今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの

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19 彼の秘密

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「どうして、私を助けてくれたの?」
「……王妃陛下」


パーティーが終わりに近付いた頃、私は一人外へ出ていたギルバートに声をかけた。
王宮の庭園で一人佇んでいた彼は、私の問いに答えるようにボソリと呟いた。


「助けた理由……実は私もよく分からなくて……」
「……どういうこと?」


彼らしくない、不思議な回答だった。


(分からないって……貴方は側妃クロエのことが……)


ギルバートは過去二度の人生、両方において側妃クロエに思いを寄せていた。
そんな彼が、公衆の面前で私を庇うような発言をしたのだから驚くのも無理はない。


「……とにかく、助けてくれたこと感謝するわ。どんな理由があろうと貴方に救われたのは事実だから」
「いえ、私は……」


そこまで言いかけると、ギルバートは私に一歩近付いた。


「正しいことをしたまでです。お気になさらないでください」
「助かったわ、本当にありがとう」


礼を言うと、彼の口角が少しだけ上がった。


(私情を挟むことなくどちらが正しいかを冷静に判断できるなんて……私の夫とは大違いね……)


もちろん、エルフレッドが私の味方をしたこともとても驚いたけれど。
前世での彼ならきっとクロエの肩をもっていただろう。
私が変わったから、エルフレッドやクロエも変わってしまったのだろうか。


「王妃様……」
「……公爵?」


彼はそのまま私の前まで来ると、そっと頬に手を触れた。


「王妃様は……側妃様が憎くありませんか?」
「別に憎くないわ」
「そうですか……私は憎いです、あの方が」
「……」


愛する人を憎たらしく思うだなんて。


(辛いんだわ……クロエがエルフレッドを選んだから……)


一度目、二度目の人生では私だってクロエに惹かれたエルフレッドが憎かった。
私がどれだけ頑張っても手に入れられなかった物を彼女は全て彼から受け取っていたから。
そしてその憎悪は肥大し、クロエに危害を加えるようになった。
一度目の人生ではそれが私を破滅へと導いた。


だからギルバートの気持ちが理解出来ないわけでもない。
もっとも、いつも冷静な彼と感情を抑えきれなかった私では天と地の差があるが。


ギルバートはしばらく考え込むような素振りを見せた後、小さな声で呟いた。


「――貴方はいつだって予測出来ない行動を取るんですね。……………前回も、その前も」
「………………え?」


それを聞いた瞬間、心臓がうるさいくらいに音を立てた。
一瞬彼が何を言っているのか理解出来なかった。


(前回……?その前……?)


何の感情も映していないその瞳から目を逸らすことが出来ない。
もしかして、彼も私と同じで――


「貴方、一体何者……」
「――リーシャ!!!」


そこで私たちの間に割り込んできたのは慌てた様子のエルフレッドだった。


「陛下……」
「ギルバート!リーシャと二人で一体何を話しているんだ!」


エルフレッドがこちらへ来る頃には、彼の手は既に私の頬から離れていた。


「落ち着いてくれ、エルフレッド。王妃様はたださっきの騒動での礼を言いに来てくださっただけだ」
「礼……?」


エルフレッドは訝し気に私たち二人を交互に見つめた。
本当は少し違ったが、面倒事にしたくなかった私はギルバートの言葉にコクコクと頷いた。


「そうか……」


エルフレッドは渋々納得したようだった。


「……しかし、こうやって人気の無いところに二人きりでというのは周囲からの誤解を招いてしまう。今後は控えるように」
「分かったよ」
「はい……」


返事をすると、エルフレッドは私の手を掴んで引っ張った。


「え、陛下!?」


驚いた顔でエルフレッドを見つめるが、彼は無言のまま私の手を引いてどこかへと歩いて行く。


(急にどうしたというのよ……)


突然の彼の行動に驚きを隠せない。
手を引かれている途中でふと後ろを振り返ると、ギルバートは無表情で私たちをじっと見つめていた。




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