今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの

文字の大きさ
上 下
23 / 59

23 当日

しおりを挟む
「お姉様!早く行きましょうよ!ギルバート様が待っていますわ!」
「……十分時間を取ってあるんだから、そんなに急がなくてもいいわ」


お茶会当日。
これでもかと着飾った妹はウキウキしながら愛するギルバートとの茶会へと向かっていた。


(随分高そうなドレスを着ているのね……)


もちろん、私は両親にそんな高いドレスを買ってもらったことは一度も無い。
昔から私と妹の扱いにはかなり格差があり、アイラが使わなくなった物を与えられることだってあった。
以前はそんなどうしようもない親から愛されたいと願っていたが、今ではどうだってよかった。


「――あ、ギルバート様だわ!」
「……早いのね」


しばらく歩くと、お茶会の席に着いていたギルバートが視界に入った。
彼は私たちを見るなり立ち上がり、礼をした。


「――王妃陛下、お久しぶりでございます」
「ええ、久しぶりね。ヘンリー公爵」


先に私に挨拶をしたのが気に食わなかったのか、アイラが一瞬だけムスッとした顔になった。
しかしすぐに笑顔を浮かべると、私の前を塞ぐようにしてギルバートに駆け寄った。


「ギルバート様!」
「……公女様?」


突然前に出てきたアイラに、彼は眉をピクリとさせた。


(あれだけヘンリー公爵様とお呼びしなさいと言ったのに……)


彼女なりに距離を縮めようとしているのだろうが、彼にとっては逆効果だったようで、不快感を隠せていない。


「私、アイラ・スイートって言います!ギルバート様と親しくなりたいと思って来たんです!」
「……そうでしたか」


ギルバートは紳士的な人だから口元に笑みを携えてはいるが、目が恐ろしいくらい笑っていない。
しかし当の本人はそんなこと気付きもせず、彼にキラキラした眼差しを送っている。


(……会わせない方が良かったかしら)


今になってそう思い始めるものの、全てが遅すぎた。






***





三人揃って席に着き、茶会が始まった。


「二人とも、今日は私の招待に応じてくれて感謝するわ」
「当然のことでございます、王妃陛下」
「別に私はお姉様のために来たわけじゃありません。勘違いしないでください」


ギルバートのカップを持つ手がピタリと止まった。


(……好きな人の前でくらい猫被りなさいよ)


「……久しぶりに顔を見れて良かったわ。元気にしていたかしら」
「はい、おかげさまで」
「嘘つかないでください、お姉様。本当は私とお母様のことを嫌っているくせに心配するフリをするだなんて」


カップを手に、固まったままの彼の目が冷たくなった。


(……お願いだから黙っていてくれないかしら)


何故、彼女はこうもせっかくの機会を台無しにするのだろうか。
口を閉じていれば可愛いものを。


「ところで、ヘンリー公爵は……」
「ちょっとお姉様!私を置いてギルバート様に話しかけないでください!」
「……」


ついにギルバートの顔から見せかけの笑みが消えていく。
このお茶会を経て、アイラがこれまで縁談を断られ続けていた理由がよく分かったような気がする。


(いい加減にしてほしいわ)


本当に彼の婚約者になる気があるのだろうか。
クロエに似ていると思っていたが、彼女以上かもしれない。


「ギルバート様、これすっごく美味しいですよ!」
「……」


とうとう彼が黙り込んでしまった。
しかしアイラはそんなこと気にも留めずに猛アタックを続けている。


(この子、不快な思いをさせていることに気付いていないのかしら……)


そういうところがあの愚かな父母によく似ている。
あの二人から生まれたのだからこうなって当然か。
だから彼女がこうなったのは仕方が無いのだと、そう思うことにした。


それから少しして、アイラがギルバートに気付かれないよう私に目配せをした。


(……出て行けということかしら)


何だか気まずくなってしまったため、素直にその指示に従うことにした。
アイラも二人きりならもう少し礼儀正しくなるかもしれないし、こうするのが正しいのだろう。


「ヘンリー公爵、アイラ。私は用を思い出したから少し失礼するわ」
「あらぁ、残念ですねお姉様」
「……陛下?」


私はそのまますぐに彼らに背を向けて歩き出した。


(後はお二人でどうぞ)


今のところかなり絶望的ではあるが、応援するだけしてみよう。
駄目なら駄目でアイラも諦めがつくかもしれないし。
そんなことを考えながら、私は一人になるためにこの場を離れていく。


――そんな私の背中をギルバートがじっと見つめていることに、このときの私が気付くことは無かった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

二度目の恋

豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。 王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。 満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。 ※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

白い結婚をめぐる二年の攻防

藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」 「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」 「え、いやその」  父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。  だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。    妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。 ※ なろうにも投稿しています。

【完結】貴方の傍に幸せがないのなら

なか
恋愛
「みすぼらしいな……」  戦地に向かった騎士でもある夫––ルーベル。  彼の帰りを待ち続けた私––ナディアだが、帰還した彼が発した言葉はその一言だった。  彼を支えるために、寝る間も惜しんで働き続けた三年。  望むままに支援金を送って、自らの生活さえ切り崩してでも支えてきたのは……また彼に会うためだったのに。  なのに、なのに貴方は……私を遠ざけるだけではなく。  妻帯者でありながら、この王国の姫と逢瀬を交わし、彼女を愛していた。  そこにはもう、私の居場所はない。  なら、それならば。  貴方の傍に幸せがないのなら、私の選択はただ一つだ。        ◇◇◇◇◇◇  設定ゆるめです。  よろしければ、読んでくださると嬉しいです。

10年もあなたに尽くしたのに婚約破棄ですか?

水空 葵
恋愛
 伯爵令嬢のソフィア・キーグレスは6歳の時から10年間、婚約者のケヴィン・パールレスに尽くしてきた。  けれど、その努力を裏切るかのように、彼の隣には公爵令嬢が寄り添うようになっていて、婚約破棄を提案されてしまう。  悪夢はそれで終わらなかった。  ケヴィンの隣にいた公爵令嬢から数々の嫌がらせをされるようになってしまう。  嵌められてしまった。  その事実に気付いたソフィアは身の安全のため、そして復讐のために行動を始めて……。  裏切られてしまった令嬢が幸せを掴むまでのお話。 ※他サイト様でも公開中です。 2023/03/09 HOT2位になりました。ありがとうございます。 本編完結済み。番外編を不定期で更新中です。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...