分かっているはずだ……)


どうにかしてリーシャを助けたい。
そう思い、あらゆる手を使って彼女の無実を晴らそうとした。
が、しかし――


「………………何だと?」


リーシャが亡くなったのを聞いたのは、事件の調査を始めてすぐのことだった。
正式に判決が下る前に、王宮の地下牢で謎の死を遂げたらしい。


結局彼女の死は自殺と片付けられたが、私はそうは思わない。
リーシャが犯した罪に加え、何らかの陰謀が渦巻いているとしか思えなかった。


リーシャが亡くなってすぐ、エルフレッドは自身の子を二人産んだクロエに王妃の座を与えた。
悪役王妃が死に、愛し合う二人が結ばれた。
その事実に、国民たちは真実の愛だと沸き上がった。


とても気分が悪かった。


(何故……何故そんなに喜べるんだ……?)


たしかにリーシャは罪を犯したかもしれない。
しかし、元はと言えば全てエルフレッドが原因だ。
彼女が彼に何をしたというのか。
ただエルフレッドを愛しただけではないか。


「ああ……何てことだ……」


リーシャを助けられなかったことを酷く後悔した。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

二度目の恋

豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。 王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。 満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。 ※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

10年もあなたに尽くしたのに婚約破棄ですか?

水空 葵
恋愛
 伯爵令嬢のソフィア・キーグレスは6歳の時から10年間、婚約者のケヴィン・パールレスに尽くしてきた。  けれど、その努力を裏切るかのように、彼の隣には公爵令嬢が寄り添うようになっていて、婚約破棄を提案されてしまう。  悪夢はそれで終わらなかった。  ケヴィンの隣にいた公爵令嬢から数々の嫌がらせをされるようになってしまう。  嵌められてしまった。  その事実に気付いたソフィアは身の安全のため、そして復讐のために行動を始めて……。  裏切られてしまった令嬢が幸せを掴むまでのお話。 ※他サイト様でも公開中です。 2023/03/09 HOT2位になりました。ありがとうございます。 本編完結済み。番外編を不定期で更新中です。

【完結】貴方の傍に幸せがないのなら

なか
恋愛
「みすぼらしいな……」  戦地に向かった騎士でもある夫––ルーベル。  彼の帰りを待ち続けた私––ナディアだが、帰還した彼が発した言葉はその一言だった。  彼を支えるために、寝る間も惜しんで働き続けた三年。  望むままに支援金を送って、自らの生活さえ切り崩してでも支えてきたのは……また彼に会うためだったのに。  なのに、なのに貴方は……私を遠ざけるだけではなく。  妻帯者でありながら、この王国の姫と逢瀬を交わし、彼女を愛していた。  そこにはもう、私の居場所はない。  なら、それならば。  貴方の傍に幸せがないのなら、私の選択はただ一つだ。        ◇◇◇◇◇◇  設定ゆるめです。  よろしければ、読んでくださると嬉しいです。

処理中です...