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25 憎悪 アイラ視点
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――幼い頃から、欲しい物は何だって手に入れてきた。
母親はしがない男爵家の令嬢で父親は公爵家の当主。
母は正妻では無かったが、それでも父の寵愛は私たちにあった。
実際、父は政略結婚で結ばれた妻の元へ帰ることはほとんどなく、多くの時間を私たち母娘と過ごしていた。
幼い頃は父に別の家庭があることなんて全く知らなかったし、二人は夫婦だと信じて疑わなかった。
しばらくすると本邸に住む正妻が死に、私たちは正式に公爵家へ迎えられることとなった。
そこでの生活は最高だった。
高価なドレスや宝石を身に纏い、最上級の暮らしを送る。
勉強なんてそんな面倒なことはしない。
私を溺愛する両親はそれを咎めることも無く、甘やかした。
本邸には正妻の子だという異母姉がいたが、私と違って父親に愛されずに育ったようだった。
母の話によると、異母姉の母親は父と母を権力で引き裂いた女なのだという。
私たちが幼少期、別邸で愛人とその子供として暮らさなければならなかったのも全てその女のせいだと。
それを聞いた私は母と共に姉を憎み、嫌がらせを繰り返した。
私たちだけを愛している父はそれを黙認した。
しばらくして、姉が王太子殿下との結婚により家を出た。
あの忌まわしい女が私よりも地位の高い王妃になるのだと思うと吐き気がしたが、すぐに私にとって喜ばしい知らせが入ってきた。
国王が側妃を迎えるのだと。
そして、その側妃を王は溺愛しているらしい。
父親から愛されなかった女は、夫となった人からも愛されることは無かったのだ。
思わず笑いそうになった。
あの悪女の娘なのだから当然だ。
(可哀相なお姉様……私は絶対にお姉様やその母親のようにはならないわ……お父様とお母様のように愛のある結婚をするのよ……)
姉は国王と結婚して既に家を出ている。
だからこそ残っている私が婿を取り、公爵家を継がなければならない。
「初めまして、公女様。ヘレイス侯爵家の次男、フリードと申します」
「……」
「……公女様?どうかなさいましたか?」
初めて婚約者候補として紹介された男は冴えない見た目の侯爵令息だった。
性格は良さそうだけれど、それ以外の全てが普通。
こんな男は私には相応しくない。
(あの女は国王と結婚したっていうのに……)
――何故私はこんな冴えない男と。
結局、私は終始無言のままその場を去った。
彼の全てが気に入らなかった。
こんな男と結婚して夫婦として仲良くやっていくなんて出来るわけがない。
それからも何度か身分の釣り合う男性と顔合わせをしたが、どれもパッとしない。
もう私に相応しい未婚の男はこの国にはいないのかもしれない。
そんなときに舞踏会で見かけたのが運命の彼だった。
「ヘンリー公爵様は今日もとても美しいわね……」
「あれで未婚だなんて信じられない……!」
いつものように隅っこで壁の花となっていると、近くにいた貴族令嬢たちの声がふと聞こえてきた。
(……ヘンリー公爵?)
社交界ではかなり有名な人物であるため名前を聞いたことはあるが、実際に見たことは無かった。
彼女たちが熱い視線を送っている先に目をやると、一人の男が目に入った。
「……!」
彼を見たとき、随分と衝撃を受けたのを今でも覚えている。
彼の顔立ち、立ち振る舞い、全てにおいてが私が夢に描いていた王子様そのものだったから。
一目で恋に落ちた。
この私が一目惚れをするだなんて。
それほどに素敵な人だった。
(……決めたわ、絶対にあの人を手に入れる。彼の妻になるのは私よ)
そう心に誓い、嫌悪する姉に頼み込んでまで彼とのお茶会をセッティングしてもらったというのに。
ついさっきギルバートに言われた言葉が頭をよぎる。
『ハッキリ言って公女様とは二度とお茶をしたくありません。私はこれで失礼します』
姉のリーシャが抜けた後、ギルバートは私と一言も言葉を交わすことなく立ち上がり、冷たくそう言い放って背を向けた。
引き留める隙さえ与えられなかった。
(どうして……私たちは運命の赤い糸で結ばれているのに……)
焦った私は、気付かれないように彼の後を追った。
そこで衝撃の光景を目撃することとなった。
――ギルバートとリーシャが二人きりで会っていたのだ。
「何であの女が……!」
いくらギルバートが公爵とはいえ、リーシャは既婚者で王妃だ。
これはれっきとした不倫ではないか。
怒りでどうにかなりそうだった。
国王に密告してやろうとも思ったが、ただでさえ社交界で評判の悪い私の言葉なんて信じないだろう。
リーシャと話すギルバートは、私には一度も向けることの無かった優しい笑みを浮かべている。
そして彼の横にしゃがみ込んでいたリーシャもまた、楽しそうに笑っていた。
二人の関係を知らない者であれば、相思相愛の恋人同士のように見えるだろう。
(あの女……やっぱりギルバート様を狙っているんだわ……!)
夫に愛されないからと、何て醜い女なのだろう。
今すぐにでも出て行ってあの二人を引き離したかったが、そんなことをしてしまえばさらに彼に嫌われるかもしれない。
僅かに残った理性が何とか私の暴走を抑えた。
しばらく二人を観察した後、ゆっくりと背を向けてその場を後にした。
(あの女……絶対地獄に堕としてやるわ……!)
そんなことを考えながら王宮の廊下を歩いていたとき、背後から私を呼び止める声がした。
「――あら、公女様ではありませんか」
「あなたは……」
振り返ると、そこにいたのは側妃だった。
身分が低いにもかかわらず国王の目に留まり、今現在王の寵愛を一身に受けている側妃クロエ。
女性なら全員が夢に見るような結婚をした、私の憧れの人でもある。
クロエは口元に笑みを浮かべながらゆっくり近付いてくると、宥めるように私の肩に手を置いた。
「よろしければ、お話を聞かせていただけませんか?」
「……」
母親はしがない男爵家の令嬢で父親は公爵家の当主。
母は正妻では無かったが、それでも父の寵愛は私たちにあった。
実際、父は政略結婚で結ばれた妻の元へ帰ることはほとんどなく、多くの時間を私たち母娘と過ごしていた。
幼い頃は父に別の家庭があることなんて全く知らなかったし、二人は夫婦だと信じて疑わなかった。
しばらくすると本邸に住む正妻が死に、私たちは正式に公爵家へ迎えられることとなった。
そこでの生活は最高だった。
高価なドレスや宝石を身に纏い、最上級の暮らしを送る。
勉強なんてそんな面倒なことはしない。
私を溺愛する両親はそれを咎めることも無く、甘やかした。
本邸には正妻の子だという異母姉がいたが、私と違って父親に愛されずに育ったようだった。
母の話によると、異母姉の母親は父と母を権力で引き裂いた女なのだという。
私たちが幼少期、別邸で愛人とその子供として暮らさなければならなかったのも全てその女のせいだと。
それを聞いた私は母と共に姉を憎み、嫌がらせを繰り返した。
私たちだけを愛している父はそれを黙認した。
しばらくして、姉が王太子殿下との結婚により家を出た。
あの忌まわしい女が私よりも地位の高い王妃になるのだと思うと吐き気がしたが、すぐに私にとって喜ばしい知らせが入ってきた。
国王が側妃を迎えるのだと。
そして、その側妃を王は溺愛しているらしい。
父親から愛されなかった女は、夫となった人からも愛されることは無かったのだ。
思わず笑いそうになった。
あの悪女の娘なのだから当然だ。
(可哀相なお姉様……私は絶対にお姉様やその母親のようにはならないわ……お父様とお母様のように愛のある結婚をするのよ……)
姉は国王と結婚して既に家を出ている。
だからこそ残っている私が婿を取り、公爵家を継がなければならない。
「初めまして、公女様。ヘレイス侯爵家の次男、フリードと申します」
「……」
「……公女様?どうかなさいましたか?」
初めて婚約者候補として紹介された男は冴えない見た目の侯爵令息だった。
性格は良さそうだけれど、それ以外の全てが普通。
こんな男は私には相応しくない。
(あの女は国王と結婚したっていうのに……)
――何故私はこんな冴えない男と。
結局、私は終始無言のままその場を去った。
彼の全てが気に入らなかった。
こんな男と結婚して夫婦として仲良くやっていくなんて出来るわけがない。
それからも何度か身分の釣り合う男性と顔合わせをしたが、どれもパッとしない。
もう私に相応しい未婚の男はこの国にはいないのかもしれない。
そんなときに舞踏会で見かけたのが運命の彼だった。
「ヘンリー公爵様は今日もとても美しいわね……」
「あれで未婚だなんて信じられない……!」
いつものように隅っこで壁の花となっていると、近くにいた貴族令嬢たちの声がふと聞こえてきた。
(……ヘンリー公爵?)
社交界ではかなり有名な人物であるため名前を聞いたことはあるが、実際に見たことは無かった。
彼女たちが熱い視線を送っている先に目をやると、一人の男が目に入った。
「……!」
彼を見たとき、随分と衝撃を受けたのを今でも覚えている。
彼の顔立ち、立ち振る舞い、全てにおいてが私が夢に描いていた王子様そのものだったから。
一目で恋に落ちた。
この私が一目惚れをするだなんて。
それほどに素敵な人だった。
(……決めたわ、絶対にあの人を手に入れる。彼の妻になるのは私よ)
そう心に誓い、嫌悪する姉に頼み込んでまで彼とのお茶会をセッティングしてもらったというのに。
ついさっきギルバートに言われた言葉が頭をよぎる。
『ハッキリ言って公女様とは二度とお茶をしたくありません。私はこれで失礼します』
姉のリーシャが抜けた後、ギルバートは私と一言も言葉を交わすことなく立ち上がり、冷たくそう言い放って背を向けた。
引き留める隙さえ与えられなかった。
(どうして……私たちは運命の赤い糸で結ばれているのに……)
焦った私は、気付かれないように彼の後を追った。
そこで衝撃の光景を目撃することとなった。
――ギルバートとリーシャが二人きりで会っていたのだ。
「何であの女が……!」
いくらギルバートが公爵とはいえ、リーシャは既婚者で王妃だ。
これはれっきとした不倫ではないか。
怒りでどうにかなりそうだった。
国王に密告してやろうとも思ったが、ただでさえ社交界で評判の悪い私の言葉なんて信じないだろう。
リーシャと話すギルバートは、私には一度も向けることの無かった優しい笑みを浮かべている。
そして彼の横にしゃがみ込んでいたリーシャもまた、楽しそうに笑っていた。
二人の関係を知らない者であれば、相思相愛の恋人同士のように見えるだろう。
(あの女……やっぱりギルバート様を狙っているんだわ……!)
夫に愛されないからと、何て醜い女なのだろう。
今すぐにでも出て行ってあの二人を引き離したかったが、そんなことをしてしまえばさらに彼に嫌われるかもしれない。
僅かに残った理性が何とか私の暴走を抑えた。
しばらく二人を観察した後、ゆっくりと背を向けてその場を後にした。
(あの女……絶対地獄に堕としてやるわ……!)
そんなことを考えながら王宮の廊下を歩いていたとき、背後から私を呼び止める声がした。
「――あら、公女様ではありませんか」
「あなたは……」
振り返ると、そこにいたのは側妃だった。
身分が低いにもかかわらず国王の目に留まり、今現在王の寵愛を一身に受けている側妃クロエ。
女性なら全員が夢に見るような結婚をした、私の憧れの人でもある。
クロエは口元に笑みを浮かべながらゆっくり近付いてくると、宥めるように私の肩に手を置いた。
「よろしければ、お話を聞かせていただけませんか?」
「……」
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